とある騎士の遠い記憶

春華(syunka)

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第3章:生い立ち編2 ~見聞の旅路~

第137話 黒魔女の陰謀

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――――エンジェラ河河岸船着き場
    (セルジオ一行マデュラ騎士団城塞祝宴前)――――

ポルデュラとアロイスが船底牢から階段を上り船長室へ向かうとバタバタとイヴォナが駆け寄ってきた。

イヴォナのただならぬ様子にアロイスの胸に不安が過る。

「イヴォナ、何かあったのか?」

辺りを気にする余裕もない程に「お耳を」と一言告げるとイヴォナはアロイスに耳打ちをした。

「なに?!」

イヴォナの耳打ちにアロイスは驚きの表情をポルデュラへ向ける。

「叔母上、黒魔女が黒の影を仕込んだのはベルホルト様だけではないようです」

イヴォナは握っていた包を開き赤黒い靄が立ち上る黒い粒をポルデュラとアロイスの目前に差し出した。

「これは、ハナズオウの豆果じゃな?ふむ、しかも黒魔術が施され毒性が増しているな・・・・」

ポルデュラはイヴォナへ目を向けた。

「どこで手に入れたのじゃ?」

パカッ!!!
サラサラ・・・・
イヴォナの掌で豆果が突然割れ銀色の砂粒と化し跡形もなく消えた。

唖然としているアロイスとイヴォナにポルデュラは何事もないように説明をする。

「ああ、案ずるな。結界が作用したのじゃ。黒魔術が施された物、黒の影を纏った者は銀の砂粒となり消え失せる。黒魔術にかかればその時点で抜け殻の様なものじゃからな。消え失せる時間がそのものよって異なるだけじゃ」

イヴォナは先ほどまで握っていた豆果が消え失せた掌をまじまじと見つめた。

「イヴォナ、豆果をどこで手に入れたのじゃ?」

ポルデュラがイヴォナに同じ質問をする。

イヴォナははっと我に返り呼応した。

「はっ!ポルデュラ様っ!失礼を致しました。ベルホルト様を捕えた酒場に忍び込ませている配下の者が持ち込みました。騎士団館の祝宴で振舞われる魚の揚げ物が酒場に差入れられた様で、その料理に散らされていたとのことです」

ポルデュラは「ふむ」と呟き左手二指を唇にあてた。

「相打ちにさせる魂胆やもしれぬな。ハナズオウはマデュラ子爵家裏紋章の花じゃ。豆果に毒性がある事はマデュラの料理人であれば知らぬはずはあるまい。しかもじゃ、わざわざ騎士団館の祝宴で振舞われる料理だと明言した上での差入れじゃ、誰が己が守護する地の民に毒が盛られた料理を差入れると思うか?」

ポルデュラはアロイスへ視線を向けた。

「恐らく今までも頻繁に料理の差入れがされていたのじゃろう。そうなると毒を盛った者は今日初めてマデュラの地に足を踏み入れた者、青と赤の因縁の片割れではなかろうか?と疑念を抱ずにはおれまい」

ポルデュラは話を黙って聞いているアロイスの深い緑色の瞳を見つめる。

「生まれた疑念を大きく膨らませるのは容易たやすい事じゃ。特にマデュラは他の貴族領から疎まれているからな。表向きは領民全てを家族と公言する領主とその領主の考えに同調する騎士団団長へ強い信頼を寄せておる。

 そうなればじゃ、生まれた疑念は憎悪へと変わる。青と赤の因縁の終わりの始まりを宣言したいと願うブレン殿の想いなどあっという間に打ち砕かれるじゃろうて。しかも増幅した憎悪は黒魔女の最大の糧じゃ。領内に巣くう黒の影を纏った者達を操り、騎士や従士だけでなく守護する城塞全ての者達をあおったとしたら・・・・」

ポルデュラは驚き見開いた目を向けるアロイスへ微笑みを向けた。

「我ら共々セルジオ様もエリオス様もバルド、オスカーも袋のネズミじゃ。ははは、これは面白くなってきたの」

ポルデュラは悪戯っぽく笑った。

「・・・・叔母上・・・・」

アロイスはこの期に及んで楽し気なポルデュラに呆れた表情を向ける。

「案ずるな。私をここへ、マデュラの地に招いたのは他ならぬアロイス殿じゃろう?こうなる事を予測しての事じゃろう?」

アロイスはやれやれと両肩を少し上げて見せるがキッと厳しい目つきになった。

「黒魔女の思惑通りにはなりません」

ポルデュラに強い口調で言い切る。

「そうじゃな。そうならぬ為にそなたと私がここにおるのじゃ。ふむ、どうするかの?アロイス殿」

ポルデュラはアロイスに指示を促した。

「はっ!まずは酒場に差し入れられた料理の毒を無効としましょう」

「ほう、いかがするのじゃ?」

ポルデュラはアロイスがこの事態をどのように収拾するのか確かめる様に問いを投げ掛けた。

「黒魔女には思惑が成功したと思ってもらわねばなりますまい。差入れはそのまま食してもらいます」

「ほう、敢えて毒を食らわすか」

「はい」

「ふむ、まぁ、豆果の毒気は黒魔術で増幅しているとはいえ、命までは取らぬからな。せいぜい、嘔吐と腹痛、腹を下す程度じゃ。その事も織り込み済みじゃて。じゃが、毒を食わされたと皆に認識させる事がマルギットの思惑じゃぞ」

「はい、食らいはするが毒の効果が出ねば毒を食らったとは思いますまい。叔母上、ラルフ商会商船長がここにいる事をお忘れですか?」

アロイスはポルデュラと同じように悪戯っぽく口元を歪めた。

「明朝、王都へ向け出港するラルフ商会商船長は、たまたま騎士団館で祝宴が催される事を知ったのです。そして騎士団から料理が差入れされた所にたまたま出くわした。ラルフ商会が荷下ろしした品はワインと果汁です。これを振舞わずして王国一の商会と言えましょうか?」

アロイスはニタリと笑い商船長のイヴォナへ目を向けた。

「イヴォナ、魚の揚げ物が差入れられた酒場、食堂全てにラルフ商会からワインと果汁を差し入れろっ!倉庫に荷下ろしした物全てでも構わぬ。急げっ!」

「はっ!」

アロイスの指示に呼応するとイヴォナは商船を飛び出していった。

「我が水の城塞が治める修道院で醸造したワイン、果汁は全てウンディーネ様から加護を授かった聖水を用いています。豆果の毒気など取るに足りません。叔母上の結界もありますし、民に振舞われる料理の毒気は無効となりましょう。ただ・・・・」

アロイスは神妙な顔をポルデュラに向けた。

「騎士団の祝宴にはワインも果汁も届ける手立てがありません。騎士と従士は毒を食らいます。セルジオ様もエリオス様も恐らくは勧められるがままに食されるでしょう。特にセルジオ様はベルホルト様の事もありますから二重の毒気を食らう事になります。ここをいかにすればよいか・・・・」

ポルデュラはアロイスの事態収拾の手立てと手の及ばない事態把握に感心した面持ちを向ける。

「アロイス殿、騎士団は仕方あるまい。誰ぞ手引きした者がおるはずじゃ、騎士団の中にな。後はバルドとオスカーに託すしかないの」

ポルデュラは甲板に出て煌々と灯りが灯る岸壁上のマデュラ騎士団館を見上げた。

「そろそろ、祝宴も始まる頃じゃな。どれ、バルドに伝えるとするか」

ポルデュラは左手二指を唇にあて、ゆっくりと目を閉じた。




【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。

騎士団城塞での祝宴前と現在が行き来しながら『セルジオ毒殺計画』の全容が徐々に明かされてきました。

信頼から生まれる結束力や団結力を逆手に取った黒魔女の陰謀。

人心を巧みに操作する黒魔術の恐ろしさを感じます。

次回から行き来していた時間軸が重なります。

セルジオ不在の状況をバルド達は隠しきる事ができるのか?

次回もよろしくお願い致します。
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