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「今の優花さんのパパさんとママさんは、生まれたばかりの妹さんを中心に、物事を考えがちになっています。
 それは、赤ちゃんというものは、とても弱い生き物だから、周りが守ってあげなくてはいけないからです。
 しかし決して、優花さんを忘れたわけではありません。それは、わかりますか?」
「うん。まいにち、だいすきのぎゅーを、してくれるから」

 夕月はその様子を想像して、微笑ましそうに目を細める。

「ならばなおさら、自分のしてほしいこと、やりたいことを口にしてみましょう。きっと、かなえてくれるはずです」
「……言っても、いいのかな?」
「わがままの言い過ぎはよくありませんが、ちょっとのわがままは許されるはずです。優花さんは、とても大切にされているのですから。だから、我慢をせず口に出して、言ってみましょう。そうじゃないと、伝わりませんよ?」
「口に、だす」

 夕月の言葉を反復する優花。夕月は優しい顔で、彼女を見つめます。
 決意が固まったのか、優花は立ち上がると、夕月と向かい合わせになり、頭を下げました。

「お兄さん、わたしのなやみをきいてくれて、ありがとうございました」
「いえいえ。参拝者の悩みを聞くのが、僕のお勤めですから。
 さて、優花さんにはこれを、差し上げましょう」

 夕月が手のひらを向けると、そこには狐の顔の形をしたお守りがありました。

「うわぁ。かわいい」
「これには、優花さんが無事にお家に帰れるように。そして、無事に悩み事が解決しますように、僕のお祈りをこめています。どうぞ」

 夕月はお守りを、優花に差し出します。

「でも、お守りは、お金がかかるものだから」

 遠慮する姿勢を見せる優花ですが、その目はお守りに釘付けです。

 夕月は微笑みます。
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