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しおりを挟む「この町に来る前、あなたが暮らしていた町を見たの。皆血相を変えて貴方を探していたところをみて、ただ事じゃないと思ったわ。あなたがなにか悪いことをしでかしたんだと、私はそう考えた」
リサ自身の目と耳で実際に確認したわけではなかったが、ドラゴンから教えられた情報とリサの考えを合わせて言葉にした。
セザールが開発した薬は確かに凄い効果を持っていた。
どんな傷も病も治してしまうその薬は、世界中の人々が求めるような、奇跡の薬に近い。
だからこそ人々は称賛し、セザールを敬った。
だがそんな薬が、実は人を人でなくす、悪魔のような薬であることがわかれば、普通の人間ならば喜ぶことは出来ない。
実際にひどい状態に陥ってしまった祖母を目の当たりにした少女はこう思った。
“あんなふうになりたくない”
そしてドラゴンが与えた力によって、少女の心は町民全てに知れ渡り、軽く考えていた人々たちは老婆を見て少女の気持ちに賛同する。
だからこそ、短い期間の間で原因であるセザールに負の感情が向けられることは当然の流れだ。
「ハッ、なにをいうんだ。僕はあの町では救世主のような存在だ。未知の病も直してきたんだからな。それなのに僕を悪人だと探すわけがないだろ!」
今町がどのような状態になっているのか、そんなことを一切知るよしもないセザールはリサの言葉を鼻で笑った。
「そう、この薬。私の能力を混ぜた薬の効果はとても偉大なものだけど、逆を言えば普通の人には強すぎる薬。ドラゴンの伴侶として生きる運命を持った私とは違い、人には到底耐えられない能力を薬を通して与えられたのではないか、そう考えた時、町の人たちの様子に納得したの。だって人間には強すぎる薬は毒だもの」
「…は、…お前自身、、その力がどれだけ人を救ったのか、…わかっているのにそんなことを言っているのか!?」
「多くの人を人でなくしたあなたは私が手をくださなくても罰が与えられる。あなたも私を一方的な裁判で処刑した。貴方の手は汚さずにね。だから私も私の手を汚さずにあなたに罰が与えられるのなら、それでいいと思えたの」
「だから何を言ってるんだ!?僕が毒を作った!?僕の薬は最高傑作だ!どんな怪我も病も治る素晴らしい作品だ!それなのに何故僕に罰が下ると言える!?称賛されることはあっても僕が処刑されることはない!!」
セザールは噛み合わないリサとの会話に声を荒げた。
知っているものと知らないものの話が成立することがないように、リサとセザールの会話も当然噛み合わない。
リサは静かにセザールを見下ろす。
冷静なリサとは反対にセザールは本気で怒っているようだった。
「そうね。本当に“薬”を作ったのなら称賛されるわ。だけど違う。貴方は薬なんて作っていないのよ」
「僕は薬を作った!だからこそ僕は求められてきたんだ!ただの材料だったお前なんかとは違う!僕がいたから救われた!助けられた命があった!何もできないお前とは根本から違うんだよ!」
「……あなた、自分の薬を使ったことはある?」
汚い言葉でリサを罵倒するセザールに、リサは動じることもなく尋ねた。
一瞬ポカンとした表情を浮かべたセザールだったが、すぐに口角を上げて唾を飛ばしながら話し出した。
「アハハハ!そうだったな!お前だけが僕の薬を使うことはなかった!!だがそれも当たり前のことだろう!?お前には不要な薬だったのだから!」
「そう、あなたも使ったのね。この薬を」
「ッ、そうだ!製作者として薬の効果もわからないまま売れるわけがないからな!」
「いいのよ。たくさん使ってくれた方が都合がいいもの」
「は?」
リサはそれだけいうと口元を隠していた扇を下ろし、足首を切断した時と同じくセザールの両腕を切り落とした。
「ア"ア"ア"ア"ァア"ァア"ア"ア"!!!!!!」
リサはあがる悲痛な悲鳴に眉を顰め、瓶の中に残る僅かな薬をセザールに掛けるとその声をやめさせる。
だが両腕まで失った衝撃に心が耐えられなかったのか、セザールは意識を失い気絶していた。
心臓と目により近い腕を切断され、吹き出す血飛沫を目の前で受け止めるのは流石に難しかったのか、セザールは気絶するだけでなく失禁し、股間部分がじんわりとしみていた。
そんな姿を見ては流石に近づきたくもないリサは無意識のうちに後退する。
「さぁ、残すのは仕上げだけね」
『そうだな……だが本当にこれだけでいいのか?』
ドラゴンはリサに問いかけた。
両腕と両足を切断したものの、リサは耳障りなセザールの悲鳴に耐えかね、リサの再生能力が込められている不死に近い能力を備えた薬をかけている。
つまりは足も腕も、切り落とした一瞬の間だけの痛みが現状の罰であり、あまりにも温情を与えた扱いに、リサの復讐は本当にこれでいいのかと疑問だったのだ。
「ええ、大丈夫よ。私が見たいのはこの先の光景だから」
『………そういうのならこの場は引こう。だがもし望む結末を迎えなかった場合はいつでも行ってくれ。吾はこの者が生きていること自体許せないのだから』
「ありがとう。でもせっかくこの薬を飲んだというのだから、もっと味わってもらいたいの。効能だけでリスク確認を行わなかった。将来どのような結末を迎えるのか、そんなことまで考えない男の正体を知ったあの町の人たちはきっと私の考え通りに動いてくれるはずだわ」
リサは伸ばされたドラゴンの手に重ねると、柔らかく微笑んだ。
番を苦しめたことへの恨み、憎しみがドラゴンの中で渦巻いていたが、リサの笑みを見るとそんな気持ちも落ち着きを取り戻したように沈んでいく。
だがその気持ちは消えることはない。
この男が無残な死を迎えることなく命の灯を消そうとしたときは、必ずとどめを刺してやる。そのように考えていた。
そしてリサとドラゴンはセザールを魔法で浮かせると、そのまま空高く浮かんだ。
真っ黒に染まる空に輝く金髪の二人は月明かりに照らされたが、次第に雲が月を覆い、二人を闇の中に隠す。
二人と一人が飛び去った後、残されたのは大量に飛び散った血だけであり、ドラゴンが作り上げた壁やがれきはきれいに消し去った為に、不自然に途切れた血痕は見る者を悩ませた。
一体ここでなにがあったのか。
ドラゴンが張った結界によって詳細は誰にも知られることはなかった。
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