22 / 56
第二十二話:平穏な時
しおりを挟む
「葦原国じゃ見たことない食材もあるのねぇ」
山から帰って来た竜胆が厨房に用意された食材を見て感嘆している。
「文化が違うと食べる物にも多少差があるのでしょう」
生体組織は呪物として扱われやすく、その効力は無機物の何万倍にも及ぶ。
そのため、料理長に許可を得て厨房へと食材を見に来たのだ。
改装された厨房には使いやすそうな調理器具や台が並んでおり、これならば大人数で一斉に調理を始めても問題なさそうなほど整っている。
「見た感じ大丈夫そうではあります」
「そうね。変な感じとか嫌な感じはないわね」
「ただ、調理の工程で呪術を使われたら困りますから、そっと見学していましょう」
「陰陽術師たちは太門の警護に行っちゃってるしね」
「僧侶の皆さんがみんな内裏周辺に集まっているので仕方ないですね」
「あぁあ。私も食べたい。お腹空いたなぁ」
「あとでお昼休憩にしましょうね」
「わぁい!」
そうこうしているうちに調理が始まった。
鮮やかな手つきで裁かれていく肉や魚。
飾り切りが美しい野菜や果物。
魔法でも使っているのではないかと思うほどダイナミックで繊細な調理。
盛り付けはまるで芸術品。
「人間って本当に器用よねぇ」
「そうですね。みなさんとっても手際が良くて、つい見とれてしまいます」
見ている感じでは、呪術は使われていなさそうだ。
それもそうだろう。料理に何かすれば、国際問題になる。
呪物を仕込む方もそこまで馬鹿ではないということか。
料理人たちにとっては戦場にも等しい忙しさであっただろうが、わたしと竜胆にとってはとても平和な調理風景だった。
協力してくれた料理長にお礼を言い、厨房から出て、今度は酒類の確認に行くことに。
「薬酒には生体組織が使われていることも多いので、ちょっと見ておきましょうか」
「お酒ねぇ……」
「嫌いなんですか?」
「好きなんだけど、酔えないのよ。私、禍ツ鬼だから」
「ああ……、なるほど」
切なそうな目で酒瓶をひとつひとつ確認する竜胆が可笑しくて、少し笑ってしまった。
「もう笑っちゃって。翼禮はどうなのよ」
「わたしも仙子族なので酔えません。お酒もちょっと苦手ですし」
「あら、そうなのね」
「飲めるのは果実酒くらいですね」
「美味しいわよねぇ」
雑談しながら確認できるほど、酒瓶にも特に呪はかかっていなかった。
「次はどうする? 食器は昨日全部確認したし、雅楽隊の楽器も確認済みだし」
「各国からの贈り物がすべてそろうのは明後日なので、今日はもう警邏しかないですね」
「あの要人のひとたちっていつまでいるの?」
「来月の祇宮祭までですね」
「あらあら、結構いるのね」
「皇帝陛下の求心力と国力を魅せるためでしょう」
「大変なのねぇ」
「外交も陛下の重要なお仕事の一つですから」
主上は諸外国の首脳陣と比べても、特段若い。ただそれだけで頼りないと判断させるわけにはいかない。
主上は葦原国の顔でもあるのだ。
「顔は一番いいんじゃない? イケメンよね」
「……まぁ、良いか悪いかで言ったら良い方がいいでしょうけど……」
竜胆は最近人間を見慣れてきたのか、容姿の表現がストレートになって来た。
主上や他の貴族の顔の感想を大勢の前で言わないよう、それとなく言っておかなければ色々と面倒なことになりそうだ。
「容姿についてあまり口に出して言わない方が潤滑なコミュニケーションが成り立ちやすいですよ」
「えー。誰だって褒められたらうれしいじゃないの」
「容姿が良いことで苦労している人もいますから」
「ああ、モテすぎちゃってってこと? それは大変よね」
「まぁ、そんな感じですかね」
「気を付けるようにするわ」
「そうしてください」
「ちなみに、翼禮はとってもとっても可愛いわよ」
「ど、どうも」
こそばゆい。嫌ではないが。
「さぁ、警邏に戻りましょうか」
「そうね」
二人で外へ出ると、ちょうど料理が運ばれ始めていた。
良い香りが空気中に充満している。
ぐぅっとお腹が鳴った。
「す、すみません」
「お腹ぺっちゃんこになりそうだわ」
「陛下たちの会食が終わったら時間が出来るのですぐお昼ご飯にしましょうね」
「賛成ぃ」
会食のあとはしばしの休憩時間となる。
だいたいは優雅にティータイムをとったり、少し昼寝をしたりと、夕方からまた元気に外交するためにゆっくり過ごす。
多忙な主上はこの間に仮眠をとるのだが、その際は後宮で寝ることになっており、そこには日奈子長公主もわたしの姉もいる。
だから安全なのだ。目を離していても平気な唯一の時間。
「さ、豊楽院へ行きましょう。食事は大内裏です」
豊楽院に着くと、すでにそこは大賑わいだった。
子供の写真を見せ合ったり、これから出てくるであろう料理の説明をいち早く始めたりと、和やかな雰囲気が漂っている。
「あんまり心配することもなさそうね」
「そうですね」
その言葉通り、会食は恙なく行われ、二時間ほどでお開きとなった。
「自由時間ですよ」
「ご飯食べよぉ」
わたしと竜胆は空枝空間へ入ると、蒸気機巧妖精が作って待っていてくれたご飯を食べ、二時間ほどゆっくりと過ごした。
夕方になり、主上たちの休憩時間終了一時間前からまた警邏に出て、清涼殿に何もしかけられてないか確認などをして過ごした。
そして夕方の経が始まり、また内裏とその周辺の警邏に出たが、その後は何も起こることなく無事に一日を終えることが出来た。
「あいつ、来なかったわね。しばらく潜む気かしら」
「かなりの怪我を負ってましたからね。瘴気の弾丸であいた傷は簡単には塞がらないでしょう」
「当たり前よ。あんな変な奴に手加減しないわ」
「一ヶ月は安全でしょうか」
「三か月は満足に動けないと思うわ」
「よかった。じゃぁ、その間に対策も立てられますね」
「今度来たらギッタギタのグッチャグチャにしてやるんだから」
「そうですね。殺しましょう」
「では、帰る前にもう一度周囲を確認しておきましょうか」
「はぁい」
今度はわたしが右から、竜胆は左から内裏を回った。
まだ今朝の出来事が精神に苛立ちを残している。
気が立つ。一人でいると特に。
幸い、何もなかった。合流した竜胆も「平和だったぁ」と安心したように笑っている。
「あと三日間も同じような日程で過ごすなんて、貴族は本当にこういう行事好きよねぇ」
「同じような地位で他国の人達と騒ぐ機会があまりないからじゃないですかね」
「苦労を分かち合えるってことね」
「おそらく」
「私たちも早く帰って苦労を分かち合いましょ」
「ふふ。そうしましょうか」
二人で内裏を後にし、大内裏を出てから空枝空間に入った。
今日はなんだか一日が長かった気がする。
こういう日はゆっくりとお風呂に浸かりたい。
月明かりをお供に。
山から帰って来た竜胆が厨房に用意された食材を見て感嘆している。
「文化が違うと食べる物にも多少差があるのでしょう」
生体組織は呪物として扱われやすく、その効力は無機物の何万倍にも及ぶ。
そのため、料理長に許可を得て厨房へと食材を見に来たのだ。
改装された厨房には使いやすそうな調理器具や台が並んでおり、これならば大人数で一斉に調理を始めても問題なさそうなほど整っている。
「見た感じ大丈夫そうではあります」
「そうね。変な感じとか嫌な感じはないわね」
「ただ、調理の工程で呪術を使われたら困りますから、そっと見学していましょう」
「陰陽術師たちは太門の警護に行っちゃってるしね」
「僧侶の皆さんがみんな内裏周辺に集まっているので仕方ないですね」
「あぁあ。私も食べたい。お腹空いたなぁ」
「あとでお昼休憩にしましょうね」
「わぁい!」
そうこうしているうちに調理が始まった。
鮮やかな手つきで裁かれていく肉や魚。
飾り切りが美しい野菜や果物。
魔法でも使っているのではないかと思うほどダイナミックで繊細な調理。
盛り付けはまるで芸術品。
「人間って本当に器用よねぇ」
「そうですね。みなさんとっても手際が良くて、つい見とれてしまいます」
見ている感じでは、呪術は使われていなさそうだ。
それもそうだろう。料理に何かすれば、国際問題になる。
呪物を仕込む方もそこまで馬鹿ではないということか。
料理人たちにとっては戦場にも等しい忙しさであっただろうが、わたしと竜胆にとってはとても平和な調理風景だった。
協力してくれた料理長にお礼を言い、厨房から出て、今度は酒類の確認に行くことに。
「薬酒には生体組織が使われていることも多いので、ちょっと見ておきましょうか」
「お酒ねぇ……」
「嫌いなんですか?」
「好きなんだけど、酔えないのよ。私、禍ツ鬼だから」
「ああ……、なるほど」
切なそうな目で酒瓶をひとつひとつ確認する竜胆が可笑しくて、少し笑ってしまった。
「もう笑っちゃって。翼禮はどうなのよ」
「わたしも仙子族なので酔えません。お酒もちょっと苦手ですし」
「あら、そうなのね」
「飲めるのは果実酒くらいですね」
「美味しいわよねぇ」
雑談しながら確認できるほど、酒瓶にも特に呪はかかっていなかった。
「次はどうする? 食器は昨日全部確認したし、雅楽隊の楽器も確認済みだし」
「各国からの贈り物がすべてそろうのは明後日なので、今日はもう警邏しかないですね」
「あの要人のひとたちっていつまでいるの?」
「来月の祇宮祭までですね」
「あらあら、結構いるのね」
「皇帝陛下の求心力と国力を魅せるためでしょう」
「大変なのねぇ」
「外交も陛下の重要なお仕事の一つですから」
主上は諸外国の首脳陣と比べても、特段若い。ただそれだけで頼りないと判断させるわけにはいかない。
主上は葦原国の顔でもあるのだ。
「顔は一番いいんじゃない? イケメンよね」
「……まぁ、良いか悪いかで言ったら良い方がいいでしょうけど……」
竜胆は最近人間を見慣れてきたのか、容姿の表現がストレートになって来た。
主上や他の貴族の顔の感想を大勢の前で言わないよう、それとなく言っておかなければ色々と面倒なことになりそうだ。
「容姿についてあまり口に出して言わない方が潤滑なコミュニケーションが成り立ちやすいですよ」
「えー。誰だって褒められたらうれしいじゃないの」
「容姿が良いことで苦労している人もいますから」
「ああ、モテすぎちゃってってこと? それは大変よね」
「まぁ、そんな感じですかね」
「気を付けるようにするわ」
「そうしてください」
「ちなみに、翼禮はとってもとっても可愛いわよ」
「ど、どうも」
こそばゆい。嫌ではないが。
「さぁ、警邏に戻りましょうか」
「そうね」
二人で外へ出ると、ちょうど料理が運ばれ始めていた。
良い香りが空気中に充満している。
ぐぅっとお腹が鳴った。
「す、すみません」
「お腹ぺっちゃんこになりそうだわ」
「陛下たちの会食が終わったら時間が出来るのですぐお昼ご飯にしましょうね」
「賛成ぃ」
会食のあとはしばしの休憩時間となる。
だいたいは優雅にティータイムをとったり、少し昼寝をしたりと、夕方からまた元気に外交するためにゆっくり過ごす。
多忙な主上はこの間に仮眠をとるのだが、その際は後宮で寝ることになっており、そこには日奈子長公主もわたしの姉もいる。
だから安全なのだ。目を離していても平気な唯一の時間。
「さ、豊楽院へ行きましょう。食事は大内裏です」
豊楽院に着くと、すでにそこは大賑わいだった。
子供の写真を見せ合ったり、これから出てくるであろう料理の説明をいち早く始めたりと、和やかな雰囲気が漂っている。
「あんまり心配することもなさそうね」
「そうですね」
その言葉通り、会食は恙なく行われ、二時間ほどでお開きとなった。
「自由時間ですよ」
「ご飯食べよぉ」
わたしと竜胆は空枝空間へ入ると、蒸気機巧妖精が作って待っていてくれたご飯を食べ、二時間ほどゆっくりと過ごした。
夕方になり、主上たちの休憩時間終了一時間前からまた警邏に出て、清涼殿に何もしかけられてないか確認などをして過ごした。
そして夕方の経が始まり、また内裏とその周辺の警邏に出たが、その後は何も起こることなく無事に一日を終えることが出来た。
「あいつ、来なかったわね。しばらく潜む気かしら」
「かなりの怪我を負ってましたからね。瘴気の弾丸であいた傷は簡単には塞がらないでしょう」
「当たり前よ。あんな変な奴に手加減しないわ」
「一ヶ月は安全でしょうか」
「三か月は満足に動けないと思うわ」
「よかった。じゃぁ、その間に対策も立てられますね」
「今度来たらギッタギタのグッチャグチャにしてやるんだから」
「そうですね。殺しましょう」
「では、帰る前にもう一度周囲を確認しておきましょうか」
「はぁい」
今度はわたしが右から、竜胆は左から内裏を回った。
まだ今朝の出来事が精神に苛立ちを残している。
気が立つ。一人でいると特に。
幸い、何もなかった。合流した竜胆も「平和だったぁ」と安心したように笑っている。
「あと三日間も同じような日程で過ごすなんて、貴族は本当にこういう行事好きよねぇ」
「同じような地位で他国の人達と騒ぐ機会があまりないからじゃないですかね」
「苦労を分かち合えるってことね」
「おそらく」
「私たちも早く帰って苦労を分かち合いましょ」
「ふふ。そうしましょうか」
二人で内裏を後にし、大内裏を出てから空枝空間に入った。
今日はなんだか一日が長かった気がする。
こういう日はゆっくりとお風呂に浸かりたい。
月明かりをお供に。
0
あなたにおすすめの小説
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
【短編】記憶を失っていても
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。
そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。
これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。
※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
悪役令嬢まさかの『家出』
にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。
一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。
ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。
帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる