とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

文字の大きさ
94 / 216
第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第33話:火焔の城塞 外城門

しおりを挟む
バルドとオスカーはそれぞれセルジオとエリオスを乗せ、ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔かえんの城塞へ向け、早がけで馬を走らせていた。

パカラッパカラッパカラッ・・・・
パカラッパカラッパカラッ・・・・

整えられた林道を北へ向かう。行く手が明るく感じられると先頭を走るバルドは徐々に速度を落とした。

パカラッパカラッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
カッカッカッ・・・・

速度を落とし暫く進むと馬の歩みを止める。

「どう、どう・・・・」

ブルルルッ・・・・
カッカッカッ・・・・

大きく開けた林道の先に堅牢けんろうな城壁が見えた。

「オスカー殿、火焔の城塞城壁が見えてきました。
火焔の城塞外城門ははね橋です。
橋を下してもらわねば城塞内には入れません。
外城門前までこのまま進みましょう」

ラドフォール公爵家、ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞はリビアン山脈の一つアウィン山の中腹に位置していた。

ラドフォール騎士団団長アロイスの妹カルラは火焔の城塞から麓の街までを治めている。火焔の城塞を含むカルラが管理する所領はエステール伯爵家所領のおよそ半分の面積を有していた。

火焔の城塞の街をぐるりと囲む城壁はアウィン山とシュピリトゥス森を隔てる崖に沿って築かれている。
城壁内へは南の外城門のはね橋を下してもらわなければ足を踏み入れることはできない造りになっていた。

ラドフォール公爵家所領に広がるシュピリトゥス森のほぼ中央に位置する火焔の城塞は光と闇の妖精の影響を最も受けやすい。

妖魔のあやかし、闇の影響を防ぐためにシュピリトゥス森と隔てた崖からアウィン山へ向けて街が築かれていた。

カコッカコッカコッ・・・・
カコッカコッカコッ・・・・

バルドとオスカーは並行して外城門へ向けて進んだ。外城門が目の前に現れる。少し先の崖から風が音を立てて登ってくる。

ゾクリッ!

セルジオとエリオスは同時に身体を震わせた。

「セルジオ様、お寒いですか?」

バルドがセルジオの身体の震えに気付き、声を掛ける。

「いや・・・・寒くない・・・
寒くないが、身体が震えた。ゾクリとした・・・・」

セルジオは堅牢な外城門に目をとめ、ありのままをバルドに伝える。
バルドはセルジオの頭をそっとなでると優しい声音で呼応した。

「左様ですか。ゾクリとしましたか。
セルジオ様、身体は正直なのです。
心が感じずとも身体は反応します」

「この様な絶壁ぜっぺきの前にたたずみ、
崖より湧き上がる風を受けていれば我らとて身体が震えます。
これは自然に対する畏怖いふです」

「我らの力では人の力ではどうにもできないこと、
どうにもならない自然の力に我らは畏怖いふを感じるのです。
精霊に対するものと似ていますね。
おそ うやまうことです。
セルジオ様も畏怖を感じてみえるのですよ」

セルジオはくるりと首を後ろへ回し、バルドの顔を見る。

「そうなのか?
私も畏怖いふを感じたのか!
感じることができたのだな!
バルド、そのこと教えてくれ感謝もうす」

生まれて初めて浴びせられた悪意ある言葉と自身の行動とは関係なく、抱かれる嫌悪の感情をセルジオはヨシュカを通して知った。

自分自身では感じることのできない感情がこんなにもいともた易く人の言動に影響を及ぼすのだと初めて知ったのだ。

セルジオはバルドから『畏怖を感じた』と言ってもらえたことが嬉しく感じた。

どのような感情であれ、感じることができたことが嬉しかったのだ。
セルジオは自身が感じたままをバルドに伝える。

「バルド、畏怖を感じることができて嬉しい。
先程、ヨシュカは私を嫌いだと言った。
嫌いであるから声も聞きたくない、
顔も見たくないと言った」

「心の震えは良いことでも
悪いことでも起こるのだと知ったのだ・・・・
私はヨシュカに何かしたのだろうかと思い返してみたが・・・・
わからないのだ・・・・」

「ヨシュカのことがわからないのは
私の心が震えないからだとしか思えずにいた・・・・
だから畏怖が感じられて嬉しいのだ」

セルジオはバルドへニコリと微笑みを向けた。

「セルジオ様、
心の震えも震えの感じ方も人それぞれなのです。
皆が同じではありません。
一つ一つを受け止める事も大切な見聞です。
されど、受け流すことが必要な時もあります。
今は一つ一つ、存分に受け止められませ」

バルドはセルジオの頭を優しくなでた。

ガコンッッ!!!
ギィギィィィィ・・・・
ズゥゥン!!

城壁門の橋が大きな音を立てて下りた。

ゴゴゴゴゴ・・・・

火焔の城塞城門が開くと3頭の馬にまたがる銀糸で縁取られた深い紫色のラドフォール騎士団のマントをまとった重装備の騎士が姿を現した。

バルドとオスカーは、早がけのためセルジオとエリオスの身体と繋いでいた革のベルトを外すと馬からヒラリと下りた。
セルジオとエリオスを馬から下すとセルジオを先頭に橋のたもとでかしづいた。

パカッパカッパカッ・・・
パカッパカッパカッ・・・

3頭の馬にまたがるラドフォール騎士団の騎士が下されたはね橋を渡り、セルジオ達へ近づく。

カッカッカッ・・・・
トサッ!
ガチャ!

1人が馬から下り、セルジオへ歩みを進める。

ガバッ!!
フワリッ!

かしづくセルジオを抱き上げると嬉しそうに大きな声を上げた。

「セルジオ殿っ!
元気そうではないか!よく参られたっ!
いや、待ちわびたぞっ!
ようこそ、我が火焔の城塞へお出で下されたっ!
歓迎いたすぞっ!」

ラドフォール騎士団団長アロイスの妹、カルラだった。

自らセルジオを出迎えにきていた。
セルジオは突然、抱き上げられ驚きを隠せなかった。

「!!!カルラ様!!
お久しゅうございます!あのっ・・・・」

抱きかかえられたまま挨拶を続けていいものか言葉を詰まらせる。

「はははっ!なんだ?セルジオ殿。
私に抱えられるのは不服か?
ならば・・・・
このようにしてやるっ!!
ははははっ!」

カルラはセルジオの頬へ自身の頬を合わせて羽交い絞めにすり寄せた。

「ははははっ!どうだ?
セルジオ殿っ!これでも不服か?」

カルラの言動にセルジオはされるがままに困惑した顔をバルドへ向ける。

バルドは優しい微笑みを向けていた。

『よかった。
嫌悪も憎悪も知らねばならないが、
今はまだ、今はまだ、今少しの時だけ、
この様にセルジオ様に好意を寄せて下さる方々の
お傍に寄せて頂きたいものだ』

バルドはカルラとセルジオの戯れる姿を微笑ましく思うのだった。


【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞外城門に到着致しました。

やっとたどり着いたと感じています。

置かれた立場と状況で考え方も受け止め方も変わるのが人間だと改めて思います。

セルジオがこれから体験していくであろう正論だけでは通らない『感情』という代物にどうか翻弄されません様に・・・・

明日もよろしくお願い致します。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...