とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第71話 影部隊のアジト

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ガタッガタッガタッ・・・・
ガタッガタッガタッ・・・・

ドヤッドヤッ・・・・
ドヤッドヤッ・・・・

荷馬車と大勢の人が行き交う商業部をバルドとオスカーは地図を片手に歩いていた。

「バルト殿、この建物ではありませんか?」

オスカーがバルトへ目配せをすると一台の荷馬車が商会の建物出入口に入っていった。

見上げると『ラルフ商会』の看板が目に入った。

『荷運び認可商会』と看板の下に書いてある。

バルトはオスカーと顏を見合わせ頷くと先程、荷馬車が入っていった出入口へ歩みを進めた。

ガチャッ!
ガチャッ!

出入口にいた門番が2人に行く手を阻まれる。

「入館許可証をお持ちですか?」

門番の1人がバルトとオスカーへ許可証の提示を求めた。

シュタイン王国では他領や他国との交流や交易は国の認可制とし、人と物、金銀などの流通に管理統制をしいていた。

その為、他領や他国への出入りを認可された商会へ依頼をする場合や商会へ入館する場合は領主発行の許可証が必要だったのだ。

バルトはローブの下から携えていた木片を取り出すと門番に提示した。

『商会入館許可証』

「はい、確かに。どうぞ、お入り下さい。荷や書簡の受取りは左手の建物です。今、荷馬車が停まっている先に扉があります。そこから入館下さい。送りたい場合は反対側の右手の建物になります。受取、荷出しとも身分証が必要になりますからご承知おき下さい」

門番は丁寧な口調でバルトとオスカーへ説明をしてくれた。

「感謝申します。荷受けに参りましたので、左の建物に入館致します」

バルトとオスカーは門番に目的を告げるとラルフ商会の門をくぐった。

門番は通り過ぎるバルトとオスカーへ小声を発した。

「アロイス様、ラルフ様がお待ちになっております。入館されましたら受付で『バラの茶を受け取りにきた』と申されて下さい。影部隊シャッテンがご案内いたします」

口元も喉も動かさず、正面を向いたままの体勢でバルトとオスカーへ伝える。

「承知した」

バルトとオスカーも同じ様に呼応した。

門扉を抜けると騎士団城塞を思わせる造りになっていた。

四方を石造の4階建ての建物が囲み、中央に水場が設置されている。

荷の積み下ろしをする間、水場の周りで馬が休憩できる様になっていた。

四方の石造の建物の外側は路地に面し、1階部分は商店になっている。

バルトとオスカーが今しがた通ってきた路面店も商会の一部だと中に入り気が付いた。

門番に案内された左手の扉へ向かう。

「バルト殿、アロイス様はいつからこの様に準備をされてきたのでしょう?温和でお優しいお姿からは想像もできない知略をお持ちでいらっしゃる」

オスカーが荷下ろしでザワつく光景を見ながら呟《つぶ》いた。

「ラドフォールがクリソプ領を注視しておりますのは建国当時からのことにて。この建物は当時から使われている様です」

「ウルリヒ様が団長を務めていらした際に影部隊シャッテンがより機能的になったと聞いております。18貴族所領全てに影部隊シャッテンのアジトがありますが、ここは特別ですね。シェバラル国との東の行き来はクリソプ男爵領東門としか行われておりませんから」

バルトはオスカーの呟きに静かに呼応した。

ガチャッ!
ギイィィィ

アロイスとラルフが待っていると言われた左手の建物の扉を開くと正面に受付があった。

受付の左右に丸テーブルが4つ並んでいる。

待合の間に軽食が摂れる様になっていた。
2つのテーブルに座っている数人がチラリとバルトとオスカーへ目を向けた。

バルトとオスカーはその眼を気にする事なく受付で入館許可証と身分証を提示する。

「バラの茶を受け取りにきました」

バルトが受付の女人に伝えると女人は頷き奥の扉をトンットンッと2回叩いた。

「・・・・」

何の反応もない。

ドンッ!ドンッ!

受付の女人は首をかしげ先程より強く扉を2回叩いた。

キィィィ

「バーバラっ!そんなに急かさずとも聞こえているっ!あぁ~計算をしていたのにやり直しじゃないかっ!」

赤茶色の短髪をガシガシと掻きながら若い男が顔を出した。

「ベンノ、お客様です。バラの茶を受け取りにいらっしゃいました。ご案内をお願いします」

バーバラと呼ばれた受付の女人は少したどたどしい言葉でバルトとオスカーの来訪を告げた。

ベンノはバルトとオスカーを見ると姿勢を正しバツが悪そうに呼応する。

「あっ!これは失礼をしました。当商会の主人ベンノです。届いていますバラの茶を確認して頂けますか?こちらです」

ベンノはそう言うとバルトとオスカーを受付右側にある扉へと誘った。

「わかりました」

バルトとオスカーはベンノに先導され、扉へ向かった。

パタンッ!

扉の奥に小さな四角いテーブルと椅子が3脚置かれいた。

壁面の棚に色とりどりの瓶が置かれている。

「こちらです」

ベンノは四角い机を通り越すと壁面の棚の前にバルトとオスカーを誘った。

赤い瓶の手に取る。

ゴゴゴゴゴ・・・

棚が右側へ動いた。

ヒュォーーー

その先に地下へ通じる階段があった。風が地下へ向けて流れ込む。

ポッポッポッ・・・・
ポッポッポッ・・・・

地下階段へ向けて流れ込んだ風にのり壁面に明かりが灯る。

ベンノは左腕を胸の前に置くとバルトとオスカーへ軽く頭を下げた。

「ラドフォール騎士団、影部隊シャッテンベンノと申します。バルト様、オスカー様、お待ち致しておりました。この先でアロイス様、我が隊隊長ラルフが待っております。このままお進み下さい」

「私は他の者の眼がありますからこのまま外へ戻ります。バーバラに軽食とお茶をこちらの部屋へ持ってくる様に伝えますので、暫くはこちらで滞在していることとして下さい」

「小一時間程経ちましたらお呼びします。その際にポルデュラ様より預かりましたバラの茶をお渡ししますので、お持ち帰り下さい。それでは」

ベンノはバルトとオスカーへこの先の事を伝えると地下階段を下りる様に促した。

「承知しました。ベンノ殿、お計らい感謝申します」

バルトとオスカーも左腕を胸の前に置き、ベンノへ頭を下げ、地下階段を下った。

ゴゴゴゴゴ・・・

バルトとオスカーが階段を下り出すと棚が閉まる音が聞こえた。

壁面に灯る明かりだけになった地下階段は薄暗く、石造のため冷ややかな空気が漂っていた。

地下階段を下り切ると行き止まりだった。冷たい石壁が立ちはだかる。

バルトとオスカーが踊り場で立ちはだかった石壁に触れると下りてきた地下階段が落とし格子戸で塞がれた。

「・・・・バルト殿・・・・これは・・・・まさか、罠ではありませんか?」

オスカーが心配顔をバルトへ向ける。

「いえ、大事ございません。他の者を欺く仕掛にて、幾通りもの関を設けているのでしょう。これぞ影部隊シャッテンのアジトと言えます」

バルトはオスカーへニコリと微笑みを向けた。

落とし格子戸が折り切ると目前の石壁が右側へ動いた。

ゴゴゴゴゴ・・・・

地下通路が現れた。

ポッポッポッ・・・・
ポッポッポッ・・・・

石造の壁面に明かりが灯る。

地下通路は大きく右に折れた。

そのまま通路に沿って進むと落とし格子戸で行き止まりになった。

「この様にして万が一この場所が見つかったとしても地下倉庫と偽れる様になっているのでしょう」

バルトは感心した様子で落とし格子戸をまじまじと見つめた。

「・・・・」

先程の様に落とし格子戸が開くかと待っていたが開く様子がない。

バルトはふむと思案顔をすると『バラの茶』が合図の言葉だと思い至った。

「オスカー殿、石壁のどこかにバラの文様があるかと思います。ラドフォールの裏の紋章はバラです。ベンノ殿が棚を動かす時に赤いバラの文様が描かれた瓶を手に取られました。扉を動かす仕掛に使っていると思います。探しましょう」

「承知しました。バラの文様・・・・バラの文様・・・・」

バルトとオスカーは石壁にバラの文様を探した。

「あっ!ありました」

バルトが石壁の下の方にバラの文様を見つけた。

懐にしまった許可証の木片を取り出す。

木片の裏側にバラの文様が描かれていた。

「恐らくこの文様を合わせると落とし格子戸が開くのではと・・・・」

カタンッ!

バルトは石壁のバラの文様に木片のバラの文様を重ねた。


ガコッ!
ギィギギギギギ・・・・

「おおぉ」

オスカーが思わず声を上げる。

「開きましたね。何やら古代の遺跡を探索しているように思えてきますね」

バルトとオスカーは顔を見合わせふふふっと笑った。

「さぁ、オスカー殿、まいりましょう。ベンノ殿は先程、小一時間程と申されていましたからあまり時がございません。アロイス様とラルフ殿に一刻も早くお目に掛からねば」

バルトとオスカーは上がった落とし格子戸の先へ急ぎ向かうのだった。





【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

18貴族所領全てに置かれたラドフォール騎士団影部隊のアジトの回でした。

クリソプ騎士団団長アドラーが同行していないのも秘密を守るための策。

セルジオとエリオスが姿を消した事を知らないバルトとオスカーは影部隊のアジトを堪能している様です。

東の歪みとはびこる闇とどのように対峙していくのか?

アロイスの策略とバルトとオスカーの活躍をお見逃しなく。

次回もよろしくお願い致します。
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