君が毎回死ぬ話

志田堕落太

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一回目

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 ジリリリリ。午前中ではあるが朝とは言い難いような時間に目覚まし時計が鳴る。目覚まし時計の音を何度も聞い
ているがいつまでたっても不快な音に聞こえ、わりかし鳴ってからすぐに起きるタイプである。ここ最近は暑いせい
で布団がベットから半分以上落ちている。体のだるさと頭痛があるが今日は三限から授業があるので仕方なくベットから起き上がる。もちろん布団は直さない。低血圧のせいで目の前が真っ暗になるがもう慣れているのでそのまま歩いた。体調がすぐれないのは昨日酒を飲みすぎたせいだ。久しぶりに高校の友達と会ってつい夜遅くまで飲んでしまった。ベットから起き上がったが、特に朝ご飯を食べたりする気力もなく冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、ソファに座ってテレビの適当なチャンネルを付けた。今日は6月15日木曜日。天気は晴れで春の心地よさなどとうに忘れるほどの暑さになっていた。大体この時間のニュースは前日の報道を繰り返すだけのものだが、一週間前に発覚した大手企業のパワハラ問題を連日放送しているのでより一層面白味のないものになっていた。ある国では紛争が始まったらしいが日本の報道機関はさほど興味がないらしい。
 そのあともしばらくつまらないニュースに対してよく炎上するで有名なジャーナリストたちが辛口コメントするだけの無いほうがましな時間が続いていたが、次のニュースで聞きなじみのある名前が出てきた。「志村穂乃果」である。志村穂乃果は小学生のころから家が近くて仲の良かった幼馴染である。自分の知り合いがテレビに出るなんて、初めてのことだったのでできれば大会で優勝しただとか、天才的な発明をしただとか、宇宙飛行士の試験に合格しただとか、ノーベル賞を取っただとかポジティブなものであってほしかった。しかしそのニュースは考えうる限り最悪のニュースだった。穂乃果は昨日の夜に殺されていた。
 ニュースによると穂乃果は後頭部の傷が致命傷になっており、近くの花壇の角に穂乃果の血痕が残っていることから誰かと言い争って押し倒されたのではないかということだった。まだ犯人は見つかっていないが殺人として捜査を続けているらしい。突然のことに頭が真っ白になった。何も考えられなかったが、かろうじて穂乃果との思い出だけは思い出すことができていた。思い出すたびに悲しさと悔しさがこみあげてきた。穂乃果とは中学を卒業してからほとんど喋っていなかったが密かにずっと思いを寄せていたのだ。大学三年の今まで。小学生の時までは互いに両想いなことを知っていたが、その後はどうだったかわからない。なぜだかわからないけど恥ずかしくなってだんだんと口を利かなくなっていた。どうせだったらちゃんと思いを伝えればよかった。そんな後悔をしているとだんだん気持ちが落ち着いてきた。完全に落ち着いたころにはお昼ご飯の時間も過ぎていて、三限の授業が終わる時間になっていた。
 夕方になると母親がパートタイムから帰ってきた。近所には今回の事件でたくさんの警察や報道陣があ集まっていたため、母親は帰ってくるなり
「なんか近所で事件でもあったの?」
と聞いてきた。俺も詳しくは知らないが、穂乃果の件をゆっくりと冷静に話した。穂乃果のことを小さいころから知っていたうちの母親も当然悲しむだろうと思っていたが、想像以上に悲しんでおり床に座り込んで泣いていた。俺も悲しんではいたが自分以上に悲しむ母親にびっくりして涙は出てこなかった。
 しばらく時間が経つと母親も落ち着いてきて、穂乃果のお母さんに電話をしようということになった。うちの母親と穂乃果の母親はいまだに交流があり、二人で出かけるほど仲がいいのだがさすがに今電話をかけるのはよくないんじゃないかと思い母にに言ったが、母はそれには聞く耳を持たずに電話を掛けた。自分の心配とは裏腹に穂乃果の母親は電話をくれたことに感謝をしてくれた。それでも娘が死んでしまったダメージは大きく、五分ほどで電話は終了した。
 夜十時になり、いつもより早くベッドに入った。今日はずっと穂乃果の事件のことで頭がいっぱいでいつもより数倍はやく時間が経っているように感じた。眠りにつくまでもずっと穂乃果のことを考えていて、ベットのなかでその日初めての涙を流しながら眠りについた。
 次の日の朝は5時30分に起きてしまった。金曜日は全休の日で目覚ましをかける必要がない日なのに早く起きてしまったことにもったいなさを感じる。いつものように冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、ソファに座りニュースをつける。いつもより早い時間のニュースなので少し違和感を感じたが、それよりも大きい違和感があった。日付だ。日付が6月14日になっている。急いでスマホを取り出して確認する。やはり、14日になっている。なぜだかわからないし、そんなアニメみたいなことがあるのか疑わしいが、俺は穂乃果が死んだ6月14日に戻っていた。
 
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