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しおりを挟むリサは苦虫を噛んだような辛そうな表情を浮かべた。
ドラゴンは何故リサがそのような表情を浮かべるのかがわからなかった。
『何故吾に悪いと思っているのだ?』
「え、だって、……私はいい人じゃないから。それにアナタを利用しようとしている」
『それは吾が望んだことだ。それに借りを自分の手で返そうとするメスは大変美しいぞ。吾は自分の番が美しすぎて胸が張り裂けそうに高鳴っているのだ』
「……そういう、もの、なの?」
リサは戸惑いながらもドラゴンを見上げた。
ドラゴンはやはり綺麗な笑みでリサを見つめ頷いた。
リサはドキドキと高鳴る心臓の音に見惚れていた自分に気付くと咄嗟に俯く。
だが俯いたことで、ドラゴンの手から血が出ていることに気付いたリサはドラゴンの手をすくい上げた。
「…ちょ、血が出ているじゃない!」
『ん、……あぁ、もうなんともない』
「なんともないって……、血が出ているのよ?」
まるで自分のことのように心配するリサの様子にドラゴンは胸が温かくなる。
そしてドラゴンはリサに手を開いてみせた。
血で見づらかったがドラゴンの掌には傷というような傷はなく、本当に“なんともない”状態にリサは首をかしげる。
『龍は治癒能力が高いのだ。多少の傷はすぐに治る』
「……ということは怪我をしたことは事実なのね。どうして怪我をしたの?」
『……』
ドラゴンはリサの問いに眉を顰めると顔を反らした。
リサはそんなドラゴンの仕草に小さな痛みを胸に感じる。
(私にはいえないことなのね……)
『い、言いたくないわけではない!……ただ、馴れ馴れしく吾の番に言い寄る輩を見て嫉妬したのだ……それが、吾自身が小さいように感じられ……好ましい雄として見られないのではないかと不安だっだ……』
ドラゴンは俯きがちに体を縮めると、ドラゴンよりも背の低いリサと再び視線が合い、ふいっと顔を逸らせた。
悲しげに、そして自信なさげなドラゴンにリサは心が温かくなるのを感じる。
(そっか……、この人は私のことが好きなのね)
リサは自身が幼かった頃、無条件にリサを慕いそばにいてくれた弟のような存在、カイルのことを思い出していた。
大好きだと毎日のようにリサに伝えたカイル。
リサ本人よりもリサのことを心配したカイル。
毎日ずっと一緒だったカイルだったが、カイルの意思でリサから離れた時があった。
それはおねしょをしたときだ。
リサよりも年下で、実験場にいた子どもたちの中では一番の最年少であるカイルはその幼い年齢から寝ている間尿意を我慢できなかったことがあったのだ。
[おねしょしたことを知られて、お姉ちゃんに嫌われたくなかったんだ]
必死に誤魔化しつつ、リサから距離を取り、セザールに後始末を頼んでいた際にリサに見つかってしまったカイルはそういった。
その姿が今リサの目の前にいるドラゴンと重なって見えたのだ。
不安な気持ちを隠そうとはしたものの嘘はつかず、素直に話してくれたその姿が、リサには好ましく思えた。
だからこそリサはドラゴンからの好意を信じられ、そして疑うことなく受け入れられた。
例えリサが目覚めてからドラゴンとの交流が一日も経っていなくとも、関係なかった。
「好ましくないだなんて思わないわ」
『だが、…』
「嫉妬したということはそれだけ私のことが好きだってことでしょ?私は嬉しい。勿論この言葉が嘘なんてついていないことは貴方が一番わかるでしょう?さっきも私が悲しんでいると知って、教えてくれたのだから」
リサの言葉に嘘偽りなど含まれていないと知ったドラゴンは頬を緩めた。
血がついた掌を服の布で適当に拭うと、リサの頬に手を伸ばす。
そして暫く見つめ合った二人の雰囲気を壊すかのように鳥が鳴いた。
リサはハッと我に返りドラゴンから距離を取る。
赤く染まった顔を隠すように顔を背けたリサにドラゴンは目を瞬いた。
「は、早くセザールを追いかけなきゃ!」
それが本来の目的であるもののリサの心はドラゴンが占めていた。
(どうしてこんなにドキドキしてるの!?)
まだ出会ってから一日も経っていない、とはいってもドラゴンにとっては十年もの間リサを看病し続けていたために
、目覚めない番に不安な一方、自身の手で番を守っているという充実感が確かに執着と愛情を育んでいた。
だがリサにとっては目覚めてから間もない異性であり、確かにカイルに対して感じたような親愛の気持ちは芽生えたが恋情ではないと思っていたために、ドラゴンと見つめ合い、まるで愛し合う二人のような雰囲気に気づいた瞬間ドキドキと忙しなく動く心臓にわけがわからないでいた。
そしてリサの心を読めるドラゴンは、意識し始めるリサに喜びを感じていた。
リサが目覚めるまで看病し続けていた時に感じた充実感とはまた違う胸の高鳴りに、自然と頬がゆるむ。
『……そうだな。早く向かおう』
正直自分以外の男性に意識を向ける番に対してドラゴンはいい感情を抱いていなく、また番を傷つけた男性を八つ裂きにしたい気持ちがあふれていたが、それでもリサの抱える憎しみを思うとドラゴンはぐっと堪えるしかなかった。
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