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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~
第97話 清めの儀式1
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ブラウ修道院院長の司祭クロードは神聖水をポルデュラから手渡された時に聞かされた話を静かに続けた。
「ポルデュラ様は、自ずから精製された神聖水を皆様の清めの儀式の後に手渡して欲しいと申されました」
クロードはセルジオとエリオスの背後に目を向けた。
2人の様子に変わりがないことを確認すると意を決した様にバルドとオスカーの顔を見る。
「聖水の泉にての清めの儀式で初代セルジオ様にお出まし頂きます。マデュラ子爵領に入れば黒魔術の結界に初代セルジオ様が反応され、強制的に目覚めさせられる。そうなれば『無念の感情』のみが暴走し、セルジオ様の心をも砕く。それ故、マデュラ子爵領に入る前に初代セルジオ様にお出まし頂き、清めの儀式にてお心を鎮めて頂くとポルデュラ様は申されました」
ポルデュラは初代セルジオの『無念の感情』をセルジオの中に封印した時から既にこの事態を想定していたのだろう。
バルドはクロードの力強い視線を受けながら初代セルジオの『無念の感情』を封印した時の事を思い返していた。
生まれて間もないセルジオの中から激しく湧き出た青白い炎の中に重装備の鎧を纏った初代セルジオが憤怒の表情でバルドとベアトレスを見下ろしていた。
ベッドに横たわるセルジオは激しく吐血し、白い衣を真っ赤な血で染めた。
まるで噴水の様な吐血にぐったりとベッドに横たわるセルジオを遠巻きに見守ることしかできなかった。
ポルデュラに説得され、怒りを鎮めた初代セルジオは正気を取り戻し静かにセルジオの中に封印された。
ゾクリッ!
バルドは身震いを覚える。
深く青い瞳、金色に輝く長い髪を逆立て、青白い炎の中で頭を抱え憤怒の感情をさらけ出した初代セルジオは伝説の騎士と言うより魔物の様に禍々しく感じた。
セルジオの中に封印されてから時折現れる初代セルジオからは想像もつかない程に。
エリオスとオスカーが目にした初代セルジオは感情の起伏はあるものの禍々しさを感じることはなかったはずだ。
バルドは『無念の感情』を露わにした初代セルジオが果たして正気で出てくることが可能なのか不安を覚える。
もし、『無念の感情』が暴走すれば、ここにいる者だけで対処はできない。
そうなればマデュラ子爵領に入る前に初代セルジオを呼び出した所でセルジオに与える影響は同じではないか。
クロードの話を聞きながらバルドの不安は胸の中で黒々とした大きな塊に変わっていった。
オスカーがバルドの様子に気付き、そっと手を差し伸べ微笑みを向けた。
バルドはハッとする。
この胸に広がる黒々とした塊こそ、黒魔術が最も好むものだ。
不安や恐怖、憎しみや恨み、妬みや嫉みの負の感情を餌に黒魔術は効果を発揮する。
バルドはポルデュラが4人全員の心身を清める様、命じたことがオスカーの微笑みでやっと理解できた。
バルドはオスカーの顔をじっと見つめる。
オスカーはにこりと微笑み「大事ございません。我らがついております」と口元を動かした。
バルドはコクリと一つ頷くと大きく息を吸いクロードへ顔を向けた。
クロードは話を続ける。
「明朝、朝陽が昇る頃に清めの儀式を行います。場所は神殿の奥にあります祭場です。衣服も全て整えておきますので、お部屋にてお待ち下さい。準備ができましたらミゲルがご案内します」
バルドは不安に感じていることをクロードへ投げかける事にした。
「クロード殿、私は初代セルジオ様の封印に立会いました。ですから初代様の『無念の感情』がどれほどに強いものかを存じ上げています。万が一、清めの儀式の際に暴走する様なことになれば、我らでは対処のしようがありません。クロード殿は司祭でいらっしゃる。ポルデュラ様の様に魔術で暴走を食い止められるのでしょうか。初代様の『無念の感情』が暴走し、止められなければセルジオ様への影響は同じことになるのではありませんか?」
バルドは取り繕う事なくありのままの言葉でクロードに問いかけた。
クロードはバルドへ微笑みを向ける。
「はい、バルド様が案じていらっしゃること、仰る通りです。私では初代セルジオ様のお心が乱れれば手の施しようがございません。それ故、ポルデュラ様は・・・・」
トントントンッ
クロードの話の途中で食堂の扉が叩かれた。
クロードは再びバルドへ微笑みを向ける。
「バルド様、ご心配には及びません」
クロードは席を立った。
扉を開けると顔を出したミゲルが「お話し中、失礼を致します」とクロードに耳打ちをする。
「すぐにこちらへご案内しなさい。丁度、その話をするところです」
「かしこまりました」
ミゲルが静かにしかし、足早に回廊を玄関口へ向かう気配がした。
クロードは扉の前でバルドの方へクルリと向きを変える。
「バルド様、バルド様のご懸念をポルデュラ様は重々ご承知されてみえました。バルド様がセルジオ様を想うがあまり、お心を乱し、不安の種を育てぬ様にと」
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
規則正しく軽快な足音が2つ近づいてくる。
「ポルデュラ様はあらゆる事態を想定されてみえました。全ての事態に対処できる手立ては私が準備すると申されて。お見えになられた様です」
ガチャリッ!
クロードは2つの足音が扉の前までくると静かに扉を開いた。
「お待ち申し上げておりました。ラドフォール騎士団団長アロイス様、ラルフ商会ラルフ様」
ガタンッ!!
ガタンっ!!
「アロイス様っ!!ラルフ殿っ!」
「久しいな、セルジオ殿、エリオス殿、バルド、オスカー。息災で何よりだ」
颯爽と闊歩し室内に入るラドフォール騎士団団長アロイス・ド・ラドフォールとラドフォール騎士団、影部隊隊長ラルフの姿がそこにあった。
「ポルデュラ様がお導き下さったのです。万が一をも作らぬ程に準備しようぞと申されて」
クロードは驚くバルドに微笑みを向けた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂き、ありがとうございます。
始まりました『青と赤の因縁』編。
セルジオを想うバルドの心情が慮れます。
初代セルジオの封印の回はかなり前になりますので、今一度ご覧頂くと『無念の感情』の強さを感じて頂けると思います。
初代セルジオをセルジオの心と共に封印した回は
第2章 第7話 インシデント3:前世の封印
となります。
次回もよろしくお願い致します。
「ポルデュラ様は、自ずから精製された神聖水を皆様の清めの儀式の後に手渡して欲しいと申されました」
クロードはセルジオとエリオスの背後に目を向けた。
2人の様子に変わりがないことを確認すると意を決した様にバルドとオスカーの顔を見る。
「聖水の泉にての清めの儀式で初代セルジオ様にお出まし頂きます。マデュラ子爵領に入れば黒魔術の結界に初代セルジオ様が反応され、強制的に目覚めさせられる。そうなれば『無念の感情』のみが暴走し、セルジオ様の心をも砕く。それ故、マデュラ子爵領に入る前に初代セルジオ様にお出まし頂き、清めの儀式にてお心を鎮めて頂くとポルデュラ様は申されました」
ポルデュラは初代セルジオの『無念の感情』をセルジオの中に封印した時から既にこの事態を想定していたのだろう。
バルドはクロードの力強い視線を受けながら初代セルジオの『無念の感情』を封印した時の事を思い返していた。
生まれて間もないセルジオの中から激しく湧き出た青白い炎の中に重装備の鎧を纏った初代セルジオが憤怒の表情でバルドとベアトレスを見下ろしていた。
ベッドに横たわるセルジオは激しく吐血し、白い衣を真っ赤な血で染めた。
まるで噴水の様な吐血にぐったりとベッドに横たわるセルジオを遠巻きに見守ることしかできなかった。
ポルデュラに説得され、怒りを鎮めた初代セルジオは正気を取り戻し静かにセルジオの中に封印された。
ゾクリッ!
バルドは身震いを覚える。
深く青い瞳、金色に輝く長い髪を逆立て、青白い炎の中で頭を抱え憤怒の感情をさらけ出した初代セルジオは伝説の騎士と言うより魔物の様に禍々しく感じた。
セルジオの中に封印されてから時折現れる初代セルジオからは想像もつかない程に。
エリオスとオスカーが目にした初代セルジオは感情の起伏はあるものの禍々しさを感じることはなかったはずだ。
バルドは『無念の感情』を露わにした初代セルジオが果たして正気で出てくることが可能なのか不安を覚える。
もし、『無念の感情』が暴走すれば、ここにいる者だけで対処はできない。
そうなればマデュラ子爵領に入る前に初代セルジオを呼び出した所でセルジオに与える影響は同じではないか。
クロードの話を聞きながらバルドの不安は胸の中で黒々とした大きな塊に変わっていった。
オスカーがバルドの様子に気付き、そっと手を差し伸べ微笑みを向けた。
バルドはハッとする。
この胸に広がる黒々とした塊こそ、黒魔術が最も好むものだ。
不安や恐怖、憎しみや恨み、妬みや嫉みの負の感情を餌に黒魔術は効果を発揮する。
バルドはポルデュラが4人全員の心身を清める様、命じたことがオスカーの微笑みでやっと理解できた。
バルドはオスカーの顔をじっと見つめる。
オスカーはにこりと微笑み「大事ございません。我らがついております」と口元を動かした。
バルドはコクリと一つ頷くと大きく息を吸いクロードへ顔を向けた。
クロードは話を続ける。
「明朝、朝陽が昇る頃に清めの儀式を行います。場所は神殿の奥にあります祭場です。衣服も全て整えておきますので、お部屋にてお待ち下さい。準備ができましたらミゲルがご案内します」
バルドは不安に感じていることをクロードへ投げかける事にした。
「クロード殿、私は初代セルジオ様の封印に立会いました。ですから初代様の『無念の感情』がどれほどに強いものかを存じ上げています。万が一、清めの儀式の際に暴走する様なことになれば、我らでは対処のしようがありません。クロード殿は司祭でいらっしゃる。ポルデュラ様の様に魔術で暴走を食い止められるのでしょうか。初代様の『無念の感情』が暴走し、止められなければセルジオ様への影響は同じことになるのではありませんか?」
バルドは取り繕う事なくありのままの言葉でクロードに問いかけた。
クロードはバルドへ微笑みを向ける。
「はい、バルド様が案じていらっしゃること、仰る通りです。私では初代セルジオ様のお心が乱れれば手の施しようがございません。それ故、ポルデュラ様は・・・・」
トントントンッ
クロードの話の途中で食堂の扉が叩かれた。
クロードは再びバルドへ微笑みを向ける。
「バルド様、ご心配には及びません」
クロードは席を立った。
扉を開けると顔を出したミゲルが「お話し中、失礼を致します」とクロードに耳打ちをする。
「すぐにこちらへご案内しなさい。丁度、その話をするところです」
「かしこまりました」
ミゲルが静かにしかし、足早に回廊を玄関口へ向かう気配がした。
クロードは扉の前でバルドの方へクルリと向きを変える。
「バルド様、バルド様のご懸念をポルデュラ様は重々ご承知されてみえました。バルド様がセルジオ様を想うがあまり、お心を乱し、不安の種を育てぬ様にと」
カツッカツッカツッ・・・・
カツッカツッカツッ・・・・
規則正しく軽快な足音が2つ近づいてくる。
「ポルデュラ様はあらゆる事態を想定されてみえました。全ての事態に対処できる手立ては私が準備すると申されて。お見えになられた様です」
ガチャリッ!
クロードは2つの足音が扉の前までくると静かに扉を開いた。
「お待ち申し上げておりました。ラドフォール騎士団団長アロイス様、ラルフ商会ラルフ様」
ガタンッ!!
ガタンっ!!
「アロイス様っ!!ラルフ殿っ!」
「久しいな、セルジオ殿、エリオス殿、バルド、オスカー。息災で何よりだ」
颯爽と闊歩し室内に入るラドフォール騎士団団長アロイス・ド・ラドフォールとラドフォール騎士団、影部隊隊長ラルフの姿がそこにあった。
「ポルデュラ様がお導き下さったのです。万が一をも作らぬ程に準備しようぞと申されて」
クロードは驚くバルドに微笑みを向けた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂き、ありがとうございます。
始まりました『青と赤の因縁』編。
セルジオを想うバルドの心情が慮れます。
初代セルジオの封印の回はかなり前になりますので、今一度ご覧頂くと『無念の感情』の強さを感じて頂けると思います。
初代セルジオをセルジオの心と共に封印した回は
第2章 第7話 インシデント3:前世の封印
となります。
次回もよろしくお願い致します。
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