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7 そして皆ハッピーエンド
しおりを挟むさて、場面を変えよう。
エルリーナとアルフォンスが会場を抜けた後、兄であるベルガートとエルリーナの友であるコーデリアとクリスタは後を追いかけた。
混乱する会場の中で身動きすることが難しかったためか、三人が会場を出たのは二人よりだいぶ遅れての事だった。
「くそっ、エルリーナはどこにいったんだ」
パーティーが行われている会場がある場所は授業を受ける教室がある本館からは一直線でつながっているのだが、本館からは様々な場所へとつながっていた。
まず様々な催しが開かれる会場はもちろん、礼拝を行うためパイプオルガンまである礼拝堂や牧師室がある宗教施設、農業に対する研究・開発が出来るファーム施設、何万冊もの蔵書がある図書施設、剣術などの訓練を目的に使用される鍛錬場、そしてエルリーナとアルフォンスがいる庭園など様々な施設に繋がっていた。
その為二人を見失った彼らは二人がどこに向かったのかわからずにいたのだ。
広い学園の中別れて探すのは確かに効率的だが、二人を見つけた際に伝える術がない。
しかも三人のうち二人は女性である。
ベルガートは女性だけで行動させることは気が引けた。
会場から近い場所にある宗教施設を探した三人は、エルリーナとアルフォンスが見つからずにいることに焦りを見せ始める。
流石にアルフォンスがいるのだからエルリーナに悪いことは起こらないことはわかっているが、ひどく傷ついたような辛そうなエルリーナの表情を見たのだ。
早く見つけて傷ついたエルリーナを慰めてあげたいと思うのは、兄であるベルガートにとっては当たり前の感情であるし、コーデリアとクリスタも友を思う気持ちとして当たり前の感情である。
特にクリスタはエルリーナを意図していなかったとはいえ一度傷つけてしまったのだ。
そしてこれまた偶然であったがエルリーナの婚約者(仮)であるアルフォンスの腕の中に収まってしまった。
これはさすがにまずいと、傷つけるどうのの話ではないと、もう罪悪感なのか恐怖なのかわからない感情でいっぱいだった。
「あっ!」
そしてやっと見つけた二人は頬を赤く染めながら幸せそうに微笑みあっている場面であった。
____よかった。
三人の想いはシンクロした。
「どうやらおさまるところにところにおさまったようだな」
「そうですね」
ベルガートは心から安堵し、コーデリアも同じく胸を撫で下ろした。
クリスタもエルリーナの笑みを見ることができ安堵したが、同時に思った。
また謝るタイミングを逃してしまったと。
二人を微笑ましく見つめるベルガートとコーデリアに会場に戻ろうとクリスタが声をかけようとしたとき、あることに気付く。
女性である二人たちよりも多く駆け回ったベルガートが汗をかいていたのだ。
クリスタはピンと閃いた。
そしてそそっとコーデリアに近づき耳元で囁く。
最初は恥ずかしそうに慌てていたコーデリアだったが、クリスタに肘でちょいちょいと突かれ行動に移す。
「あ、あの…ベルガート様、これで汗を拭いてください」
コーデリアは四つ葉のクローバーが刺繍されたハンカチをベルガートに差し出した。
ベルガートはそのハンカチの刺繍を見てくすりと笑う。
「これは君が?」
「は、はい…」
「変わらないな」
「え?」
不思議そうに首を傾げるコーデリアにベルガートは話を続ける。
「まだ君が殿下の婚約者候補になりたての時だ。
殿下の婚約者は妹であると幼い君たちに告げられていた。
勿論、それを口外することは禁止されていたが……それでも結果が分かっている茶会は退屈でもあっただろう。
そんな時君は草をじっと見つめていた」
「あ、覚えていたんですね…」
「ああ、君のような令嬢は中々いないからな」
ふふっと笑いあう二人にクリスタは続きを促した。
まだ付き合ってはいないが、無意識にいい雰囲気を醸し出しいちゃつく二人には悪いが、クリスタは続きが気になったのだ。
そしてクリスタはコーデリアの刺繍をみていない。
なにが変わらないのかがわからなかった。
「それで、コーデリア様はなにが変わらないのですか?」
「ああ、コーデリア嬢は幼い頃から四つ葉のクローバーを探すのが好きな令嬢だったんだ。
妹を迎えに行った俺は、草をずっと眺める令嬢のことが気になり、どうしてじっと眺めているのかと尋ねたんだ。
そしてコーデリア嬢は…」
「“幸せがここにあるのです!わたくし、お父さまとお母さまに王宮でみつけた幸せを土産にもってかえりたいとおもっていますの!”…でしたわね」
「ああ。幼い頃にそういった令嬢がハンカチにも自ら刺繍する。
成長しても変わらないと思うとなんだか可愛らしく思えたんだ」
「ッ!」
「……あ…、」
顔を赤く染める二人にクリスタはにこっと笑う。
「どうやら私は今お邪魔のようです。
先に会場にいっていますね!」
クリスタは空気を読み、二人がクリスタを引き留める前にすたこらさっさとその場から立ち去る。
長い廊下をあっという間に移動したクリスタを二人は目を点にして眺めた後、顔を見合わせた。
赤い顔で見つめあう二人の婚約発表は、きっとアルフォンスとエルリーナの婚約発表のすぐ後に行われるだろう。
そんなことを一人会場に続く廊下を歩いていたクリスタは鼻歌を歌いながら思っていた。
「…なんか私も会いたくなってきたな」
自分よりも五つ年上である婚約者に。
こうしてエルリーナの誤解を完全に説いたアルフォンスは、エルリーナの説得の元、今回元凶になった市場に出回っている無数の本や関連の内容を書いた作者たちを亡き者にする暴行を起こさず無事に幕を閉じた。
ちなみにクリスタは無事、エルリーナに謝罪をした。
少し笑顔が怖いアルフォンスがいたのだが、そこはエルリーナが
『公表していなかったのですからクリスタ様が知らなくても当然ですわ。私も恥ずかしながら婚約しているものだと勘違いしていたのですから…』
と返していた為アルフォンスは居心地悪そうに口を閉ざす。
元をいえばアルフォンスが悪いのだ。
「そういえばクリスタ様はアル様をみてなにも思わなかったのでしょうか?」
「どういうことです?」
エルリーナがどこからともなく取り出したのは一冊の本。
『運命の恋~イケメンラブ~』というエルリーナ、アルフォンス、そしてクリスタに似ている人物が描かれている今回元凶になった本である。
クリスタは言った。
「これはなんですか?」
「こ、この小説を知らないのですか?!」
「え、ええ。私、どちらかというとファンタジー要素が強い冒険ものしか読まないので…。
それに初めてアルフォンス殿下を見た時については、“あ、この国の王子様だ。不敬にならないように気を付けなくちゃ”としか思いませんでした」
クリスタの感情は一国民であれば当然考えられる感情しかなかった。
そしてエルリーナは思う。
私だけがこの本に振り回されていたのね、と。
そして婚約発表時にはエルリーナとアルフォンスだけではなく、ベルガートとコーデリアの婚約発表も同時に行われた。
それは何故か。
アルフォンスの卒業間際、再び爆発的に人気になった男性同士の物語による小説の影響で、王子と従者の恋愛がアルフォンスとベルガートにあるのではないかと、エルリーナが疑ったのだ。
アルフォンスに協力していたコーデリアも今回だけはベルガートと目が合わせられないほどに動揺し、アルフォンスとベルガートはエルリーナとコーデリアを安心させるために同時に婚約発表をすることとなったのだ。
それでも前回より早く誤解を解けたのは、エルリーナがすぐに不安な想いを話してくれたからだろう。
確実に成長をみせてくれていた。
そして正式に婚約発表を終えたエルリーナは、もう二度とアルフォンスに対して勘違いをすることは………きっと、…そう、ない、と思う。
たぶん。
終
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