とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第35話:青白き炎の制御

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火焔の城塞麓の修道院で一晩を過ごした翌日の早朝、セルジオとエリオスは修道院の中庭で3日ぶりに剣の手合わせをした。

カンッカッカンッ!!
カカッカンッ!!

中庭に木剣が交わる音が響く。
修道院の隣にある孤児院の子供たちも同じ様に木剣を交える。

修道院の中庭はさながら騎士団城塞の訓練場の様であった。

シュタイン王国の各貴族家名に設けることが義務付けられている事柄の一つに修道院と孤児院の設置があった。
孤児院で育つ孤児たちは、里親があれば引き取られる。なければ7歳を迎える頃に貴族や騎士団へ従士見習いや小姓として仕える。

その為、訓練施設で育つ騎士の卵たちと同じ様に読み書きに始まり、剣術をはじめとする武術の訓練も受けていた。

11月半ばを過ぎた早朝の空気は冷たく、手合わせの熱気が湯気となり、修道院の中庭に湧き上がる。
暫くすると火焔の城塞修道院院長のミーナがそろそろ礼拝の時間だと手合わせを終える様にうながした。

「カルラ様、礼拝には参列されますか?」

修道院院長のミーナが汗を拭うカルラに訊ねる。

「そうだな。
今朝はセルジオ殿と守護の騎士殿がお見えだからな・・・・
セルジオ殿はいかがなさるか?朝の礼拝に参列されるか?」

カルラはセルジオへ話しを振った。
セルジオはバルドの顔をチラリと見る。バルドは静かに頷いて見せた。

「はい、カルラ様。参列いたします」

セルジオはバルドからできうることは全て見聞する様にとさとされたあの日から積極的な行動を取る様になっていた。

「そうか。では、皆で参列するとしよう。
礼拝が終わり次第、火焔の城塞へ向かうとしよう。よいか?」

「はっ!承知致しました」

セルジオはエリオス、バルド、オスカーと共にカルラの前にかしづき呼応する。
カルラがセルジオとエリオスを見下みおろし、ふむとつぶやき首をかしげた。

「セルジオ殿、
あの燃えさかる青白き炎が今朝はお身体から
湧き上がってはいなかったな。制御ができているのか?」

カルラが協力した青き血に目覚めた時、セルジオは全身に青白き炎を湧き立たせ、カルラの放つ真紅に燃え上がる火矢を物ともせずに短剣ではじいた。

セルジオは今の状態をカルラへ伝える。

「いえ、制御は半ばです。
湧き立たせる事を抑えはできる様になりました・・・・
まだ、自在に湧き立たせることができないのです。
アロイス様からもお教え頂いたのですが・・・・」

水の城塞訓練場でアロイスから指導を受けた切替が上手くできずにいたのだ。

抑え込む事はできる様になった。だが、抑え込むだけに留まっていた。そこから進展がないまま水の城塞を離れた。
カルラはかしづくセルジオに右手を差し出し立たせる。

「そうか。
抑え込むことができるのであれば、後は簡単なのだがな・・・・
抑え込む方が難しいのだぞ」

「同じ炎であっても私の真紅の炎は攻撃の炎、
燃やし、焼きつくすことが基本となる。
されどセルジオ殿の青白き炎は防御の炎、
攻撃をはじき返すことが基本であろう?
まして魔術ではないしな・・・・」

カルラは左手をあごに軽くあてると空を見上げ思案する素振りを見せる。
暫くするとおっと声を上げ、右手拳を左掌にパチンとあてた。

「セルジオ殿、
水の城塞で兄上から教えを受けたと申したな!」

カルラは何かに気付き嬉しそうな顔をセルジオに向ける。

「はい、
滞在中は毎日の訓練時に制御の方法をお教え頂きました」

「そうかっ!セルジオ殿、それだっ!
兄上の事だから・・・・う~む・・・・何と言うか・・・・
少し難しく話しをされるのだ」

「兄上は・・・・切替がどうの、
力の開閉がどうのと難しいことを申されるのだ・・・・
私も訓練施設で兄上と共にポルデュラ叔母上から
魔術指導を受けていたのだが、どうにも兄上の申される事は
解らなくてな・・・・叔母上が申された。
頭に真紅の炎が湧き立つさまを思い浮かべればよいとな」

ボッ!!
ブワンッ!!!

カルラの話をじっと聞いていたセルジオから青白い炎が大きく湧き立った。

「・・・・あっ?あっ・・・・
頭に思い浮かべました・・・・青白い炎を・・・・」

シュンッ!!

「おぉ!できたではないか!
制御ができたではないかっ!もう一度、思い浮かべてみよ!
これで、できれば制御を習得されましたぞ」

カルラは嬉しそうにセルジオに微笑みを向けた。

ブッ!
ブワンッ!!

再びセルジオの身体から青白い炎が勢いよく湧き立つ。

「おおぉぉーーーー」

修道院の中庭にいた者達から感嘆の声が上がった。

シュンッ!

「カルラ様、
青き血の目覚めも青白き炎の制御も
カルラ様のお力添えでできましたっ!感謝もうします!」

セルジオは青白き炎を抑えるとカルラの前にかしづき礼を述べた。
カルラは膝をおると小さなセルジオの手を取り両手で包んだ。

「なんのことはありません。
セルジオ殿が日々努力されていることがたまたま今、実を結ばれたのです。
ようございました」

カルラはセルジオを抱き寄せる。アロイスがそうしたようにぎゅっと抱きしめた。

「セルジオ殿・・・・
月なき闇夜に降り立った月のしずくは、
これより多くの苦難に立ち向かうことになりましょう。
己の宿命にはあがなえません。
采配さいはいてん
是非ぜひおのれ、審判はです」

「己の意のままになることは是非のみ。
ならば己の信じる道、己に道を示す師を信じて進むことのみです。
後は何も考えず、思い悩まず、あるがままを受け入れるほかございません」

「思いきり、お進みくださいっ!
月のしずくが道を開けば多くの者がつき随いましょう。
セルジオ殿、我らラドフォールの者、青き血が流れるコマンドールと
その守護の騎士と共にあらんことをお誓い致します」

「カルラ様、感謝もうします」

セルジオはカルラの礼を言うより他に言葉が見つからなかった。
それでもセルジオは完全にではないにしても青白き炎の制御のコツを掴んだと感じていた。

『これでっ!
これで、少しはバルドやエリオス、オスカーに傷を負わせることが少なくなるっ!
後少しだっ!後少し!初代様、後少しで制御ができそうです』

自身の中に封印されている初代セルジオに何度となく教えを受けているセルジオは頭の中で語りかけた。

『セルジオ殿、
焦らずともよいのだぞ。ひとつひとつ丁寧に進めばよいのだぞ』

頭の中に初代セルジオの声が響いた気がした。

バルドはセルジオとカルラの姿を傍近くで眺めていた。
オスカーがバルドの横顔をそっとのぞく。
バルドの深い紫色の瞳は少し物憂げな陰りがのぞき、哀しそうに見えた。

バルドは初代セルジオに諭された言葉を思い出していた。

『セルジオが悔恨を残すことなく
己の歩んだ道を誇れる騎士に育ててやってくれ』

それは、セルジオを想うあまり、抑えてきた感情を露わにしたバルドへ初代セルジオが与えた言葉だった。
バルドは初代セルジオの諭された言葉を思い返すと自身を戒める。

『セルジオ様と共に全てを共に受入れ進むとお誓いしたのは私自身だ。
この先、何があろうと守護の騎士として役目を全うしてみせる』

バルドの表情が変わったことを見て取るとオスカーの口元はふっと微笑む。

セルジオとカルラの周りに中庭にいた者達が集い始めた。
修道院長のミーナが優しく声を掛ける。

「皆さん、そろそろ、礼拝堂へまいりましょう。
そして、今この時を神に感謝いたしましょう」

ミーナを先頭に中庭にいた者達は礼拝堂へ向かった。

オスカーがエリオスの背中にそっと触れる。

「エリオス様、我らも参りましょう。
エリオス様、セルジオ様は何があろうと
何にお目覚めになろうとセルジオ様にお変わりはございません。
そして、エリオス様はセルジオ様と宿世の結びを果たされた守護の騎士です」

「何をもセルジオ様とエリオス様を離すことはできません。
今は、セルジオ様を見守られませ。
お傍におらずともお傍におられぬ時も何をお考えなのか、
何をされているのかが手に取る様にわかる様に、今は見守られませ」

オスカーは訓練施設やセルジオ騎士団城塞に滞在していた時の様にセルジオと片時も離れず過ごすことができないエリオスが時折見せる寂しそうな表情を見逃してはいなかった。

エリオスはオスカーを見上げるとコクンとうなずいた。

セルジオが青白き炎の制御を習得した時、それぞれの中に芽生える様々な感情もまた制御を習得していくのだった。



【春華のひとり言】

今日もお読み頂き、ありがとうございます。

ラドフォール騎士団火焔の城塞を治めるカルラの指導で青白き炎の制御を習得したセルジオ。

セルジオが成長するにつれ、バルド、エリオス、オスカーはそれぞれの想いと向き合い、感情の厚みが増していく様に感じています。

バルドファンの私は、その心中を察すると胸に痛みが走ります。

今に目を向けること、マインドフルネス大切ですね。

明日もよろしくお願い致します。

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