とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

文字の大きさ
101 / 216
第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第40話:神の加護をもたらす者

しおりを挟む
ジプシーの一団の挨拶が終わると早速、芸が披露された。

王家第二子であるジェラル王子は、次代の王都騎士団総長となる。
王都騎士団総長は王家を守護する近衛師団と王国貴族騎士団を束ねる長であった。

王家や貴族に芸を披露するジプシーだけあって、各国の事情に明るかった。
饗宴の主役が将来の王都騎士団総長であるから武術に関連した芸が披露された。

大人一人の身体が納まる程の大きさの木製の円盤に目元に仮面を付けた幼子が円盤に備え付けられているベルトで四肢ししを固定された。

8フィート程離れた場所に短剣を手にした者が構えを見せる。
準備ができると幼子が固定されている円盤が勢いよく回された。

ブゥゥン!

四肢を固定された幼子は円盤に合わせてグルグルと回転する。

シュッ!!
シュッ!!
カッカッ!

8フィート程離れた場所から短剣が円盤に向けて放たれた。

短剣は幼子の両脇の下あたりの木製の円盤に刺さる。

「おおぅ・・・・」

饗宴の間に感嘆の声が上がった。

頭に羽根飾りを付けた少女が短剣を手にする者に近づくと黒い布で目隠しをする。

円盤の幼子は回転したままの状態だ。

目隠しをされた短剣の放ち手は、頭に羽根飾りを付けた少女に手を引かれ、円盤の正面に立った。
先程と同じ様に円盤から8フィート程離れている。

円盤が更に勢いよく回されると短剣が放たれた。

シュシュ!!
シュシュ!!

先程より2口多い4口の短剣が放たれる。

カッカカッ!!
カッカカッ!!

短剣は円盤に固定されている幼子の両足の間に1口、腰の左右に1口づつ、残りの1口は頭上に見事に刺さった。

「おおおおぉぉぉぉ」

饗宴の間は大きな歓声に包まれる。

円盤の回転が止められ、四肢をとめた革のベルトが外されると幼子は短剣を放った者に手を引かれ、ルドルフ王と王妃、ジェラル王子の御前にかしづいた。

ルドルフ王から褒美の言葉が発せられる。
王から直々にジプシーの芸人へ褒美の言葉をたまわることは大変に栄誉なことであった。

「我がシュタイン王国へよう参られた。
楽しませてもらったぞ。短剣のさばきはまるで騎士の様であった。
受け手は王子と変わらぬ年頃と見受けるが、
声一つ上げずに大したものだと感心したぞ。そなたらの名を聞こう」

ザワッザワッ・・・・

饗宴の間にどよめきが湧いた。

王家や貴族に招かれるジプシーが王から直々に言葉を賜ることはあっても言葉を発することが許されることはない。まして、「名」を聞かれることなど考えられないことであったからだ。

「・・・・」

かしづくジプシーの芸人は己の耳を疑った。確かに「名を聞こう」と聞えた。しかし、王族や貴族の御前で名を聞かれることなど思いもよらなかったのだ。

短剣を放つ役の芸人はしばらく無言でかしづいたままの姿勢を保つことにした。

ルドルフ王は再び「名を」訊ねる。

「・・・・どうした?聞えなかったのか?
そなたらの名を聞きたいと申しておる」

ザワッザワッ・・・・

観衆のざわめきが更に大きくなった。

「静まれっ!」

シーーン

ルドルフ王の声が饗宴の間に響き渡った。

饗宴の間は一瞬にして静寂に包まれる。

「さぁ、これでそなたらの声も我の元へ届くというもの。
そなたらの名を申してみよ」

ルドルフ王の発した一言で静寂に包まれた饗宴の間で王座前にかしづく短剣を放った芸人は未だかつて味わった事がないほどの身体の強張りを感じていた。

ドクッドクッドクッ・・・・

心臓の音がこめかみに達する程の大きさで響いている。

早く王への返答をしなければならないと頭ではわかっているものの身体が強張り、喉の奥がはり付いた様で声が出せない。

ブルブルブル・・・・

身体が震え出し、汗が顎からポタポタと滴り落ちる。
呼吸を整えようと大きく息を吸った。

「バルドにございます」

名を問われ声が出ずにいた短剣を放った芸人の隣でかしづいていた円盤に身体を固定されていた幼子が静かに名を口にした。
短剣を放った芸人はバルドの後に続き慌てて王に返答をする。

「はっ!失礼を致しました。ロッティにございます」

玉座の御前では聞かれたこと以上の言葉を発することは禁忌のため、名のみを答えた。

玉座の後ろでひざまずき、控えるダグマルがルドルフ王へ耳打ちをした。

「バルドの名は『王に神の加護をもたらす者』の意にございます。
控えの間にお導きのほどを」

「わかった」

ルドルフ王はダグマルへそっと返答すると正面へ向き直る。

「ロッティ、バルド、大儀であった。
饗宴が終わり次第、そなたらに褒美をつかわす。
控えの間にて待て。近衛に案内させよう」

「はっ!」

ロッティは震える声で呼応した。
バルドは顔を上げることなく動じる素振りもない。

ルドルフ王が静寂している饗宴の間に再び声を上げた。

「皆の者、今宵は大いに楽しむがよい。
芸の披露を続けよ。饗宴の間を皆の歓声で埋め尽くすほどに楽しむがよい」

「わあぁぁぁぁ」

饗宴の間に再び歓声が上がった。

ジプシーの一団が次の芸の準備に入る。
弓と矢じりに布が巻かれた矢、輪を手にした芸人が饗宴の間の中央へ姿を現した。

饗宴の間は宴の空気で包まれている。

王座の御前に控えていたロッティとバルドは近衛師団の騎士に連れられ饗宴の間からそっと退いた。

ウルリヒはポルデュラとダグマルの様子を饗宴の間の端で見守っていた。

23年前のダグマルの星読みと18年前に初めて目にしたバルドの姿を思い浮かべウルリヒは鍛造する短剣に力が入る。

カーーーーン!
カーーーーン!
カチャリッ・・・・


「バルド・・・・
そなたの役目はこれからぞ・・・・えてくれよ・・・」

ウルリヒは短剣をじっと見つめるとポツリと呟いた。

陽が沈み辺りはすっかり暗くなっている。
ウルリヒは鍛造した短剣6口を横一列に並べると両手をかざした。

ウゥゥゥン・・・
ウゥゥゥン・・・

何とも言えない音を発し短剣にウルリヒの魔力が込められる。

「剣を手にし者、剣に慈愛を願う者、
その者の根源の泉を呼び起こし、力を発する助けとならん。
相互の願いに共鳴し、別つことなく寄り添い進む。
王に神の加護をもたらす者の願い叶える助けとなれ」

ウゥゥゥン・・・・
ウゥゥゥン・・・・

呪文と共に魔力を込める。短剣は青白い光に包まれた。

ウルリヒは6口の短剣を鞘に収めると革製のナイフポケットへ丁寧に入れる。

ダグマルの初めての星読みの言の葉が頭に浮かんだ。

『王国にわざわいの兆し現れし時、
王に神の加護をもたらす者、天使の河に流れくる。
天使の河より救いあげ、蒼き印の元にて育むべし。
ビオラ六芒星ヘキサグラムに守護され、
時来れば王国のわざわいを払い去る。
蒼玉に愛され、月の雫を愛しむ慈愛の心が芽生えし時、
深いビオラの光を宿し、先の世の救いとならん』

6口の魔力を込めた短剣が収まるナイフポケットを握りしめる。

「バルドへ事の始まりを話さねばなるまいな」

後ろで一つに結んだ銀色の長い髪を解くとウルリヒは工房を後にした。





【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

3回に渡りお届しました「バルドの真の役割」の回でした。

バルドは私の推しキャラです。
バルドがセルジオと出会うまでをすこ~しづつしたためています。

バルドファンの方がいらっしゃいましたらお楽しみにしていて下さいませ。

明日もよろしくお願いいたします。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...