暁~双子の冒険者~

岡本梨紅

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第六章 奴隷オークション

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 ドアノブに手を掛けた夜斗に、リチャードが再度、言葉を投げかける。夜斗はピタリと動きを止めた。

「まだ付き合いは短いが、俺はおまえら兄妹を、助けたいと思っている」

 夜斗はリチャードに向き直った。彼の瞳には、リチャードの真意を探るような鋭さがある。
 そんな夜斗に、ファルは声を投げ掛けた。

「夜斗さん。一人で夜那さんを救出するのは、はっきり言って不可能です」
「なぜ断言できる」

 夜斗の鋭い視線にもろともせず、ファルは淡々と告げる。

「エルマーは、子供たちだけではなく、わざわざ別の場所にいる夜那さんを襲って屋敷に連れて行きました。自分たちの居場所がバレるかもしれない危険を冒して。それは、連れて行かなければならない理由があったんです」
「その理由とは?」
「奴隷オークションです」

 ファルが感情を押し殺した声で告げた。
 夜斗は〝奴隷〟の言葉に、ピクリと反応した。その様子に気がつきながらも、ファルは続ける。

「<帰らずの森>に行った者は、誰一人として戻ってきていません。中には森に入り、魔物の餌食になった者もいるでしょう。ですが」
「誰も帰ってこないってのは、いくらなんでもおかしすぎる。だから以前も、その説で調べてはいたんだけど」
「証拠が見つからなかったと」

 ファルは頷く。

「正直言えば、助ける価値はなかった。森に行くのは、財宝があると信じる欲に目がくらんだ者たちばかりだ。そんなやつらを助けたところで、価値なんてない」
「……」

 リチャードの言葉に、夜斗は沈黙を返す。

(ただ頭の回転が早いおちゃらけ王子と思ってたが、使えない人間は、簡単に切り捨てる。とんだ腹黒じゃねぇか)

 夜斗の心情を理解したのか、リチャードは深くため息をついて、己の手の平を見つめた。

「俺は……大事なものを守れなかった」
「殿下」

 ファルはリチャードの言う〝大事なもの〟の意味を理解し、そっとリチャードの肩に触れた。ロイも一歩、リチャードのそばに寄る。
 二人の反応にリチャードは苦笑し、夜斗に顔を向けた。

「だから、気に入ったもののためなら、権力だって使う。出し惜しみしても意味がないからな」
「……気に入った? 利用価値があるからの間違いでは?」
「そう思いたいなら、それでいいさ」

 リチャードはいつもの、人なつっこい笑みを見せる。

「夜斗。夜那と攫われた子供たちの救出を最優先に、セプスクルクスのリーダーであるエルマーと、そいつを操る黒幕の確保を、暁に依頼したい」

 夜斗はじっとリチャードを、見つめた。

(今回の件は、下手したら王家の問題に関わることになる。だが、夜那を救うには、王子たちの手を借りるしかないか。ここで依頼を断ったとしても、押し問答することになる。今は時間が惜しい)

 夜斗は頭を下げた。

「……わかりました。暁、依頼を受理します」

 夜斗の返事に、リチャードは満面の笑みを浮かべた。

「よし! ファル、部隊の編成を頼む」
「かしこまりました」
「ロイは屋敷までの詳細ルートを」
「はーい」

 リチャードの的確な指示に、機敏に動きだすファルとロイ。彼らが出て行くのを横目に、夜斗はリチャードをまっすぐ見つめる。それに首を傾げるリチャード。

「なんだ?」
「俺はあなたの考えがわからない。でも、夜那を助けるために手を貸してくれるわけですから、あなたのために命を掛けたいと思います」
「そんな固っ苦しく考えなくて、いいんだがなぁ」

 リチャードは、がりがりと頭を掻く。

「おまえは自分と夜那のために。俺は俺のために。互いを利用しあえば、いいってわけ。準備、手伝ってくれ」
「俺でいいんですか?」
「ファルがいないからな」

 夜斗は仕方なさそうに息を吐き出し、リチャードの鎧を手に取った。
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