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領地編
1 次の悪役令嬢を演じましょう
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ふっと、目が覚める。小鳥たちの愛らしい鳴き声が聞こえ、柔らかな日の光が差し込んでいる。気持ちのいい朝だ。
体を起こすと同時に、体の情報が頭に入って来る。流れ込んできた情報を口に出してみた。鈴のような透き通った声が、耳にここちよい。
「エリーナ・ローゼンディアナ。祖父が伯爵位を賜っており、王都に近いところに小さな領地を持っている。母がこの家の出で、エリーナは生まれた時からここで暮らしている。父は誰だか分からないらしい……っと」
しかもその母は五歳の時に病で亡くなってしまい、現在祖父と二人だけのようだ。
(伯爵ねぇ。低くもないけれど、高くもないわよね)
悪役令嬢と言えば、親の権力を振りかざして……が定番だが、今回は難しそうだ。権力を振りかざすなら、貴族の最高位である公爵は欲しい。
それに、記憶にある祖父は、政治の場で活躍している人ではない。
(まぁ。安全に暮らせるだけいいわ。見たところ、お金には困ってないみたいだし)
部屋の調度品を見ると、華美ではないが品はいい。悪役令嬢によっては、家にお金がないので、上玉の結婚相手を得るために主人公の邪魔をするというストーリーもあったからだ。
エリーナはぐっと伸びをして、欠伸をする。
(ゆっくりした始まりでよかったわ)
今回の始まりはいい方だ。ひどい時は気づけばイベントが始まる直前で、イベントをこなしながら世界観を把握した時もあった。
ゲームの設定にもよるのだろうが、どの段階で役に入れるかは分からない。
(まずは、このゲームの内容を理解しないと)
悪役令嬢の役に入った瞬間から、脳内にはゲームのシナリオが入っている。主人公と攻略キャラのプロフィールに、イベント内容、ルートと分岐点など。
それは念じただけで頭に広がるものだったのだが……。
(あれ? シナリオが浮かばないわ)
いつもと違うと、困惑する。何度念じてみても、結果は同じだった。
(どうしたのかしら。不具合でも起こったの?)
いくらベテランの悪役令嬢と言っても、アドリブはきつい。せめて、誰をターゲットにするかぐらいの情報は欲しい。
前にも全キャラの動きが不自然に止まったり、視界が真っ暗になったりという不具合はあったが、数日で直っていた。今回もすぐに直るだろうと問題は後回しにし、ベッドから降りようとした。
……が。
「きゃっ」
着くと思った足は着かず、見事に転ぶ。それほど痛くなかったが、それよりも驚きのほうが大きい。
(あれ、なんか思ったより小さくないかしら)
目線が低く、床に着いた手もちんまりとしている。嫌な予感に、血の気が引いてきた。
(えぇ……まって)
エリーナは首を巡らし、部屋の隅に姿見を見つけると恐る恐る近づく。歩幅もてくてくではなく、とてとてのような。
気のせいであってほしいと思いつつ姿見に目をやると、そこに映っていたのは幼い女の子だった。
「嘘でしょ!?」
思わず姿見に手を置いてまじまじとその姿を見た。
(この姿で悪役令嬢するの!?)
どうみても6、7歳くらいだ。鏡の中の少女は驚き目を見張っている。
乙女ゲームはだいたい15、6の年齢から始まることが多い。少女の恋愛がテーマなのだから当然だ。だから、今までの役はそれぐらいの年齢で、こんな幼い悪役令嬢は演じたことがない。
しかも、この顔はやけに目がくりくりしている。愛らしい瞳はアメジスト色。プラチナブロンドの髪はゆるふわで、肌はもっちり薄ピンク。
乙女ゲームの悪役令嬢と言えば、つり目にドリルのような縦巻きロールが定番だった。髪型は色々あれども、怖そうなつり目は共通していたのだ。
(どうしよう。これ、睨んでも迫力あるかしら)
試しに鏡に向かって睨みを利かせてみるが、キレがない。ギロリじゃなく、キョロリだ。
(シナリオも分からないし、顔も可愛すぎるわ……どういうこと?)
今までとは違う始まり方に戸惑いを隠せない。鏡に手をついて考えてみるが、幼い脳はいい解答を出してくれない。
眉間に皺をよせたエリーナは、ハッと閃いた。顔を上げて、自分の新しい顔を見つめる。
(これはまさか……私がもうプロの域にいるから、ハードモードになったのね!)
この容姿で悪役令嬢はハードルが高いが、だからこそプロのプライドが刺激される。エリーナは、今までとは違う悪役令嬢に燃えた。
(考えてみれば、いつも同じような悪役令嬢じゃ、プレイヤーも飽きるわよね)
乙女ゲームではギャップも一つの重要な要素であることを、エリーナはよく知っていた。ゆえに、容姿が違っていても目指すものは変わらない。
(悪役令嬢の誇りにかけて、主人公をいじめぬいて断罪されるわ!)
今日から睨む練習をしないと、と思いながら姿見とにらめっこをしていると、ドアがノックされる音がした。
体を起こすと同時に、体の情報が頭に入って来る。流れ込んできた情報を口に出してみた。鈴のような透き通った声が、耳にここちよい。
「エリーナ・ローゼンディアナ。祖父が伯爵位を賜っており、王都に近いところに小さな領地を持っている。母がこの家の出で、エリーナは生まれた時からここで暮らしている。父は誰だか分からないらしい……っと」
しかもその母は五歳の時に病で亡くなってしまい、現在祖父と二人だけのようだ。
(伯爵ねぇ。低くもないけれど、高くもないわよね)
悪役令嬢と言えば、親の権力を振りかざして……が定番だが、今回は難しそうだ。権力を振りかざすなら、貴族の最高位である公爵は欲しい。
それに、記憶にある祖父は、政治の場で活躍している人ではない。
(まぁ。安全に暮らせるだけいいわ。見たところ、お金には困ってないみたいだし)
部屋の調度品を見ると、華美ではないが品はいい。悪役令嬢によっては、家にお金がないので、上玉の結婚相手を得るために主人公の邪魔をするというストーリーもあったからだ。
エリーナはぐっと伸びをして、欠伸をする。
(ゆっくりした始まりでよかったわ)
今回の始まりはいい方だ。ひどい時は気づけばイベントが始まる直前で、イベントをこなしながら世界観を把握した時もあった。
ゲームの設定にもよるのだろうが、どの段階で役に入れるかは分からない。
(まずは、このゲームの内容を理解しないと)
悪役令嬢の役に入った瞬間から、脳内にはゲームのシナリオが入っている。主人公と攻略キャラのプロフィールに、イベント内容、ルートと分岐点など。
それは念じただけで頭に広がるものだったのだが……。
(あれ? シナリオが浮かばないわ)
いつもと違うと、困惑する。何度念じてみても、結果は同じだった。
(どうしたのかしら。不具合でも起こったの?)
いくらベテランの悪役令嬢と言っても、アドリブはきつい。せめて、誰をターゲットにするかぐらいの情報は欲しい。
前にも全キャラの動きが不自然に止まったり、視界が真っ暗になったりという不具合はあったが、数日で直っていた。今回もすぐに直るだろうと問題は後回しにし、ベッドから降りようとした。
……が。
「きゃっ」
着くと思った足は着かず、見事に転ぶ。それほど痛くなかったが、それよりも驚きのほうが大きい。
(あれ、なんか思ったより小さくないかしら)
目線が低く、床に着いた手もちんまりとしている。嫌な予感に、血の気が引いてきた。
(えぇ……まって)
エリーナは首を巡らし、部屋の隅に姿見を見つけると恐る恐る近づく。歩幅もてくてくではなく、とてとてのような。
気のせいであってほしいと思いつつ姿見に目をやると、そこに映っていたのは幼い女の子だった。
「嘘でしょ!?」
思わず姿見に手を置いてまじまじとその姿を見た。
(この姿で悪役令嬢するの!?)
どうみても6、7歳くらいだ。鏡の中の少女は驚き目を見張っている。
乙女ゲームはだいたい15、6の年齢から始まることが多い。少女の恋愛がテーマなのだから当然だ。だから、今までの役はそれぐらいの年齢で、こんな幼い悪役令嬢は演じたことがない。
しかも、この顔はやけに目がくりくりしている。愛らしい瞳はアメジスト色。プラチナブロンドの髪はゆるふわで、肌はもっちり薄ピンク。
乙女ゲームの悪役令嬢と言えば、つり目にドリルのような縦巻きロールが定番だった。髪型は色々あれども、怖そうなつり目は共通していたのだ。
(どうしよう。これ、睨んでも迫力あるかしら)
試しに鏡に向かって睨みを利かせてみるが、キレがない。ギロリじゃなく、キョロリだ。
(シナリオも分からないし、顔も可愛すぎるわ……どういうこと?)
今までとは違う始まり方に戸惑いを隠せない。鏡に手をついて考えてみるが、幼い脳はいい解答を出してくれない。
眉間に皺をよせたエリーナは、ハッと閃いた。顔を上げて、自分の新しい顔を見つめる。
(これはまさか……私がもうプロの域にいるから、ハードモードになったのね!)
この容姿で悪役令嬢はハードルが高いが、だからこそプロのプライドが刺激される。エリーナは、今までとは違う悪役令嬢に燃えた。
(考えてみれば、いつも同じような悪役令嬢じゃ、プレイヤーも飽きるわよね)
乙女ゲームではギャップも一つの重要な要素であることを、エリーナはよく知っていた。ゆえに、容姿が違っていても目指すものは変わらない。
(悪役令嬢の誇りにかけて、主人公をいじめぬいて断罪されるわ!)
今日から睨む練習をしないと、と思いながら姿見とにらめっこをしていると、ドアがノックされる音がした。
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