137 / 216
第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第74話 真実と誠の心
しおりを挟む
ガタッガタッガタッ・・・・
ザワッザワッ・・・・
引っ切り無しに荷馬車が往来し、大勢の人が行き交う繁華街をカリソベリル騎士団第一隊長フェルディは疾走していた。
「はっ、はっ、はっ・・・・セルジオ様っ!エリオス様っ!」
時折止まっては辺りを見回し、セルジオとエリオスの名を呼ぶ。
ガタッガタッガタッ・・・・
ザワッザワッ・・・・
この混雑の中で、背丈の低いセルジオとエリオスを見つけるのは至難の業だった。
「どこに、行かれたのか・・・・」
フェルディは胸騒ぎを覚えていた。
セルジオとエリオスが突然に姿を消してから小一時間程、辺りを探している。
はぐれた事で騎士団城塞へ戻っているのではと辿ってきた道を遡るが、それでもセルジオとエリオスの姿はなかった。
パン屋へ向かったクリソプ騎士団第一隊長オッシを一人取り残していることも気がかりだった。
フェルディは、オッシと別れた場所へ戻る事にした。
「はっ、はっ、はっ・・・・」
オッシと別れた繁華街の筋を一本入った路地に入るとパンの入った袋を片手にウロウロと行き来するオッシが目に入った。
「オッシ殿っ!」
フェルディが大声でオッシを呼ぶ。
振り返ったオッシは慌てた様子でフェルディへ駆け寄った。
「フェルディ殿っ!お姿が見えずに驚きました。どちらへ・・・・セルジオ様とエリオス様はいずこに?」
フェルディの後方へ身体を向け、セルジオとエリオスの所在を確認する。
「・・・・それが・・・・オッシ殿がパン屋へ向かわれて直ぐにお姿が・・・・セルジオ様とエリオス様のお姿が突如消えて・・・・」
ドサッ!!!
オッシは抱えていたパンが入った袋を落とし目を見開いた。
「・・・・なっ!なんですとっ!お姿がっ!突如、消えたというのかっ!」
ガシッ!!!
オッシはフェルディの両肩を掴み詰め寄る。
「左様です・・・・オッシ殿を見送って直ぐに・・・・忽然とお姿を消しました。あまりの人の行き来にはぐれたのかと思い、辺りを探しましたが・・・・」
フェルディはフルフルと首を振る。
「ではっ!もしや、城塞へ戻られたのではっ!お二人であればっ!!」
ババッ!!!
オッシは騎士団城塞へ向かう道を戻ろうとした。
「オッシ殿っ!!」
フェルディがオッシを呼び止める。
「私も同じ事を思い、城塞への道を戻りましたが、お二人のお姿はありませんでしたっ!」
「・・・・」
オッシが無言で振るかえる。
フェルディとオッシはお互いの顔を眺めつつ動きを止めた。
ドクッドクッドクッ・・・・
ドクッドクッドクッ・・・・
鼓動の音が路地に響き渡っているように感じられる。
オッシが勢いよく口を開いた。
「従士棟へっ!東門の従士棟へ向かわれてはいませんかっ!」
フェルディは首を左右に振る。
「それは、ありますまい。セルジオ様、エリオス様は従士棟へ向かわれるのは本日が初めてのこと。その様な無謀な事をされるとは思えません」
「ではっ!どちらへっ!忽然《こつぜん》とお姿を消されるなどっ!まるで、かどわ・・・・あっ・・・・」
オッシは目を見開いた。
フェルディは頷く。
「私もそうかもしれぬと思っていました・・・・もはや・・・・かどわかされたとしか考えられません。それほど、忽然とお姿が・・・・」
「されどっ!この様に人の往来も荷馬車も多く、どうやってっ!どうやってっ!ああーーーー我らクリソプ騎士団の守護下でっ!ああーーー」
オッシは頭を抱えた。
「既にお姿を消されてから一時間程、経ったおります。セルジオ様とエリオス様と認識されてのかどわかしなのか、ただ単に小さき子をかどわかしただけなのかが解らない今、早々に見つけ出さねばなりませんっ!」
「ああーーーっ!お二人にもしもの事があれば我ら騎士団はセルジオ騎士団、王都騎士団総長から責めを負う事になりますっ!ああーーーいかようにすれば・・・・」
オッシは頭を抱えた。
ピクリッ!
フェルディがオッシの物言いに眉間にしわを寄せる。
「オッシ殿、そのようなこと、口にされるのは控えて頂きたいっ!今は、お二人を見つけることが何より優先されることっ!責めを負う云々の話ではないっ!」
フェルディは語気を強める。
「・・・・」
オッシは頭を抱えうつむいたまま無言で呼応する。
もはや、セルジオとエリオスの所在を確かめることよりも己の身とクリソプ騎士団への罰を案じているようにしか見えなかった。
フェルディは厳しい眼をオッシへ向けると指示を出した。
「オッシ殿、そなたは従士棟へ急ぎまいられよっ!アドラー様が従士棟でお待ちであろう。アドラー様
にセルジオ様とエリオス様のお姿が消えたことをお伝え願いたい。その上で、急ぎ捜索隊の編成をとお伝えしてくれっ!私はバルト殿とオスカー殿の元へ向かう。荷受けに赴いている商会はこの辺りだったなっ!」
頭を抱えてうつむくオッシに詰め寄る様に言う。
「・・・・」
尚も無言にオッシにフェルディは近づいた。
ガシッ!!
両肩を強く掴み、うつむく顔を上げされる。
「オッシ殿っ!お二人がお姿を消されて既に一時間が過ぎたっ!事は一刻を争う。お二人を見つけることが先決だとお解りであろうっ!急ぎ、アドラー様の元へ向かってくれっ!」
オッシは顔を上げるとコクンと小さく頷いた。
「承知した」
消え入りそうな小声で呼応する。
「ではっ!頼んだぞっ!荷受けのラルフ商会はこの先であったなっ!」
フェルディはラルフ商会の場所をオッシに確認した。
「はい・・・・この先の二本路地を越すと左角に青果店がある。青果店を左に折れるとラルフ商会の入口がある。ただ、入館許可証がなければ商会内に立ち入りはできない」
オッシの力ない説明にフェルディは珍しくいら立ちを覚えた。
グッと堪える。
「承知したっ!入館許可証がなくともバルド殿とオスカー殿を呼出してもらえば済む話だっ!ではっ!アドラー様への言伝を頼みましたぞっ!」
ダダッ・・・・
フェルディは一目散に駆けだした。
オッシはぼんやりとフェルディの後ろ姿を見送った。
ポツリと呟く。
「・・・・これは・・・・策か?アドラー様の策なのか?・・・・なぜ、私を同道させたのだ・・・・この様な策に・・・・」
オッシはトボトボと東門従士棟へ向けて歩き出した。
その頃、バルドとオスカーはラドフォール騎士団、影部隊のアジトでポルデュラからのバラの茶を受け取っていた。
ラルフ商会、受付のバーバラが用意した軽食を前に案内された小部屋のテーブルを囲む。
ラルフ商会主人のベンノがバラの花の茶を渡した。
「バルド様、オスカー様、我が隊のアジト地下回廊を難なく通られる方はそうそういません。アロイス様がお二人を称賛されるはずです」
ベンノは嬉しそうにバルドとオスカーに軽食を勧める。
バルドとオスカーは軽食には手を付けずに軽食と共に用意されたお茶だけを口にした。
「ベンノ殿、折角ご用意下さいましたが、我らは朝食は摂りません。失礼ですが、お茶だけ頂きます」
丁寧に軽食を辞退する。
ベンノは微笑みを向け呼応した。
「承知しました。なに、後で我らで頂きますからご案じなさいますな。それにしても・・・・」
ベンノは残念そうにバルドとオスカーの顔を見る。
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士にお目に掛かれると思っていました。セルジオ様、エリオス様はご一緒ではないのですね。残念です」
バルドは申し訳なさそうに呼応する。
「はい、アロイス様から我らが主の同道はなくとの思し召しでしたので、致し方なく。我らも主と離れる事にいささか・・・・心配ではあります」
バルドはお茶のカップを口に運ぶ。
「左様ですね。この地は特にセルジオ様、エリオス様にとっては危険です。護衛にカリソベリル騎士団第一隊長フェルディ様がついて下さっているとはいえ、不安は脱ぎきれませんよね。であれば、こちらにお引き留めするのも気が引けます。どうぞ、お気兼ねなくセルジオ様、エリオス様の元へ向かわれて下さい」
ベンノは微笑みを向けた。
ガヤッガヤッ!!!
外からもめる様な声が聴こえる。
ベンノは扉へ目を向けた。
「何事か・・・・あったか?」
席を立ち、扉へ向かうとバンッと勢いよく扉が開いた。
受付のバーバラが慌てた声で急き立てる。
「ベンノっ!大変です。入口で入館許可証のない者がバルド殿とオスカー殿を出せと騒いでいます」
ガタッ!
ガタッ!
バルドとオスカーは席を立った。
「我らがこちらへ伺っているのを知り得ているのはフェルディ様だけですっ!」
バタバタバタッ!!!
バルドとオスカーは胸騒ぎを覚える。
キイィィィ!!!
バタンッ!!
急いで荷受け部屋から出ると出入口へ向かった。
「ですからっ!妖しいものではありませんっ!カリソベリル騎士団第一隊長フェルディです。こちらへお越しのバルド殿とオスカー殿に至急お会いしたいのですっ!事は一刻を争うのですっ!どうかっ!こちらへお二人をっ!」
門番に詰め寄るフェルディがいた。
ダダダッ!!!
バルドとオスカーはフェルディへ駆け寄る。
「フェルディ様っ!いかがされましたかっ!」
バルドは胸に広がる不安を押し殺しフェルディの名を呼んだ。
フェルディは2人の門番の肩の間からバルドとオスカーの姿を捉える。
「バルド殿っ!オスカー殿っ!よかったっ!まだ、こちらへお見えでしたっ!急ぎ、お伝えしたいことがっ!」
バルドとオスカーの後ろからつき随ってきたベンノが門番に目配せする。
門番は頷くとフェルディを敷地内へ入れた。
あまりの騒ぎ立て様にラルフ商会の広場に野次馬が集まっている。
「バルド様、オスカー様、ひとまず中へどうぞ」
ベンノは先程の荷受けする建物へ3人を誘った。
「ベンノ殿、助かります」
バルドは一言、ベンノに礼を言うとフェルディへ顔を向けた。
「フェルディ様、待合せ時刻に遅れ失礼を致しました。あちらの部屋で荷受けをしている最中です。ご同道頂けますか?」
バルドは周りの野次馬に聞える様に穏やかにそしてにこやかにフェルディを誘う。
フェルディはバルドの言葉にハッとすると静かに呼応した。
「バルド殿、失礼を致しました。不慣れな土地故・・・・いささか、不安で・・・・」
フェルディは辺りの様子を察し、バルドの言葉に従う。
「大変、失礼を致しました。ささっ、あちらでご一緒に一服致しましょう」
「はい」
バルドとオスカーは落ち着きを取り戻したフェルディと共にベンノが開く扉へ向かうのだった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
クリソプ騎士団団長アドラーに続き、第一隊長オッシの人となりも見え隠れした回でした。
組織はトップの人となりが良くも悪くも映しだされますよね。
不測の事態が起きた時の対処の仕方で誠の心が見えるのは今も昔も変わらないことだと感じました。
はてさて、オッシの呟く「これは、策だったのか?」が気になります。
次回もよろしくお願い致します。
ザワッザワッ・・・・
引っ切り無しに荷馬車が往来し、大勢の人が行き交う繁華街をカリソベリル騎士団第一隊長フェルディは疾走していた。
「はっ、はっ、はっ・・・・セルジオ様っ!エリオス様っ!」
時折止まっては辺りを見回し、セルジオとエリオスの名を呼ぶ。
ガタッガタッガタッ・・・・
ザワッザワッ・・・・
この混雑の中で、背丈の低いセルジオとエリオスを見つけるのは至難の業だった。
「どこに、行かれたのか・・・・」
フェルディは胸騒ぎを覚えていた。
セルジオとエリオスが突然に姿を消してから小一時間程、辺りを探している。
はぐれた事で騎士団城塞へ戻っているのではと辿ってきた道を遡るが、それでもセルジオとエリオスの姿はなかった。
パン屋へ向かったクリソプ騎士団第一隊長オッシを一人取り残していることも気がかりだった。
フェルディは、オッシと別れた場所へ戻る事にした。
「はっ、はっ、はっ・・・・」
オッシと別れた繁華街の筋を一本入った路地に入るとパンの入った袋を片手にウロウロと行き来するオッシが目に入った。
「オッシ殿っ!」
フェルディが大声でオッシを呼ぶ。
振り返ったオッシは慌てた様子でフェルディへ駆け寄った。
「フェルディ殿っ!お姿が見えずに驚きました。どちらへ・・・・セルジオ様とエリオス様はいずこに?」
フェルディの後方へ身体を向け、セルジオとエリオスの所在を確認する。
「・・・・それが・・・・オッシ殿がパン屋へ向かわれて直ぐにお姿が・・・・セルジオ様とエリオス様のお姿が突如消えて・・・・」
ドサッ!!!
オッシは抱えていたパンが入った袋を落とし目を見開いた。
「・・・・なっ!なんですとっ!お姿がっ!突如、消えたというのかっ!」
ガシッ!!!
オッシはフェルディの両肩を掴み詰め寄る。
「左様です・・・・オッシ殿を見送って直ぐに・・・・忽然とお姿を消しました。あまりの人の行き来にはぐれたのかと思い、辺りを探しましたが・・・・」
フェルディはフルフルと首を振る。
「ではっ!もしや、城塞へ戻られたのではっ!お二人であればっ!!」
ババッ!!!
オッシは騎士団城塞へ向かう道を戻ろうとした。
「オッシ殿っ!!」
フェルディがオッシを呼び止める。
「私も同じ事を思い、城塞への道を戻りましたが、お二人のお姿はありませんでしたっ!」
「・・・・」
オッシが無言で振るかえる。
フェルディとオッシはお互いの顔を眺めつつ動きを止めた。
ドクッドクッドクッ・・・・
ドクッドクッドクッ・・・・
鼓動の音が路地に響き渡っているように感じられる。
オッシが勢いよく口を開いた。
「従士棟へっ!東門の従士棟へ向かわれてはいませんかっ!」
フェルディは首を左右に振る。
「それは、ありますまい。セルジオ様、エリオス様は従士棟へ向かわれるのは本日が初めてのこと。その様な無謀な事をされるとは思えません」
「ではっ!どちらへっ!忽然《こつぜん》とお姿を消されるなどっ!まるで、かどわ・・・・あっ・・・・」
オッシは目を見開いた。
フェルディは頷く。
「私もそうかもしれぬと思っていました・・・・もはや・・・・かどわかされたとしか考えられません。それほど、忽然とお姿が・・・・」
「されどっ!この様に人の往来も荷馬車も多く、どうやってっ!どうやってっ!ああーーーー我らクリソプ騎士団の守護下でっ!ああーーー」
オッシは頭を抱えた。
「既にお姿を消されてから一時間程、経ったおります。セルジオ様とエリオス様と認識されてのかどわかしなのか、ただ単に小さき子をかどわかしただけなのかが解らない今、早々に見つけ出さねばなりませんっ!」
「ああーーーっ!お二人にもしもの事があれば我ら騎士団はセルジオ騎士団、王都騎士団総長から責めを負う事になりますっ!ああーーーいかようにすれば・・・・」
オッシは頭を抱えた。
ピクリッ!
フェルディがオッシの物言いに眉間にしわを寄せる。
「オッシ殿、そのようなこと、口にされるのは控えて頂きたいっ!今は、お二人を見つけることが何より優先されることっ!責めを負う云々の話ではないっ!」
フェルディは語気を強める。
「・・・・」
オッシは頭を抱えうつむいたまま無言で呼応する。
もはや、セルジオとエリオスの所在を確かめることよりも己の身とクリソプ騎士団への罰を案じているようにしか見えなかった。
フェルディは厳しい眼をオッシへ向けると指示を出した。
「オッシ殿、そなたは従士棟へ急ぎまいられよっ!アドラー様が従士棟でお待ちであろう。アドラー様
にセルジオ様とエリオス様のお姿が消えたことをお伝え願いたい。その上で、急ぎ捜索隊の編成をとお伝えしてくれっ!私はバルト殿とオスカー殿の元へ向かう。荷受けに赴いている商会はこの辺りだったなっ!」
頭を抱えてうつむくオッシに詰め寄る様に言う。
「・・・・」
尚も無言にオッシにフェルディは近づいた。
ガシッ!!
両肩を強く掴み、うつむく顔を上げされる。
「オッシ殿っ!お二人がお姿を消されて既に一時間が過ぎたっ!事は一刻を争う。お二人を見つけることが先決だとお解りであろうっ!急ぎ、アドラー様の元へ向かってくれっ!」
オッシは顔を上げるとコクンと小さく頷いた。
「承知した」
消え入りそうな小声で呼応する。
「ではっ!頼んだぞっ!荷受けのラルフ商会はこの先であったなっ!」
フェルディはラルフ商会の場所をオッシに確認した。
「はい・・・・この先の二本路地を越すと左角に青果店がある。青果店を左に折れるとラルフ商会の入口がある。ただ、入館許可証がなければ商会内に立ち入りはできない」
オッシの力ない説明にフェルディは珍しくいら立ちを覚えた。
グッと堪える。
「承知したっ!入館許可証がなくともバルド殿とオスカー殿を呼出してもらえば済む話だっ!ではっ!アドラー様への言伝を頼みましたぞっ!」
ダダッ・・・・
フェルディは一目散に駆けだした。
オッシはぼんやりとフェルディの後ろ姿を見送った。
ポツリと呟く。
「・・・・これは・・・・策か?アドラー様の策なのか?・・・・なぜ、私を同道させたのだ・・・・この様な策に・・・・」
オッシはトボトボと東門従士棟へ向けて歩き出した。
その頃、バルドとオスカーはラドフォール騎士団、影部隊のアジトでポルデュラからのバラの茶を受け取っていた。
ラルフ商会、受付のバーバラが用意した軽食を前に案内された小部屋のテーブルを囲む。
ラルフ商会主人のベンノがバラの花の茶を渡した。
「バルド様、オスカー様、我が隊のアジト地下回廊を難なく通られる方はそうそういません。アロイス様がお二人を称賛されるはずです」
ベンノは嬉しそうにバルドとオスカーに軽食を勧める。
バルドとオスカーは軽食には手を付けずに軽食と共に用意されたお茶だけを口にした。
「ベンノ殿、折角ご用意下さいましたが、我らは朝食は摂りません。失礼ですが、お茶だけ頂きます」
丁寧に軽食を辞退する。
ベンノは微笑みを向け呼応した。
「承知しました。なに、後で我らで頂きますからご案じなさいますな。それにしても・・・・」
ベンノは残念そうにバルドとオスカーの顔を見る。
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士にお目に掛かれると思っていました。セルジオ様、エリオス様はご一緒ではないのですね。残念です」
バルドは申し訳なさそうに呼応する。
「はい、アロイス様から我らが主の同道はなくとの思し召しでしたので、致し方なく。我らも主と離れる事にいささか・・・・心配ではあります」
バルドはお茶のカップを口に運ぶ。
「左様ですね。この地は特にセルジオ様、エリオス様にとっては危険です。護衛にカリソベリル騎士団第一隊長フェルディ様がついて下さっているとはいえ、不安は脱ぎきれませんよね。であれば、こちらにお引き留めするのも気が引けます。どうぞ、お気兼ねなくセルジオ様、エリオス様の元へ向かわれて下さい」
ベンノは微笑みを向けた。
ガヤッガヤッ!!!
外からもめる様な声が聴こえる。
ベンノは扉へ目を向けた。
「何事か・・・・あったか?」
席を立ち、扉へ向かうとバンッと勢いよく扉が開いた。
受付のバーバラが慌てた声で急き立てる。
「ベンノっ!大変です。入口で入館許可証のない者がバルド殿とオスカー殿を出せと騒いでいます」
ガタッ!
ガタッ!
バルドとオスカーは席を立った。
「我らがこちらへ伺っているのを知り得ているのはフェルディ様だけですっ!」
バタバタバタッ!!!
バルドとオスカーは胸騒ぎを覚える。
キイィィィ!!!
バタンッ!!
急いで荷受け部屋から出ると出入口へ向かった。
「ですからっ!妖しいものではありませんっ!カリソベリル騎士団第一隊長フェルディです。こちらへお越しのバルド殿とオスカー殿に至急お会いしたいのですっ!事は一刻を争うのですっ!どうかっ!こちらへお二人をっ!」
門番に詰め寄るフェルディがいた。
ダダダッ!!!
バルドとオスカーはフェルディへ駆け寄る。
「フェルディ様っ!いかがされましたかっ!」
バルドは胸に広がる不安を押し殺しフェルディの名を呼んだ。
フェルディは2人の門番の肩の間からバルドとオスカーの姿を捉える。
「バルド殿っ!オスカー殿っ!よかったっ!まだ、こちらへお見えでしたっ!急ぎ、お伝えしたいことがっ!」
バルドとオスカーの後ろからつき随ってきたベンノが門番に目配せする。
門番は頷くとフェルディを敷地内へ入れた。
あまりの騒ぎ立て様にラルフ商会の広場に野次馬が集まっている。
「バルド様、オスカー様、ひとまず中へどうぞ」
ベンノは先程の荷受けする建物へ3人を誘った。
「ベンノ殿、助かります」
バルドは一言、ベンノに礼を言うとフェルディへ顔を向けた。
「フェルディ様、待合せ時刻に遅れ失礼を致しました。あちらの部屋で荷受けをしている最中です。ご同道頂けますか?」
バルドは周りの野次馬に聞える様に穏やかにそしてにこやかにフェルディを誘う。
フェルディはバルドの言葉にハッとすると静かに呼応した。
「バルド殿、失礼を致しました。不慣れな土地故・・・・いささか、不安で・・・・」
フェルディは辺りの様子を察し、バルドの言葉に従う。
「大変、失礼を致しました。ささっ、あちらでご一緒に一服致しましょう」
「はい」
バルドとオスカーは落ち着きを取り戻したフェルディと共にベンノが開く扉へ向かうのだった。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
クリソプ騎士団団長アドラーに続き、第一隊長オッシの人となりも見え隠れした回でした。
組織はトップの人となりが良くも悪くも映しだされますよね。
不測の事態が起きた時の対処の仕方で誠の心が見えるのは今も昔も変わらないことだと感じました。
はてさて、オッシの呟く「これは、策だったのか?」が気になります。
次回もよろしくお願い致します。
0
あなたにおすすめの小説
偽りの婚姻
迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。
終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。
夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。
パーシヴァルは妻を探す。
妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。
だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。
婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる