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85 決めたこと③
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ユージンがマグナスに手紙を送り、やけに速く公爵家へと到着したと思ってはいたが、事前に把握していたからこそいつでも出発できるように準備していたからかとユージンは納得した。
だがセドリックを実際に見たマグナスとルーティは怒りに唇を震わせていた。
セドリックの状態を言葉では知ってはいたが、詳細までは伝えられていなかったのだろう。
ユージンが見た時にはかなり深刻な状態に見受けられたため、ユージンはそう考えた。
『僕が手紙を送るまでは、ということは見つかったのですか?』
『見つかった。だが連れてくることはできなかった』
『それは何故ですか』
『既にこの世にいないからだ』
ユージンはマグナスの言葉に目を見開いた。
作業員の証言がなければ証拠として不十分。
実際の作業について言及したとしても、監督不行き届きとして今は亡き作業員たちに罪が乗せられるだけだ。
それでは何も悪くない亡くなった者と残された家族が不幸になるだけ。
ユージンはそこまで考えるとハッとセドリックに顔を向けた。
『……まさか、あの女に嘘の証言をさせるつもりですか…?』
示談による取引材料としてイマラの罪を法に従って裁かないと約束する。
だからこそ、セドリックは“不起訴処分とする”と告げたのかとユージンは思った。
『そうだ』
『ではあの女の罪はどうなるのですか!?』
ユージンは声を荒げる。
確かにデメトリアを亡くす要因となったジョニー・マントゥールに罪を償わせたい気持ちは理解した。
だがイマラを無罪放免とするのは違うとユージンは考える。
『……どうやら勘違いをしているようだな』
眉間を顰め睨むユージンにセドリックは軽く息を吐きだした。
『勘違い、ですか?』
『そうだ』
オウムのように繰り返すユージンにセドリックは頷く。
そしてユージンの隣に座っていたマグナス『そういうことか』と呟いた。
『……どういうことですか?』
不思議そうに首をかしげるユージンにマグナスは説明する。
『この国では犯罪による処分の方法が二通りあるんだよ。
一つは国、つまり王族もしくは神殿が主体となり執り行われる神命裁判。二つ目は領地貴族が主体の領地裁判だ。
基本的には領地内で起こった事はその領地を治める貴族に判断を任せるというものが領地裁判だが、領地裁判だけでは決着がつかない場合、または国を揺るがす事案がある場合神命裁判が行われる』
“神命”とは神の命令という意味であるが、国のトップである王族を神として崇めていた頃の名残が今でも残っていた。
勿論王族の言葉には強い力が働くが、それでも現代は罪を犯した王族を戒めるために神殿にも権力を持たせている。
その為王族もしくは神殿が執り行う裁判を神命裁判と呼ばれていた。
『イマラは王家に仕えるデクロン公爵当主である私を殺害しようとした、またデクロン家の血を継がない者を次期後継者とするべく本来の後継者であるユージンを殺害しようとしたこと、殺害が失敗に終わると反王家派の低位貴族へとお前を降下しようとしたことは立派な国家転覆を測ったものとして十分に起訴は可能だ』
『だが神命裁判も開くためには特別な場合を除き手順が決まっている』
『……領地裁判、ですよね』
ユージンはセドリックとマグナスに加わるように言葉を告げる。
ユージンはなにも領地にいる間体ばかりを鍛えていたわけではない。
事業を起業するために必要な知識を得るために、先ほどセドリックとマグナスが話した裁判の仕組みについても知識は得ていた。
そして、そんなユージンにセドリックは満足そうに口角を上げる。
『その通りだ。私はイマラを不起訴処分にすると告げたが、それは神命裁判の話であり、領地裁判に関して告げたものではない。
イマラにはお前や私の死を望み、実行したその償いをしてもらうことは絶対だ』
「まぁ裁判を行う以前よりイマラの罪は明白だがな」と告げるセドリックにユージンは安堵した。
話の流れでそうだろうなとわかっていたが、それでも言葉にしてもらう安心感から力を抜く。
『……それならば構いません。父上の決定に従います』
こうして異議がないことを確認したセドリックは話し合いの場を終わらせたのだった。
■
だがセドリックを実際に見たマグナスとルーティは怒りに唇を震わせていた。
セドリックの状態を言葉では知ってはいたが、詳細までは伝えられていなかったのだろう。
ユージンが見た時にはかなり深刻な状態に見受けられたため、ユージンはそう考えた。
『僕が手紙を送るまでは、ということは見つかったのですか?』
『見つかった。だが連れてくることはできなかった』
『それは何故ですか』
『既にこの世にいないからだ』
ユージンはマグナスの言葉に目を見開いた。
作業員の証言がなければ証拠として不十分。
実際の作業について言及したとしても、監督不行き届きとして今は亡き作業員たちに罪が乗せられるだけだ。
それでは何も悪くない亡くなった者と残された家族が不幸になるだけ。
ユージンはそこまで考えるとハッとセドリックに顔を向けた。
『……まさか、あの女に嘘の証言をさせるつもりですか…?』
示談による取引材料としてイマラの罪を法に従って裁かないと約束する。
だからこそ、セドリックは“不起訴処分とする”と告げたのかとユージンは思った。
『そうだ』
『ではあの女の罪はどうなるのですか!?』
ユージンは声を荒げる。
確かにデメトリアを亡くす要因となったジョニー・マントゥールに罪を償わせたい気持ちは理解した。
だがイマラを無罪放免とするのは違うとユージンは考える。
『……どうやら勘違いをしているようだな』
眉間を顰め睨むユージンにセドリックは軽く息を吐きだした。
『勘違い、ですか?』
『そうだ』
オウムのように繰り返すユージンにセドリックは頷く。
そしてユージンの隣に座っていたマグナス『そういうことか』と呟いた。
『……どういうことですか?』
不思議そうに首をかしげるユージンにマグナスは説明する。
『この国では犯罪による処分の方法が二通りあるんだよ。
一つは国、つまり王族もしくは神殿が主体となり執り行われる神命裁判。二つ目は領地貴族が主体の領地裁判だ。
基本的には領地内で起こった事はその領地を治める貴族に判断を任せるというものが領地裁判だが、領地裁判だけでは決着がつかない場合、または国を揺るがす事案がある場合神命裁判が行われる』
“神命”とは神の命令という意味であるが、国のトップである王族を神として崇めていた頃の名残が今でも残っていた。
勿論王族の言葉には強い力が働くが、それでも現代は罪を犯した王族を戒めるために神殿にも権力を持たせている。
その為王族もしくは神殿が執り行う裁判を神命裁判と呼ばれていた。
『イマラは王家に仕えるデクロン公爵当主である私を殺害しようとした、またデクロン家の血を継がない者を次期後継者とするべく本来の後継者であるユージンを殺害しようとしたこと、殺害が失敗に終わると反王家派の低位貴族へとお前を降下しようとしたことは立派な国家転覆を測ったものとして十分に起訴は可能だ』
『だが神命裁判も開くためには特別な場合を除き手順が決まっている』
『……領地裁判、ですよね』
ユージンはセドリックとマグナスに加わるように言葉を告げる。
ユージンはなにも領地にいる間体ばかりを鍛えていたわけではない。
事業を起業するために必要な知識を得るために、先ほどセドリックとマグナスが話した裁判の仕組みについても知識は得ていた。
そして、そんなユージンにセドリックは満足そうに口角を上げる。
『その通りだ。私はイマラを不起訴処分にすると告げたが、それは神命裁判の話であり、領地裁判に関して告げたものではない。
イマラにはお前や私の死を望み、実行したその償いをしてもらうことは絶対だ』
「まぁ裁判を行う以前よりイマラの罪は明白だがな」と告げるセドリックにユージンは安堵した。
話の流れでそうだろうなとわかっていたが、それでも言葉にしてもらう安心感から力を抜く。
『……それならば構いません。父上の決定に従います』
こうして異議がないことを確認したセドリックは話し合いの場を終わらせたのだった。
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