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第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~
第6話 インシデント2:過去からの因縁
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ピクリッ!
ベアトレスに乳を与えられていたセルジオの動きが突然止まる。
「セルジオ様?
いかがなさいましたか?傷が痛みますか?」
ベアトレスは優しく語りかけながらセルジオの顔を覗き込む。
ボッボワッ!
「!!セルジオ様っ!いかがなさいましたかっ!」
覗きこんだセルジオの身体から青白い炎が燃え上がっている。ベアトレスはセルジオを放り投げそうになる自身を制した。
ドサリッ!!
部屋の外で何かが倒れた様な音が聞こえる。青白い炎が燃え上がったままのセルジオをベットへそっと寝かせるとベアトレスはドアへ近づいた。
「うぁぁぁぁ!うぁぁぁぁ!」
まるでベアトレスを呼び止めるかの様にセルジオは突然大きな声をあげた。ベアトレスはドアへ向かっていた足先をセルジオへ向き直す。
「どうなさいました?
その様な大きなお声をあげられて・・・・
セルジオ様のお声を聴きましたのは御母上様とのお別れの時以来です」
ベアトレスはセルジオを再びベッドから抱き上げた。
セルジオはドアの外に意識を向けている様だ。
「やはり、ドアの外に何かございますか?
誰か扉の外におりますか?
バルド様がお戻りになりましたでしょうか?」
セルジオの身体を揺らし、歌でも歌うかの様に話しかける。
しばらくするとセルジオはベアトレスに乳をねだった。燃え上がっていた青白い炎はいつの間にか消えていた。
「お食事再開ですか?分かりました。
沢山召し上がって下さいませ」
ベアトレスはにこやかに再び乳を与えた。
『バルド様もご覧になったと言っていた。
青白い炎・・・・目の錯覚ではない!』
ベアトレスは乳を与えながら『青白い炎』の正体が何なのか?を突き止めたい気持ちで一杯になっていた。
トンットンットンッ!
乳を飲み終え、空気を吐き出させた頃合いを見計らったかの様にドアを叩く音がした。
「ベアトレス様、セルジオ様のお食事はお済でしょうか?」
ドアの外からバルドが声をかける。
「バルド様、どうぞお入り下さい。
丁度、お食事を終えられました」
ベアトレスはセルジオをベットへ寝かせながら呼応した。
バルドが部屋に足を踏み入れた瞬間、ベアトレスは違和感を覚える。
「・・・・バルド様・・・
何やら先程までと雰囲気が異なる様に感じますが・・・・
いかがなさいましたか?」
バルドは表情を変えずに部屋に入る。
「ベアトレス様・・・・
少し長くなりますが、お耳に入れたき事と・・・・」
バルドは話の途中で一瞬、躊躇した様子を見せた。
バルドの様子にベアトレスは事態の深刻さを感じ取る。
「バルド様、私へのお気づかいは無用に存じます。
先程は取り乱しましたが、
次期エステール伯爵家セルジオ騎士団団長の
乳母をお引受けしました時より大方の覚悟はできております」
ベアトレスは真っ直ぐにバルドを見た。
「・・・・わかり申しました。
話の途中でご気分が悪くなりましたらご遠慮なく仰って下さい」
バルドもベアトレスに向き合う。
「承知致しました」
ベアトレスは背筋を伸ばし、目を閉じ大きく一呼吸した。ベアトレスが再び目を開けるのを見るとバルドはゆっくりと話し始めた。
「今しがた、セルジオ様のお命を狙ったやからを一名討ち取り、
その躯をエステール伯爵家へ持ち込みました」
予想を大きく超えた話にベアトレスは一瞬目まいを覚え、足元がふらついた。ベアトレスの様子にバルドは少しホッとした表情を見せる。
「ベアトレス様、
少々このままにてお待ち下さい。椅子をご用意致します」
セルジオの居室には椅子は置いておらず、ベアトレスは乳を与える時はセルジオのベットに腰かけていた。
「ご面倒をおかけ致します」
ベアトレスは恥ずかしそうに言う。
「いえ、長くなります故、
私も腰をおろして話をさせて頂きます」
バルドは先程の交戦と躯を運んだ事で戦場で痛めた左胸と右腰の傷がうずくのを堪えていた。
『これしきの事で傷がうずくとは・・・・
やはり、再び戦場へは・・・・』
バルドは自身の身体に騎士であるが故の寂しさを感じていた。
3つに区切られたセルジオの部屋の一室は武具置き場と簡易な訓練場になっている。バルドはその部屋から木の椅子を二脚持出し、セルジオの居室へと運んだ。
「ベアトレス様、
お待たせを致しました。こちらへお掛け下さい」
セルジオが寝ているベットのドア側へ二脚の木の椅子を置いた。
『まるで、椅子でセルジオ様をお守りするように・・・』
ベアトレスはバルドの「将を守る」自然の動きに自身の浅はかさを恥じた。
2人はそれぞれ椅子に腰かける。バルドは再び話し始めた。
「セルジオ様の手に紐が食い込んでいました時、
窓の外には3人の男がおりました。
そして、最上階から手鏡信号を送る1人が
始末をしました曲者です。
この者・・・・乳母でございました」
ベアトレスは耳を疑い、話の途中で思わず聞き返す。
「!!もう一度、お話し頂けますか?曲者は乳母ですか?」
バルドはうなずく。
「はい、この3ヶ月、私は訓練施設の内情を調べておりました。
訓練施設内にいる者の顔、家名、名前、役割等は全て存じております」
ベアトレスはバルドの役割を聞かされてはいなかった。が、従士は護衛役と教育係を兼ねている事は知っていた。しかし、訓練施設内の全てをくまなく調べていたとは露ほども思っておらず、目を見開きバルドをまじまじと見つめた。
「その様な大変なお役目をされていたとは存じず、
乳母としての私の働きぶりをさぞや・・・・
お腹立ちだったのではありませんか?」
バルドの話の途中だと分かってはいるものの伝えられずにはいられない心境を素直に語る。
「その様な事はございません。
セルジオ様とセルジオ様の成長を
何より大切に想われている事は伝わっておりました」
バルドもベアトレスに対して感じていた事を率直に伝える。
再び、厳しい表情に戻りバルドは話を続ける。
「3人の男は口ひげを生やしておりました。
口ひげを生やす事を許しておりますのは、
シュタイン王国内でマデュラ子爵家のみ。
始末しました乳母もマデュラ子爵家の者にございました」
ベアトレスはバルドの話にもはや驚きを隠す術がなかった。
「マデュラ子爵家の乳母!でいらっしゃいますか?
私、何度か水屋にて声を掛けられましたっ!」
ベアトレスは、バルドが始末をした乳母と自身が顔見知りであった事に背中に冷たいものを感じる。
「どのようなお話しをされましたか?
セルジオ様の事等それとなく聞かれたのではありませんか?」
バルドの問いにベアトレスは肝を冷やす。
「その通りです。
お互い乳母同士と言う事もあり、
乳の出や間隔等のお話もしました!!
・・・・あっ!あぁ!
セルジオ様の手に巻き付いていた紐は
私がセルジオ様の居室へ赴く時間を知ってのこと!」
ベアトレスは何気ない会話でセルジオを危険にさらした事、セルジオの命を狙う手助けをした事を悟り、勢いよく椅子から立ち上がる。
「・・・・ベアトレス様、
どうかお気になさらずに。まずは椅子へお座り下さい」
バルドはベアトレスが動揺している事を自覚させる為、諭すように腰かける事を促した。
ストンッ
「!!失礼を致しました!私は・・・・また・・・」
ベアトレスは大きく息を吐き椅子に腰かける。その様子にバルドは話を続ける。
「通常はこの訓練施設内は訓練以外は一番安全な場所です。
が・・・・今回はたまたま、エステール伯爵家と
マデュラ子爵家の訓練者が重なった事で起こった事です。
ベアトレス様がご自身を責める事ではございません」
ベアトレスはセルジオの実母アレキサンドラの実家であるカルセドニー子爵家に仕えた女官であった。アレキサンドラに乞われ、セルジオの乳母になった。エステール伯爵家の事を何も知らされずセルジオの乳母となったベアトレスをバルドは哀れに思っていた。
「バルド様・・・・
私はアレキサンドラ様のご実家である
カルセドニー子爵家にてお仕えしてまいりました。
エステール伯爵家の歴史も知らずに
安々と乳母をお引受してしまいました・・・・」
ベアトレスは自分自身にほとほと嫌気がさしていた。
『なんと!私は浅はかなのだろう』
悔し涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
「ベアトレス様、その様な事をお気になさいますな。
何より大切な事はアレキサンドラ様が
ベアトレス様にセルジオ様を託された事です」
バルドはこの3ヶ月、ベアトレスがセルジオをどれほど愛しみ、大切に接してきたかをも見ていた。アレキサンドラがわざわざ実家から呼び寄せた事も納得できていた。バルドは話しを元に戻し続けた。
「今の世で、シュタイン王国内で争いが起こるとは誰も思っておりません。
また、起こそうと思う者もおりません。表向きは・・・」
シュタイン王国の内情を話す。
「されど・・・・
悲しい事に遠く過ぎた昔のできごとから逃れられず、
未だ終わってはいないと思う者もおります」
バルドは目を伏せ少し悲し気な顔を見せた。
「それは・・・・
エステール伯爵家とマデュラ子爵家のことなのでしょうか?」
ベアトレスは今回の事の真意が知りたいと思った。
バルドは顔を上げ、ベアトレスを真っ直ぐに見る。
「・・・・ベアトレス様、
これよりお話し致します事は、
これからこの訓練施設で起こりうることへのお覚悟と
セルジオ様を我ら2人でお守りする為に必要な事となります。
セルジオ様が7つの年を迎えられるまで、
訓練施設より出られる時まで、続けなければならぬやもしれません。
ご承知おき下さいますか?」
バルドは言葉を選びながら話し、ベアトレスの返答を待つ。
「はい!元より覚悟はできております。
取り乱し誠に申し訳けございません」
ベアトレスは頭を下げ、バルドに謝罪した。
「承知しました。
エステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁をお話し致しましょう」
バルドは再び背筋を伸ばし、ベアトレスと向き合う。次の瞬間、バルドとベアトレスが腰かけている椅子の隣のベッドで寝ていたセルジオの身体が『ビクリッ!』と大きく浮き上がった。
ベアトレスとバルドはセルジオの動きに咄嗟に反応し同時に椅子から立ち上がった。
ベアトレスに乳を与えられていたセルジオの動きが突然止まる。
「セルジオ様?
いかがなさいましたか?傷が痛みますか?」
ベアトレスは優しく語りかけながらセルジオの顔を覗き込む。
ボッボワッ!
「!!セルジオ様っ!いかがなさいましたかっ!」
覗きこんだセルジオの身体から青白い炎が燃え上がっている。ベアトレスはセルジオを放り投げそうになる自身を制した。
ドサリッ!!
部屋の外で何かが倒れた様な音が聞こえる。青白い炎が燃え上がったままのセルジオをベットへそっと寝かせるとベアトレスはドアへ近づいた。
「うぁぁぁぁ!うぁぁぁぁ!」
まるでベアトレスを呼び止めるかの様にセルジオは突然大きな声をあげた。ベアトレスはドアへ向かっていた足先をセルジオへ向き直す。
「どうなさいました?
その様な大きなお声をあげられて・・・・
セルジオ様のお声を聴きましたのは御母上様とのお別れの時以来です」
ベアトレスはセルジオを再びベッドから抱き上げた。
セルジオはドアの外に意識を向けている様だ。
「やはり、ドアの外に何かございますか?
誰か扉の外におりますか?
バルド様がお戻りになりましたでしょうか?」
セルジオの身体を揺らし、歌でも歌うかの様に話しかける。
しばらくするとセルジオはベアトレスに乳をねだった。燃え上がっていた青白い炎はいつの間にか消えていた。
「お食事再開ですか?分かりました。
沢山召し上がって下さいませ」
ベアトレスはにこやかに再び乳を与えた。
『バルド様もご覧になったと言っていた。
青白い炎・・・・目の錯覚ではない!』
ベアトレスは乳を与えながら『青白い炎』の正体が何なのか?を突き止めたい気持ちで一杯になっていた。
トンットンットンッ!
乳を飲み終え、空気を吐き出させた頃合いを見計らったかの様にドアを叩く音がした。
「ベアトレス様、セルジオ様のお食事はお済でしょうか?」
ドアの外からバルドが声をかける。
「バルド様、どうぞお入り下さい。
丁度、お食事を終えられました」
ベアトレスはセルジオをベットへ寝かせながら呼応した。
バルドが部屋に足を踏み入れた瞬間、ベアトレスは違和感を覚える。
「・・・・バルド様・・・
何やら先程までと雰囲気が異なる様に感じますが・・・・
いかがなさいましたか?」
バルドは表情を変えずに部屋に入る。
「ベアトレス様・・・・
少し長くなりますが、お耳に入れたき事と・・・・」
バルドは話の途中で一瞬、躊躇した様子を見せた。
バルドの様子にベアトレスは事態の深刻さを感じ取る。
「バルド様、私へのお気づかいは無用に存じます。
先程は取り乱しましたが、
次期エステール伯爵家セルジオ騎士団団長の
乳母をお引受けしました時より大方の覚悟はできております」
ベアトレスは真っ直ぐにバルドを見た。
「・・・・わかり申しました。
話の途中でご気分が悪くなりましたらご遠慮なく仰って下さい」
バルドもベアトレスに向き合う。
「承知致しました」
ベアトレスは背筋を伸ばし、目を閉じ大きく一呼吸した。ベアトレスが再び目を開けるのを見るとバルドはゆっくりと話し始めた。
「今しがた、セルジオ様のお命を狙ったやからを一名討ち取り、
その躯をエステール伯爵家へ持ち込みました」
予想を大きく超えた話にベアトレスは一瞬目まいを覚え、足元がふらついた。ベアトレスの様子にバルドは少しホッとした表情を見せる。
「ベアトレス様、
少々このままにてお待ち下さい。椅子をご用意致します」
セルジオの居室には椅子は置いておらず、ベアトレスは乳を与える時はセルジオのベットに腰かけていた。
「ご面倒をおかけ致します」
ベアトレスは恥ずかしそうに言う。
「いえ、長くなります故、
私も腰をおろして話をさせて頂きます」
バルドは先程の交戦と躯を運んだ事で戦場で痛めた左胸と右腰の傷がうずくのを堪えていた。
『これしきの事で傷がうずくとは・・・・
やはり、再び戦場へは・・・・』
バルドは自身の身体に騎士であるが故の寂しさを感じていた。
3つに区切られたセルジオの部屋の一室は武具置き場と簡易な訓練場になっている。バルドはその部屋から木の椅子を二脚持出し、セルジオの居室へと運んだ。
「ベアトレス様、
お待たせを致しました。こちらへお掛け下さい」
セルジオが寝ているベットのドア側へ二脚の木の椅子を置いた。
『まるで、椅子でセルジオ様をお守りするように・・・』
ベアトレスはバルドの「将を守る」自然の動きに自身の浅はかさを恥じた。
2人はそれぞれ椅子に腰かける。バルドは再び話し始めた。
「セルジオ様の手に紐が食い込んでいました時、
窓の外には3人の男がおりました。
そして、最上階から手鏡信号を送る1人が
始末をしました曲者です。
この者・・・・乳母でございました」
ベアトレスは耳を疑い、話の途中で思わず聞き返す。
「!!もう一度、お話し頂けますか?曲者は乳母ですか?」
バルドはうなずく。
「はい、この3ヶ月、私は訓練施設の内情を調べておりました。
訓練施設内にいる者の顔、家名、名前、役割等は全て存じております」
ベアトレスはバルドの役割を聞かされてはいなかった。が、従士は護衛役と教育係を兼ねている事は知っていた。しかし、訓練施設内の全てをくまなく調べていたとは露ほども思っておらず、目を見開きバルドをまじまじと見つめた。
「その様な大変なお役目をされていたとは存じず、
乳母としての私の働きぶりをさぞや・・・・
お腹立ちだったのではありませんか?」
バルドの話の途中だと分かってはいるものの伝えられずにはいられない心境を素直に語る。
「その様な事はございません。
セルジオ様とセルジオ様の成長を
何より大切に想われている事は伝わっておりました」
バルドもベアトレスに対して感じていた事を率直に伝える。
再び、厳しい表情に戻りバルドは話を続ける。
「3人の男は口ひげを生やしておりました。
口ひげを生やす事を許しておりますのは、
シュタイン王国内でマデュラ子爵家のみ。
始末しました乳母もマデュラ子爵家の者にございました」
ベアトレスはバルドの話にもはや驚きを隠す術がなかった。
「マデュラ子爵家の乳母!でいらっしゃいますか?
私、何度か水屋にて声を掛けられましたっ!」
ベアトレスは、バルドが始末をした乳母と自身が顔見知りであった事に背中に冷たいものを感じる。
「どのようなお話しをされましたか?
セルジオ様の事等それとなく聞かれたのではありませんか?」
バルドの問いにベアトレスは肝を冷やす。
「その通りです。
お互い乳母同士と言う事もあり、
乳の出や間隔等のお話もしました!!
・・・・あっ!あぁ!
セルジオ様の手に巻き付いていた紐は
私がセルジオ様の居室へ赴く時間を知ってのこと!」
ベアトレスは何気ない会話でセルジオを危険にさらした事、セルジオの命を狙う手助けをした事を悟り、勢いよく椅子から立ち上がる。
「・・・・ベアトレス様、
どうかお気になさらずに。まずは椅子へお座り下さい」
バルドはベアトレスが動揺している事を自覚させる為、諭すように腰かける事を促した。
ストンッ
「!!失礼を致しました!私は・・・・また・・・」
ベアトレスは大きく息を吐き椅子に腰かける。その様子にバルドは話を続ける。
「通常はこの訓練施設内は訓練以外は一番安全な場所です。
が・・・・今回はたまたま、エステール伯爵家と
マデュラ子爵家の訓練者が重なった事で起こった事です。
ベアトレス様がご自身を責める事ではございません」
ベアトレスはセルジオの実母アレキサンドラの実家であるカルセドニー子爵家に仕えた女官であった。アレキサンドラに乞われ、セルジオの乳母になった。エステール伯爵家の事を何も知らされずセルジオの乳母となったベアトレスをバルドは哀れに思っていた。
「バルド様・・・・
私はアレキサンドラ様のご実家である
カルセドニー子爵家にてお仕えしてまいりました。
エステール伯爵家の歴史も知らずに
安々と乳母をお引受してしまいました・・・・」
ベアトレスは自分自身にほとほと嫌気がさしていた。
『なんと!私は浅はかなのだろう』
悔し涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
「ベアトレス様、その様な事をお気になさいますな。
何より大切な事はアレキサンドラ様が
ベアトレス様にセルジオ様を託された事です」
バルドはこの3ヶ月、ベアトレスがセルジオをどれほど愛しみ、大切に接してきたかをも見ていた。アレキサンドラがわざわざ実家から呼び寄せた事も納得できていた。バルドは話しを元に戻し続けた。
「今の世で、シュタイン王国内で争いが起こるとは誰も思っておりません。
また、起こそうと思う者もおりません。表向きは・・・」
シュタイン王国の内情を話す。
「されど・・・・
悲しい事に遠く過ぎた昔のできごとから逃れられず、
未だ終わってはいないと思う者もおります」
バルドは目を伏せ少し悲し気な顔を見せた。
「それは・・・・
エステール伯爵家とマデュラ子爵家のことなのでしょうか?」
ベアトレスは今回の事の真意が知りたいと思った。
バルドは顔を上げ、ベアトレスを真っ直ぐに見る。
「・・・・ベアトレス様、
これよりお話し致します事は、
これからこの訓練施設で起こりうることへのお覚悟と
セルジオ様を我ら2人でお守りする為に必要な事となります。
セルジオ様が7つの年を迎えられるまで、
訓練施設より出られる時まで、続けなければならぬやもしれません。
ご承知おき下さいますか?」
バルドは言葉を選びながら話し、ベアトレスの返答を待つ。
「はい!元より覚悟はできております。
取り乱し誠に申し訳けございません」
ベアトレスは頭を下げ、バルドに謝罪した。
「承知しました。
エステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁をお話し致しましょう」
バルドは再び背筋を伸ばし、ベアトレスと向き合う。次の瞬間、バルドとベアトレスが腰かけている椅子の隣のベッドで寝ていたセルジオの身体が『ビクリッ!』と大きく浮き上がった。
ベアトレスとバルドはセルジオの動きに咄嗟に反応し同時に椅子から立ち上がった。
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