とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第100話 清めの儀式4

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クロードはミゲルが差し出す柄杓を手に取ると黄金に輝く杯に聖水を移した。

静かに4人の前に進み出る。

4人は頭を垂れた。

パシャパシャ・・・・
パシャパシャ・・・・
パシャパシャ・・・・
パシャパシャ・・・・

黄金の杯に注がれた聖水を月桂樹の葉に含ませ4人の頭へ3回振り掛ける。

セルジオは冷たさに身震いしないよう、両手の拳をギュッと握りしめた。

クロードが天を仰ぐ様に天井へ顔を向け、目を閉じる。

「聖なる泉の聖水にて、一切の穢れを退ける。この者達を憑代よりしろに近づく闇、魔、邪心を払い除け、黄金の光で浄化する。再び近づくことなく、その心、惑うことなく、清らかな身体しんたいと心を未来永劫失うことなく、その行く手を道を歩む助けとならん。いざ、聖上の地へ導くことを許したまえ」

クロードは正面を向くと静かに目を開いた。

「皆様、一歩後ろへお下がり下さい。聖水の滝にて身を清めます」

サアァァァァ・・・・
サアァァァァ・・・・

4人は落ちる水が霧となるほど細い聖水の滝の真下についた。

足元が温かいとはいえ、頭上より降り注ぐ水はかなり冷たい。

ワンッ!!!

セルジオが聖水の滝の真下にくると足元から天井に向けて金色の光が放たれた。

4人の身体を球体の光が包みこむ。

霧雨の様に舞う聖水が身体の周りで輪郭をかたどった。

クロードは4人に微笑みを向ける。

「そのまま天井を仰いで下さい」

言われた通りに4人は天井を仰ぐ。

「口を少し開き、聖水の滝から落ちる水を含まれた後、お飲み下さい」

顔に降り注ぐ聖水はもはや冷たくは感じなかった。

ゴクリッ・・・・
ゴクリッ・・・・
ゴクリッ・・・・
ゴクリッ・・・・

4人は口に含んだ聖水を喉を鳴らし飲み込んだ。

パアァァァァ・・・・

身体のどの部分を聖水が通り抜けているのかが解る程、金色の光を放っている。


金色の光は腹の中心までくると鼓動に合わせて明滅した。

クロードが再び黄金の杯から月桂樹の葉に聖水を含ませる。

「水の精霊の祝福を授けし聖水、この者達の身体、心、その魂の源に加護を与えん」

ザッザッ!!!
ザッザッ!!!
ザッザッ!!!
ザッザッ!!!

クロードは月桂樹の葉で4人に聖水を振り掛けた。

足が浸かる泉の先は川へと通じる洞窟の入り口の様な造りになっている。

クロードが月桂樹の葉を振るうと同時に朝陽が洞窟の入り口を照らした。

岩壁を伝う聖水に反射し、蒼い泉が黄金色に染まった。

4人を包む金色の光と同化し、辺りは暖かな光で包みこまれる。

セルジオは身体の外側と内側からローブに包みこまれているような感覚を覚えていた。

身体が少し浮いている様で自然に両手を広げる。

「蒼き泉と金色の光、黄金の太陽と蒼白き月の雫、蒼玉そうぎょくつるぎに守られし青き血をわざわいより遠ざけ聖上へ導かん。聖なる泉の守り人の願いを聞き届けたまえ」

クロードの言葉に金色の光の明滅が強くなった。

その光の強さは目を閉じている4人にも感じらる程だった。

クロードが今一度、月桂樹の葉を払うと光は静かに散っていった。

浮いた様に感じていた身体が元に戻る。

「静かに目をお開け下さい」

クロードの言葉に4人は静かに目を開けた。

朝陽が昇ったからか薄暗かった祭場は眩しいほどの蒼い光で満たされていた。

セルジオは眩しさに目を細め、何となく自身の腹の辺りへ目を向けた。

白い衣が蒼く染まっている。

キラキラと金色の粒子が蒼く染まった衣を覆っていた。

「清めの儀式を滞りなく終える事ができました」

クロードは4人の姿をまじまじと見つめていた。

驚いた様子で呟くように言葉を発する。

「儀式を終えた後に衣の色が変わりますのも金色の粒子が包んでいますのも初めて目にしました」

ブラウ修道院に伝承されてきた一説を口にする。

「水の精霊に愛されし者、清めの後に衣を蒼く染め、黄金の光が包みこむ」

清めの儀式には白い衣を着用する習わしとなったのだとクロードは付け加えた。

「アロイス様が仰っていらした通りですね。青き血が流れるコマンドールは水の精霊ウンディーネ様に愛された方」

クロードとミゲル、ヤンは揃ってセルジオへ頭を下げた。

セルジオは身体の中からじんじんと暖かい何かが湧き出てくるように感じていた。

思ったままをクロードに尋ねる。

「クロード様、身体の中から暖かいものが湧き出てくる感じがします」

同じように感じていた3人も返答を待つようにクロードの顔を見た。

「水の精霊のご加護です。これより先、魔の依り代になる事も黒魔術に染まる恐れもなくなりましょう。されど、既に黒魔術に染まった者から逃れることはできません。ご用心下さい」

クロードは静かに微笑んだ。

ミゲルとヤンに清めの儀式の後始末をする様、告げると聖水の滝の後ろへ目を向けた。

「アロイス様、ラルフ様がいらっしゃったようです」

薄暗い岩壁の階段を裸足でヒタヒタと下りてくる音がした。

セルジオ達は泉から出ると祭場の脇で跪いた。

「待たせました。顔を上げて下さい」

セルジオが顔を上げると真っ白な流れる様な衣服を纏い、長い銀色の髪をなびかせたアロイスが立っていた。

「あっ・・・・」

セルジオは息を飲む。

その姿は水の城塞で初代セルジオとエリオスと共に楽しそうに踊っていた女性そのものだった。

「初代セルジオ様が愛されたオーロラ・ド・ラドフォール。私の先祖が好んで身に着けていた衣服です」

アロイスは少し哀しそうに跪くセルジオを見つめた。




【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

清めの儀式が粛々と行われました。
マデュラ子爵領に入る準備が着々と進んでいきます。

次回は初代セルジオの悔恨となった出来事を垣間見る回となります。

次回もよろしくお願い致します。
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