暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

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第四章 王子の依頼

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 ファルが夜斗と夜那に接触してから一ヶ月たったある日。

 暁に持ち込まれた依頼をこなすため、兄妹は街の外にいた。
 今回の依頼は、街の外にある小屋付近の魔物退治。二人は互いに離れた場所で、魔物を片づけていた。
 
「キーー!!」
「はっ!」
 
 夜那は目の前に飛びかかってきた、前歯が鋭い鼠の魔物を斬り捨てた。魔物は痙攣した後、光の粒子となって消失する。

「ティエラ。魔物の気配は?」
木々みんなはいないってー』

 橙色の光の玉となって現れた土の小精霊ティエラの言葉に、夜那は紫闇を鞘に収めた。

「……なんか、物足りないなぁ」

 空を見上げながら、呟く。

『主よ。よもや、我の気にあてられているわけでは、あるまいな?』
「だとしたら、もっと狂ってる。あなたが一番、わかっているでしょ。紫闇」

 紫闇の言葉に、夜那は呆れたような声音で答えた。

『うむ。その通りであるが』
「周期っていうと変だけど、無性に何かを、斬りたくなるときがあるんだよね」
『此度の主は、今までの者たちと違いすぎて、我は戸惑いを隠せぬ』

 夜那はフフッと笑う。

「なら、楽しいでしょう? 生きるのには刺激が必要だよ。そしていつか、私を狂わせてね」
『言っておくがな、主。我と同調している限り、我は主を狂わせるつもりはないぞ』

 紫闇の言葉に、夜那は首をかしげる。
 
「今までの使い手は、狂わせたのに?」
『あれは、我の意思ではない。我の持つ闇の力に、耐えきれなかったが故に起きたこと。だが、主は違う。我は主を守るぞ』
「紫闇、私は死にたいんだ。守るんじゃなくて、殺してよ」

 夜那の相変わらずの死にたがりに、紫闇は黙りこんだ。
 
「夜那ー。どこだー?」
「あ、ここ。こっち」

 夜那が返事をすると、ガサガサと草をかき分けて、夜斗が姿を現した。

「無事、は当たり前か。まったくおまえは、どこ潜ったんだよ」

 夜斗は夜那の頭についていた葉っぱを、手で払ってやった。

「魔物の気配は感じるか?」
「ティエラはいないって」
「そうか。それじゃあ、報告に行こう」

 二人は小屋に向かった。
 小屋の前には畑もあり、定期的に魔物を討っていれば、人が住めるよう整えられていた。

「暁です」
「おぉ。入っていいぞ」

 兄妹はドアを開けた。
 小屋の中は、家具などを作る作業場となっており、作業をしていたキャスとサラが顔を上げる。

「終わったか」
「ごくろうさん。助かったぜよ」

 今回、暁に依頼をしてきたのは、チーア食堂の常連であるキャスとサラの二人組だった。

 夜斗と夜那は、この街に来たきっかけとなった行商人イザナの紹介でやってくる、彼の行商仲間の護衛を引き受けていた。しかし、頻繁に持ち込まれるわけでもなく、アサギの手伝いをしていることのほうが多かった。その中で、毎日訪れるキャスとサラと会話を重ねていくようになり、彼らに魔物退治の依頼を持ちかけられたのだ。

 二人は作業の手を止め、兄妹に近寄る。

「坊主たちも帰ってきたことだし」
「茶にするかのぅ。おまんらも、飲んでけ」
「いただきます」

 サラに案内され、兄妹は奥のテーブルについた。

「今日は珍しい茶葉が、手に入ったんだよ。この茶を飲むには、この湯呑みってやつが一番だ」

 キャスはそう言って、人数分の湯呑みを用意し、ポットから注ぐ。
 緑色の湯が湯呑みを満たした。

「あぁ、ヴェルデ緑茶ですね」
「ほー。知っとるんか」

 サラの言葉に、兄妹は頷く。
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