異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
上 下
86 / 319

理科さんの解説

しおりを挟む
「何してるんだろう、って放っといたらいつのまにか立派な秘密基地なんか作っちゃってて」

「立派だなんてそんな。風がもう少し強ければあっという間に飛ばされそうなやつですけどね」

    釣りキチさんの手放しの賞賛に、保育士さんが謙遜する。まあ基地を作って楽しめるぐらいの余裕があるのはいいことだ。

    夕食時には理科さんの紹介が行われた。

「私が思うに、この現象自体は科学的に解明出来るようなものではないかな、という気がしています」

    僕たちは理科さんの言葉をふんふんとうなずきながら聞いていた。

「でも、ここがどこでいつの時代なのか、というのは科学的に調査していけば、ある程度推測出来るのではないかと思います。
例えば」

    理科さんはちょっともったいぶってから先を続けた。まるで生徒に授業をしているようだ。

「太陽の高度を正確に観測することで、緯度が分かります。また星の位置を観測しても同様です。惑星の現在地を観測すれば、私たちがもともといた5月20日からどれくらい時間差があるのか、推測可能です。もちろん、惑星は周期的に太陽の周りを公転してますから、何万年の間には同じパターンも出現するので正確な時代は分からないですけど」

    僕は文系人間であり、科学関係は子供の頃から苦手だったので、理科さんのいうことの半分も理解できてない。まあ要するに調べたらここがどこか、もしかしたら分かるかもしれないってことだ。

「でもそれって……」

   自転車君がポツリと言う。自転車君も確か文系だったはずだ。

「ここが地球であるって前提ですよね。もしここが宇宙の他の星だったとしたら、あるいはパラレルワールドだったりしたら、条件も異なってくるんじゃないですか?」

   自転車君の意見に理科さんはにっこり笑った。

「そうね。それはいい考えだわ。その可能性ももちろんあります。それも結局、色々と調べれば明らかになってくると思います」

   そのあともスカウトさんやドクターとやりとりを重ねていた理科さんだったが、僕は相変わらず専門用語はまったく理解出来なかったため、詳しい内容は分からなかった。もっと真面目に勉強してればよかった、と本気で後悔した。

    夕食のあと、理科さんは僕を誘った。外で星を見よう、というのだ。そういえば、昨夜は釣りキチさんを探しに夜の森に出たが、それ以外はほとんど夜には外に出たことがない。どれだけ星が出ているかとか月が出ているとか、まったく関心がなかったこともあって、わざわざ夜に外出しようなんて思わなかったのだ。
しおりを挟む

処理中です...