悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
100 / 194
学園編 18歳

94 図書室でお話ししましょう

しおりを挟む
 学園が始まり、春の暖かさが眠気を誘う今日この頃。エリーナは放課後に、新作が入ったという図書室に足を運んだ。度々通っていればもはや常連であり、司書とのコネを使って市井にはあまり出回らない南の国と西の国のロマンス小説を取り寄せてもらっていたのだ。各国の文化研究とかこつけて。
 ラウルやベロニカにお土産として両国のロマンス小説をもらってから、エリーナは機会があれば他国の小説も読むことにした。ラルフレア王国にはない文化や風習があるため、悪役令嬢の苛め方も告白の仕方も多少違いがある。
 そして新たに棚に並んでいた小説を三冊両腕に抱え、ほくほく顔のエリーナは見知った顔を見つけて目を丸くした。

「ルドルフ様?」

「あぁ、エリーナ嬢。来ると思ったよ」

 ルドルフは窓辺の席に座り、机に資料を積み上げていた。図書室は学術院にもあるが、一部は学園の図書室に保管されているため学術院の学生が利用することも多い。

「ルドルフ様が制服ではないのは、なんだか違和感がありますわ」

 学術院の学生は私服であり、ルドルフはややカジュアルなスーツを着ていた。公爵令息であり攻略対象でもあるので、私服のセンスも申し分ない。

「残念。そこはときめいて欲しかったな」

 そう本気か冗談か分からない笑みを浮かべ、ルドルフは向かいの席を手で指した。エリーナは本を机に置き、向かいの椅子に座る。こうやって二人で話すのは久しぶりな気がする。

「学術院はどうですか」

「とても刺激的だ。それにいい先輩方も多い」

 ルドルフとの年の差は一歳だけのはずなのに、ずいぶん先にいるような気がする。難しそうな本を読むルドルフは、この先官僚になりゆくゆくは宰相にもなるのだろう。

「尊敬いたしますわ」

 お世辞ではなく、心の底からそう思う。ルドルフは眼鏡の奥で目元を和ませ、「ありがとう」と照れ臭そうに笑ったのだった。そして思い出したように言葉を続ける。

「そう言えば、少し前からジーク様の様子が変なんだが。何か心当たりはあるか?」

「殿下の様子が変……」

 ジークに直接会ったのは陛下との会食の時が最後だ。言われてみればいつもよりは大人しかったようにも思う。それに、最近は学園で見かけてもあまり声をかけられなくなった。

「少し元気がないような気がしますね……なんだかよそよそしい気もします」

「ということは、エリーナ嬢が原因ではないということか」

「はい……特に何かがあったわけでもありませんし」

 ルドルフは顎に手をやって考え込んでいる。

「前に比べればずいぶん真面目に政務をするし、ラウル先生の影響で歴史に関心を持つようになったからいい傾向なんだが」

「大人しすぎて殿下らしくありませんよね」

 奔放で考えの甘いところもあったが、愚直に突き進むのがジークの良さでもあった。ルドルフは一度頷いて、軽く手を振る。

「すまない、答えの出ないことを考えてもしかたがないからな。ジーク様と話すことがあったら、気にかけておいてくれ」

「えぇ、わかりましたわ」

 ルドルフは少し困ったような表情で、机の上に開いていた本を閉じて山の上に積む。

「ジーク様は優しいからな……政治の世界にはあまり向いていないのではと思うこともある」

 ベロニカに言わせれば甘いの一言であり、上に立つ者としての気丈さや毅然さはまだ足りていない。そこをベロニカとルドルフが補っているが……。

「そのような方が王になれば、きっと優しい国になりますよ」

「そうだといいが、政治の世界は複雑に入り組み混沌としている。善意だけで生きていける場所ではない……ジーク様が王位につくまでに、一掃できればいいんだがな」

 ぼそりと呟かれた言葉に、エリーナは目を剥いて慌てて辺りを伺う。誰かが聞き耳を立てていたらまずい内容だ。ルドルフもそこは弁えており、図書室には遠くに座る司書の他に人はいなかった。

「ルドルフ様、あまり過激な振る舞いは止めてくださいね」

 エリーナが声を落として心配だと目で訴えた。彼は頭がきれるので下手なことはしないだろうが、逆に事を起こすなら盛大な一手を打ちそうなのだ。

「安心してくれ。具体的にどうこうという話ではない。だが、そうだな」

 そして彼は妖艶に微笑み、口元に人差し指を立てて当てた。不覚にもエリーナの心臓が跳ねる。秘密のポーズ一つで、すばらしく絵になる。リズがいればスチル絵だと騒ぐだろう。

「このことは二人だけの秘密にしよう。守ってくれるか?」

 色男の秘密はずるい。

「かまいませんわ。でも対価を要求してもよろしいかしら」

 それはちょっとした出来心だった。

「なんなりと」

「南の国にはマンゴープリンがあるそうですわ。もしレシピをご存知でしたら、教えていただけないかしら」

 ルドルフは一瞬虚を突かれた顔をしてから、声を上げて笑った。

「予想を裏切られたというか、むしろエリーナ嬢らしいというか」

 そしてニッと口角を上げ、面白そうに言葉を続ける。

「いいだろう。料理長に掛け合ってみる。それに、どうせならそちらの料理人を連れてきたらいい。試食もできるからな」

「よろしいんですか? 食べてみたかったんです」

 レシピだけを聞くよりも、実際作っている場を見せてもらうほうが確実であるし、エリーナも本場仕込みのマンゴープリンを食べてみたかった。そして間髪入れずに返事をしてから、あっと気が付く。

(これ、公爵家に遊びに行くことになっているわよね)

 見事に足元をすくわれていた。エリーナに利があることを選んだはずが、ルドルフの利のほうが大きい気がする。

「では、次の休みに」

 それを撤回する間をルドルフが与えるはずもなく、休みの日の予定が決まった。


 そして次の休日、エリーナは天使の双子と一緒に遊び幸せに包まれていた。だが、マンゴープリンを食べたエリーナは首を傾げる。直前にラルフレア王国にはないマンゴーを食べ、その甘さに驚いた。マンゴーは実においしい。だが。

「これ、プリンの必要があるのかしら」

 マンゴープリンというだけあって、食感はプルプルしておりプリンのようである。しかしエリーナにとってはプリンの味と食感全てが揃ってプリンなのだ。なので、マンゴーの主張が強いこれはゼリーだと主張したい。

「おいしいけれど、なんだかプリンが負けた気がするわ……」

 と難しい顔をするが、味はおいしいので三つをぺろりと食べきった。しっかり連れてきた料理長に作り方を覚えさせ、デザートのレパートリーに入れてもらう。

(マンゴーミルクゼリーということにしましょう)

 勝手に心中で着地点を見つけ、一人頷くエリーナ。その両隣で双子もマンゴープリンを食べており、おいしいと声をあげていた。

「お姉様は何のプリンが好きなの?」と右に座るローズが無邪気に笑って尋ねる。

「知りた~い」とリリーも顔を向けた。

「そうですね……」

 エリーナは真剣な表情で今まで食べたプリンを思い出し、むぅと唸る。どれも個性のあるプリンであり甲乙つけがたい。

「どれも好きですがあえて一番をつけるなら、普通のプリンですわ。それもプルプルでとろっととろけるプリンが好みです」

 その返答に、向かいで紅茶を飲んでいるルドルフが苦笑を浮かべる。

「エリーナ嬢はブレないな」

 その後双子たちと庭園を散策し、「また来てね」と手を振られてバレンティア家を後にした。
 そしてお土産に持って帰ったマンゴープリンを一口食べたクリスも、おいしいとは言いつつもこれはプリンかと首を傾げたのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...