とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第58話 御前試合

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セルジオとエリオスはカリソベリル騎士団団長フレイヤに手合わせの準備が整ったことを伝えると訓練場場内へ入った。

ザッザッザッ
ザッザッザッ

バルドとオスカーはフレイヤが座する場外東に設置された見物席の反対側で待機をする。

フレイヤが手合わせの相手である第一隊長フェルディに何やら耳打ちしているのが目に入った。

バルドとオスカーはその様子をじっと見つめていた。
バルドが目線はそのままにオスカーへ耳打ちする。

「オスカー殿、どうやら手合わせではなさそうです。
ご当主がどなたかを連れられ見物をされるようにて・・・・」

ピクリッ!

オスカーの身体がピクリと反応し、バルドへ呼応する。

「・・・・ご当主がお客人を連れられて?
手合わせではなく、御前試合ということですか・・・・」

バルドとオスカーの間に緊張が走った。

手合わせであればセルジオとエリオスに危険が及ぶ行為があれば制止することができる。
しかし、御前試合となれば勝敗がつくまで一切の手出しができない決まりになっている。

団長フレイヤの思惑も解らない。ましてカリソベリル伯爵の意図する所も解らない今、セルジオとエリオスの身に危険が迫っていることだけは確かであった。

ザッザッザッ
ザッザッザッ

フレイヤから指示を受けたであろう対戦相手のフェルディが訓練場場内に入った。

場内にはピンッと張り詰めた空気が漂う。
フェルディが所定の位置に着くと見物席が設けられた場外のざわめきが徐々に小さくなる。

シーン

訓練場は静まり返った。

カッカッカッ・・・・
カッカッカッ・・・・

城館から訓練場へ通じる回廊に足音が響いた。

団長のフレイアが訓練場入口に目をやる。

ザッ!
ザッ!

場外に控えていた騎士と従士が団長フレイアに続き一斉にかしづいた。
フレイアは見物席の中央へ足音の人物を招き入れる。

「エステール伯爵、父上、手合わせに間に合いようございました」

一人はフレイアの実父カリソベリル伯爵家現当主ベルホルトであった。
そして、もう一人はエステール伯爵家現当主ハインリヒ、セルジオの実父であった。

バルドとオスカーは東の見物席へ向け左手を胸にあて騎士の挨拶をした。

ドキンッドキンッ
ドキンッドキンッ

バルドは胸騒ぎを覚える。

セルジオをうとましく思うハインリヒがわざわざ他家貴族騎士団へ赴き、手合わせを御前試合に変えさせたと言う事は明らかにセルジオに危害を加える事が目的であろう。

バルドとオスカーは顔を見合わせると訓練場場内で待機をするため一歩前へ進み出た。

ガチャッ!!
ガチャッ!!

訓練場四方に待機していた槍を手にした騎士がバルドとオスカーの行く手を制した。

「バルド殿、オスカー殿、なりませぬぞ。
場内への入場はお控え下さい。もはや、手合わせではございません。
御前試合となりました。どなたも場内へは入れません。
その事、心得ておいででしょう」

バルドとオスカーはどうする事もできなかった。

言われた通り元いた場所へ戻る。

「オスカー殿、もはやさいは投げられました。
我らはセルジオ様とエリオス様を信じるより他ございません」

バルドはオスカーへ哀し気な眼を向けた。

「バルド殿、采配は天、是非は己、審判は他にて、
これも天の采配によるもの。大事ございません。
セルジオ様、エリオス様のご成長を天がご覧になりたいのでしょう。
我らのあるじを信じましょう」

オスカーはバルドへ力強い視線を送った。

バルドはオスカーの言葉にハッとする。

己が弱気になればその気はセルジオに伝わる。バルドは大きく息を吸うと左拳を胸に置き、三度叩いた。

「我が命、我が主と共に」

オスカーもバルドにならう。

「我が命、我が主と共に」

バルドとオスカーは場内にいるセルジオとエリオスへ想いを送ると意を決した様に御前試合の開始合図を待った。


バルドとオスカーの様子を場外東に位置する見物席からカリソベリル伯爵ベルホルトとエステール伯爵ハインリヒが視ていた。

カリソベリル伯爵がハインリヒへ耳打ちする。

「ハインリヒ殿、セルジオ殿はハインリヒ殿と生き写しですな。
幼い頃のハインリヒ殿そのままではございませんか。
はてさて、腕前はいかがでございましょうか」

「青き血が流れるコマンドールが再来すると
王家星読みが告げてから10年待ちましたな。
真にセルジオ殿が青き血が流れるコマンドールの再来なのかを
確かめるよい機会にて、存分にお楽しみください。
ここでのことはあくまでもカリソベリル騎士団内での出来事。
不測の事態は起こるべくして起こるものです。
天の采配はいかがなものとなるか・・・・ふっふっふっふ・・・・
とくと拝見する事といたしましょう」

カリソベリル伯爵はいやらしい含み笑いを浮かべる。
ハインリヒは場内のセルジオとエリオスへ目を向けていた。

セルジオが生まれてから一度もその姿を見ることなく訓練施設へ送り出した。
初めて目にした我が子は己の幼い頃と生き写しの姿で試合開始の合図を待っている。

カリソベリル伯爵の言葉に呼応するように呟いた。

「左様ですな。
真に青き血が流れるコマンドールの再来でなければ・・・・その時は・・・・」

ハインリヒはそこまで言うと口をつぐんだ。

ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッザッザッ

4人の審判が訓練場場内の四隅に就いた。

ザッザッザッ

主審が訓練場中央で向かい合わせで対峙しているセルジオ、エリオスとフェルディの間に就く。

御前試合開始の号令が発せられた。

「これより、エステール伯爵、カリソベリル伯爵の御前にて
セルジオ騎士団、カリソベリル騎士団の試合を一本勝負にて執り行う。
勝敗はどちらかが戦意を消失もしくは戦闘不能となるまで」

バッ!!!!

主審が左手に握る木剣を天に向けた。

「真を持ちて、誠を懸ける。
我ら騎士の名に懸けて命の限りを尽くし戦う。
はじめっ!!!!」

バッ!!!!

セルジオ、エリオスとフェルディの御前試合が主審が振り下ろした木剣の合図と共に始まった。




【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

だまし討ちの様な始まり方となった御前試合。

セルジオとエリオスを初めて目にしたセルジオの実父ハインリヒ。

セルジオの暗殺を目論むマデュラ子爵家と手を組み我が子を陥れようとしてきました。

今回の御前試合の背後には何があるのか?

次回もよろしくお願い致します。
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