とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第26話:剣の神聖

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うまやで荷留めを終えたバルドとオスカーが部屋へ戻るとエリオスがセルジオの身支度みじたくを手助けをしていた。

バルドとオスカーは開いている扉の影でセルジオとエリオスの様子をうかがうことにする。

「セルジオ様、
ローブを着けてからセルジオ騎士団のマントをまとって下さい。
あっ、ブーツのひもがまだでしたね。
先にブーツの紐を結びましょう。
椅子に腰かけて下さい。こちらは私がお手伝いします」

エリオスがかいがいしくセルジオの世話をやいている。

「エリオス・・・・
何事も己でできるようにならねばいけないのだ・・・・
その・・・・私を甘やかさないでくれ・・・・」

セルジオは少し沈んだ表情でエリオスの手助けを受けてよいのかを迷っている様子だ。

「セルジオ様、
バルド殿とオスカーが戻り次第、水の城塞の方々へご挨拶にまいります。
今、優先すべきはときにございます。
ブーツのひもを結ぶのは時がかかりますから
今は、私にお任せ下さい。バルド殿もきっとお許し下さいます」

エリオスはニコリと微笑むと椅子いすに座らせたセルジオの足を台座だいざに乗せ、ブーツの紐を器用に結びだした。

「・・・・エリオスは・・・・
エリオスは何事も上手うまくできるな・・・・
私は、いつも皆に手数をかけるばかりだ・・・・
すま・・・・感謝もうす」

エリオスがブーツの紐を器用に結ぶ姿をじっと見ながらセルジオが呟く様に礼を言った。
エリオスはセルジオを見上げると満面の微笑みをセルジオへ向ける。

「セルジオ様!
私はこの様にセルジオ様のお手伝いができることが嬉しいのです。
今もしセルジオ様が襲撃しゅうげきされたとしても
私は何もできません。お守りする事もできません」

「でも、セルジオ様の身の回りのお手伝いでしたら
私にもできるのです。私はセルジオ様より2歳年長です。
その分、ブーツの紐を結ぶ回数をこなしています」

「セルジオ様が私の年になる頃には
今、私ができていること全てお出来になります。
今、私がセルジオ様の守護の騎士としてできることを
させていただけませんか?私は嬉しいのです」

エリオスはそう言うと再びセルジオへ満面の笑みを向けた。

セルジオはエリオスの満面の笑顔に釘づけになる。今まで、エリオスが見せたどの笑顔よりも光り輝いて見えた。
セルジオは胸の辺りにぐっと熱いものが湧きあがる様に感じた。左手こぶしを胸に置く。

「そう・・・・そうなのか。
エリオス、感謝もうす・・・・エリオスの・・・・
その微笑みに胸が熱くなった・・・・」

ピタリッ!

セルジオのブーツの紐を結ぶエリオスの手が止まる。
ゆっくりと顔をあげセルジオを見る。

「はい!セルジオ様!」

エリオスは先程とは少し違う、喜びの溢れ出た笑顔をセルジオへ向けた。

扉の影で2人の様子を見ていたバルドとオスカーは顔を見合わせる。
オスカーは何とも言えない愛おしそうな微笑みを浮かべていた。

バルドはオスカーへ優しく微笑むと部屋の扉を叩いた。

トンットンットンッ

「セルジオ様、エリオス様、
ご準備は整いましたか?」

バルドはオスカーと共に部屋へ入るとセルジオとエリオスへ声をかけた。

「バルド、オスカー、旅の準備を感謝もうす。
今、エリオスにブーツの紐を結んでもらっている。
後はローブとマントをまとうだけだ」

セルジオが嬉しそうに答えた。

「左様にございますか。エリオス様、感謝申します。
セルジオ様とエリオス様は馬に乗って頂きますから
ブーツの紐は少しゆるめにお願いします」

バルドはエリオスへ礼を言う。

「承知しました。後、右側のみになります。
今しばらくお待ち下さい」

エリオスは手を止めずにバルドへ返答した。

「エリオス様、感謝申します。
では、我らは部屋をもう一度、乱れがないか確認致します。
セルジオ様、ブーツの紐を結び終えましたらローブとマントを纏って下さい」

「承知した」

バルドとオスカーはアロイスから借り受けていた3つ連なる部屋が綺麗に整えられているかの確認に入った。

サッ!バサッ!
サッ!バサッ!

3つ連なる部屋の確認が終わるとバルドとオスカーはローブとセルジオ騎士団の金糸で縁取られた蒼いマントを纏う。

2人のマントをまとう姿が美しくセルジオとエリオスは眼を見張った。
セルジオがつぶやく。

「何度見ても美しいと思うのだ。
早く、バルドやオスカーの様に綺麗にマントを纏いたい」

エリオスが呼応する。

「はい、私も同じ事を思っていました。
背丈せたけが高くなればあのように綺麗に
マントをまとえるのでしょうか?
肉を沢山に食べねばなりませんね」

食の細いセルジオはエリオスの言葉にえっと
言う顔を向ける。

「そっ、そうだな・・・・
肉を沢山に食せば背丈も高くなるのだな・・・・
肉を・・・・干し肉でなくてもよいのか?」

干し肉の匂いがどうしても好きになれないセルジオはエリオスにそっとたずねる。
エリオスはふふふっと笑って答えた。

「干し肉でなくてもよいかと。
山羊の乳やチーズを食しても背丈が高くなると
聞いたことがあります・・・・それでも肉が一番ですね。
料理長のオットーも申していましたから・・・・
肉を沢山食せねば大きくならぬと」

セルジオは少しほっとした表情をするも残念そうにつぶやいた。

「そうなのか。肉を食せねばならぬな・・・・」

バルドとオスカーはセルジオとエリオスのやり取りを微笑ましくながめる。
セルジオがセルジオ騎士団のマントを背負う様に纏うとセルジオを先頭に部屋を後にし、食堂棟へ向かった。

ラドフォール騎士団、第三の城塞、水の城塞に仕える騎士と従士、その他使用人まで全てが食堂棟に一同に会していた。

食堂棟の両開きの扉をバルドとオスカーは左右から開ける。

ガコッ!
ギイィィィ!

セルジオを先頭に食堂棟に入るとアロイスが出迎えた。アロイスがセルジオの前でかしづくと食堂棟に会した200名強の者がアロイスにならい一斉にかしづく。

ザッ!

セルジオはぎょっとした。エステール伯爵家より爵位が上位のラドフォール公爵家の騎士団団長がセルジオ騎士団団長の名代とはいえ、セルジオにかしづくことはあり得ないことだったからだ。

しかし、青き血が流れるコマンドールの再来であると水の精霊ウンディーネが認めたことでセルジオはシュタイン王国にとってなくてはならない存在となった。

セルジオはその事をアロイスから散々言い含められた事を思い出すと姿勢を正し、アロイスの前に進みでる。
エリオス、バルド、オスカーはセルジオの後ろで静かにかしづいた。

アロイスがかしづいたまま声を発する。

「青き血が真に目覚めた青き血が流れるコマンドールにご挨拶申し上げます。
ラドフォール騎士団団長アロイス・ド・ラドフォール、
並びに控えますは我がラドフォール騎士団水の城塞
騎士と従士、城塞にて役目を担う者248名、
この度のご滞在、つつがなく終えますことに安堵いたしております。
また、我が騎士団への剣術と弓術の手合わせを頂き感謝申します。
これよりの貴族騎士団巡回に神と聖霊の守りあらんことを願い、
剣の神聖にて祈念いたします」

アロイスの言葉が終わるとかしづく者が一斉に立ち上がった。
腰に携えている剣をさやから抜くと高々と天に向けてかかげる。

ザザッ!
キィィン!!
バッ!

アロイスが大声で宣誓せんせいする。

「神と聖霊せいれい御名みなにおいて、
今ここに目覚めし青き血が流れるコマンドールと
守護の騎士らへ剣の神聖により幸いあらん事を!」

「幸いあらん事をっ!」

食堂棟に248名の声が響き渡った。
セルジオは圧倒され、後ろへ後づさりそうになる。
セルジオの後ろでかしづいていたバルドがそっとセルジオの背中に手をおき、耳打ちした。

「セルジオ様、そのままに!
そのまま、姿勢を正し、皆様の祝福を受けるのです。
おされてはなりません」

「セルジオ様は青き血が流れるコマンドールの再来、
そして、セルジオ騎士団団長の名代でございます。
姿勢を正し、りんとなさいませ!」

バルドの言葉にセルジオは一つ深く息を吸い込むと静かに呼吸を整えた。姿勢を正す。

剣の神聖の言葉が終わるとアロイスを含む248名の騎士と従士は再びかしづいた。
バルドはセルジオの背中をそっと触る。

「セルジオ様、返礼のお言葉を・・・・」

コクリッ

セルジオはバルドの言葉にうなずくと大きく息を吸った。

「ラドフォール騎士団団長、アロイス・ド・ラドフォール様、
ラドフォール騎士団水の城塞、騎士と従士、並びにこちらに集う皆様、
この度の我ら滞在のこと数々のお心づかい感謝申します。
ただ今、授かりました剣の神聖をこの身に深く刻み、
これよりの貴族騎士団巡回を全ういたします。
誇り高きラドフォール騎士団とセルジオ騎士団の
強く結ばれた絆を未来永劫みらいえいごう違わぬことを
今ここにお誓いいたします」

「はっ!!」

アロイス含む248名は一斉に呼応した。セルジオの後ろでかしづく、エリオス、バルド、オスカーもアロイスらにならう。

セルジオは再び声を発した。

「皆様、この度のこと、生涯忘れません。感謝もうします」

セルジオは左手を胸におき、騎士の挨拶をした。エリオス、バルド、オスカーは立ち上がるとセルジオにならう。

しばらくの間、セルジオは騎士の挨拶の体勢を続けた。
顔を上げ姿勢を正すと出発の合図をする。

「これより我ら出立いたします!」

「はっ!!」

248名の呼応を受けるとセルジオはくるりと扉へ向き直る。セルジオ騎士団のマントがヒラリとなびいた。

エリオス、バルド、オスカーはセルジオの後に続き、ラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞食堂棟を後にするのだった。

【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

3週間に渡った貴族騎士団巡回、最初の地、ラドフォール騎士団水の城塞を去る時がきました。

新たな縁で新たな人々と交流する度にセルジオは人間らしく、そして年相応の子供になっていくように感じています。

今も昔もご縁と経験が人の成長を後押しするのだと実感です。

明日もよろしくお願い致します。



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