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「ママにはナイショだけど、小さいときから、いろんな人に、いわれてたんです。
 きんじょのおばさん。ほいくえんの先生。お友だちにも。そのママにも。
 みんなに『パパがいなくて、かわいそうな子』だって」

 夕月は顔をしかめました。あまりにも理不尽なことだったからです。

(他人からすれば、父親がいないというのは、哀れにみえるでしょう。しかし、そのことを幼い本人に聞かせるなんて)

 夕月の心配をよそに、優花の話は続きます。

「でもね、わたしはママがいればよかったんです。ママは、まい日、おしごとをがんばっているのに、いつもわたしのために、あそんでくれたりするから。だから、パパがいなくても、しあわせだもん」
「優花さんは、ママさんが大好きなんですね。それにママさんは、優花さん想いの立派な人ですね」
「うん! じまんのママなの!」

 優花は母親を褒められ、満面の笑みを、夕月に向けます。
 夕月は笑顔を返しながら、疑問に思いました。優花の悩みは何なのだろうと。

「それでねママがね、パパをつれてきたんです。わたしのほんとうのパパじゃないパパ。ママがいま、すきな人なんだって」
「そうですか。優花さんは、その新しいパパさんのことを、どう思いました?」

 夕月の質問に、優花は「うーん」と首を傾げます。夕月は苦笑しました。

「難しい質問でしたね。言い方を変えましょう。
 新しいパパさんは好きですか?」
「ほめてくれるし、このあいだは、ゆうえんちにつれてってくれたから。すきかどうかはわからないけど、きらいじゃないです」
「なるほど、なるほど」

 夕月は納得したというように、頷きます。

「でも」

 楽しそうに話していた優花の声のトーンが落ちます。どうやら、悩みの本題に入ったようです。
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