金眼の復讐

あおくん

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声を荒げる領主にセザールの困惑は止まらない。
そして罵倒を続ける領主の後方から、ローブで隠してはいるが明らかにガタイのいい体の男が前に出る。

「そろそろいいだろうか」

「も、申し訳ございません、魔法使い様」

魔法使いと呼ばれた男はフードをとると、セザールの前にしゃがみこみ視線を合わせた。

魔法使いはセザールを探すため、そして自分が仕えている王に報告するために町を出ていたのだが、セザールの消息がもし分かれば連絡してくれと通信具を領主へと渡していたのだ。
領主は騎士がセザールを連れてきたことがわかるとすぐに魔法使いへと連絡した。
セザールを匿うような態度を取った瞬間、領地全体を見放されてしまうからだ。
セザールが作ったわけがわからない薬を利用してしまったことから、恨みを晴らすよりも前に、頼るべき先は薬のリスクに気付いた魔法使い、そして国を治める国王のみであることを理解し、連絡した。
このまま力を借りることが出来なければ、領地は領民ごと見捨てられてしまうだろうからである。
自分の中で蠢く負の感情を優先させることなく、領主としての行動をとったのだ。

魔法使いはセザールへと目を合わせると、老婆や領主にもかけた鑑定の魔法でセザールの状態を確認した。
セザールは突然現れた魔方陣に慌てふためきながら、まるで生娘のように声を上げる。

「……極めて健康体だな。四肢が切り落とされても体への影響はほぼない。だからこそ、平然とした態度を取れるのだろう。……だがそれも全ては薬の効能か」

「……よくわからないが、僕の薬が認められているということですね!」

セザールは目を輝かせた。
初めて見た突然の魔法に驚きはしたものの、自身の体の状況を教えてくれて、且つセザールが開発した薬への称賛の言葉に嬉しいという感情が沸き起こる。
セザールは領主が敬語で接していた姿をみたことで、魔法使いというよくわからない存在に下手に出ていたが、薬の在庫を尋ねられ、立場を逆に認識してしまう。

「お前の作った薬はどこにある」

「薬が欲しいのですか!本来なら一見様はお断りなんですがここは領主様の顔を立てて、一つxxxxx万ゼニーでいかがでしょうか!?」

魔法使いへ値段の交渉をするセザールに領主の顔色は悪くなる。

この国における魔法使いは、王家直属の騎士団と同じ立場にある魔塔という所属に属しているのだが、実際には独立したようなものである。
というのも魔塔への支援金は半数以上が王家が持ち、残りの支援金は所属する貴族が賄っている状態だ。
その為魔塔は王家からの依頼事は拒まない。
何故なら金の援助を受けているからだ。
だが、逆を言えばそれだけである。
実験に使う素材をそろえるのも、自身で行うことが出来る魔法使いは必ずしも支援金を必要としない。
また通信具のように魔道具を開発し、一般向けへと製品化をすれば利益を生むことが出来る。
つまり王家からの支援金を断ることは容易ではあるが、それをしないのは全て効率優先の為であった。
己が動けば金は不要だが、実験をするための時間が失われる。
過ぎてしまった時間を取り戻すことはできないことをわかっているため、魔塔は王家からの支援金を受け取っているのだ。
だからこそ魔塔所属の魔法使いは王家の指示に“従う形をとる”。

そして魔法使いはセザールの発言に眉を顰めた。
誰に向かって値段交渉をしているのか。
悪魔が作ったのではないかと思われるその薬は確かに研究対象物としては最高の品物だが、必ずしも欲しいとは思えなかった。
それは何故か。
魔法使いは鑑定をした際、薬に血液の成分が含まれていることを知っているからだ。

研究は楽しい。
知らないことに対する知識が深まる感覚、
そして自身が未知の力を習得し、実際に操る感覚は言葉では表せないくらい感動を与えてくれる。

だが人の倫理を踏み外すことも同時にありえないと考えているのだ。
罪もない人を無意味に殺すこと。
それに準じた行為。
それだけはしたくなかった。

薬に血液が使われているとわかった魔法使いは吐き気を覚えた。
こんなものを体に取り入れるのか、と。
そもそもこんな非道徳的な薬を生み出すその思考にも不快感を示した。

だからこそセザールの薬は魔法使いにとって“研究対象”にはならなかった。
人の倫理を踏み外した品物ものだったからだ。

「………ふざけるなよ」

魔法使いは怒りに震えた。
そしてセザールの首筋にピンと伸ばした手を当てた。

血の通った手は当然温かい筈なのに、セザールの首筋に触れる魔法使いの手は何故か冷く硬い。
まるで刃物でも押し付けられているかのような感覚だった。

セザールは一瞬にして恐怖に震え、小刻みに歯を鳴らしながら魔法使いの問いに答えた。

「薬はどこにある

「く、薬は、●●●町にある、や、宿に」

「宿の名前は」

「ま、マルハゲ屋だ」

魔法使いはセザールから薬のありかを尋ねると手を退けた。
セザールはほっと安堵の息をつく。
だが、安堵したのも束の間、セザールの襟元を掴む形で持ち上げられた。
「ぐえっ」とまるで潰されたカエルのような声を上げるセザールを気にする素振りもなく魔法使いは領主へと振り返る。

「領主よ、この者の身柄は私が預かる。そして協力感謝する」

「は、はい…!」

領主は深く頭を下げた。
お願いしたいことはたくさんあったが、それは今ではないことを察しながら、魔法使いが姿を消すまでの間頭を下げ続ける。

そして己の状態を教えてくれたあの時のように、光を放ったその瞬間魔法使いは領主に告げた。

「お前たちはこの国の国民だ。魔塔の総力を挙げてこの薬に対抗する薬を開発しよう」

領主は魔法使いの言葉に顔を上げる。
すると魔法使いは既に魔法を発動させた後で、領主が顔を上げた時には満足に表情を伺うことが出来なかったが、それでも残された言葉が心に残った。

そして誰もいなくなった場所に向かって膝をつき手を合わせる。
領主は涙ながらに呟いた。

「……ありがとうございます。ありがとうございます……」

感謝の言葉は誰に聞かれるわけでもなく消えていく。
だが領主は心の底から何度も何度も呟いていた。





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