こんな私でも愛されているので問題はありません

１

飛んできた石が私の頬に傷を作った。

「やーい！魔女め！俺が成敗してやる！」
「やっちゃえ！やっちゃえ！」
「悪い魔女め！早くこの街を出ていけ！」

近所の子供たちは、口々に叫ぶと私に石を投げてくる。
これ以上傷つきたくなかったので、私は走って逃げた。

とにかく走った。
すれ違う人々が何かを言っていた。
皆、私の容姿が気になるらしい。

「見て、あの子、赤髪だよ」
「不吉ねぇ」
「きっと魔女の子なのよ。恐い怖い」

この街では赤髪は魔女の象徴と言われ、忌み嫌われていた。
昔、国を滅ぼしかけた魔女が赤髪だったからだ。

「くそっ……！」

頬がピリっと痛む。
私だって好きで赤髪に生まれたわけじゃないのに、どうしてこんなに酷い仕打ちを受けなければならないのか。
魔法だって一つも使えないのに。

息を切らしながら家に着くと、門番が驚いた顔をした。

「アカネ様！大丈夫ですか？」

彼は優しそうな老兵だったが、きっと心の中では私のことを嫌っているに違いない。
だって、さっき石を投げてきたのだって、昨日まで友達だった子だったから。

「大丈夫……」

私は凛として答えた。
彼は何か言おうとしていたが、口をつぐみ、門を開けた。

「おかえりなさいませ、アカネ様」

それだけ言うと、また所定の位置に戻った。
私はただいまも言わずに、家の中に入った。

……それから七年。
十八歳になった私は、国王の誕生日を祝うパーティーに招待されていた。
本来なら私みたいな赤髪の女がこんなパーティーに参加できるはずもないのだが、幸か不幸か我が家は名家と言われる公爵家で、国王から直々に招待状が届いたのだ。

「アカネ。堂々としていろよ」

父は私にそう言った。
この赤髪のことを言っていることは明白だった。
両親は共に、街でも一番多い髪色とされている黒い髪をしていた。
親戚にも私のような赤髪は一人もいない。

本当にどうして私だけがこんな髪の色に生まれてしまったのだろう。

ぼんやりと考えていると、父が肩を叩く。

「すまんが、用を足してくる。一人で大丈夫か？」

「大丈夫よ。もう十八なのよ。いつまでも子供じゃないわ」

「そうか」

父は微かに口角を上げると、会場を去っていった。
父の前では虚勢を張ったものの、一人になると急に不安になってきた。
友達に石を投げられたあの日の光景が、ありありと思い出される。
ここにいる人達も結局はあの友達と同じなのだろう。

私を忌み嫌い、裏切り、いじめる。
石が言葉に変わり、私を徹底的に痛めつけるのだろう。
もう頬の傷は完治したのに、まだ痛む気がした。

「あなたがアカネさん？」

後ろから声をかけられ、私は嫌な気持ちのまま振り向いた。
そこにはウエイターの恰好をした青年がいた。
綺麗な青い髪に青い瞳、私がよく憧れた色だ。

「そうですが？」

きっとこの人も私をからかいにきたのだろう。
そう思っていたから、彼が放った言葉は衝撃的だった。

「美しい髪ですね」

「……は？」

意味が分からず口をぽかんとあける。

「僕、前々から思っていたんですよ、なんでこの国の女性は髪を染めないのかって。皆、あなたのように美しくなれるのに」

「は？え？」

何この人？何が狙いなの？
嬉しいような不安なような、変な気持ちになりながら何も言えないでいると、彼の後ろから大柄な男が現れた。

「おい、ブルーノ。そんな恰好で何をしておる」

「あ、父上。もう来たのですか？」

父上？
私はその大柄な男に目を移し、言葉を失った。
彼は国王だった。
ということはつまり……

「アカネさん。申し遅れました」

青い髪の青年は私に一歩近づく。
ふわっと良い香りが鼻を突き抜け、思考を浚っていく。

「僕は第一王子のブルーノ。アカネさん、突然で申し訳ありませんが、僕の婚約者になりませんか？」