1 / 7
日野美優 (ひのみゆう)
しおりを挟む
グループチャットは、戦いだ。
『それでは双輿女子高校一年A組の、文化祭の出し物についての会議をはじめます!』
午後八時定時。
トークルームに打ち込んだ言葉に、一瞬にして三十九人から反応が来る。
吹き出しの下に表示される「既読39」という文字。
取りあえず、全員が出席してくれてることに安堵する。
『進行役は学級委員長である私が務めさせていただきます。よろしくお願いします』
『よろしくー』
すぐに数人から返信が来る。私と仲がいい子達からだ。他は沈黙しているけれど、全員に好き勝手喋られたら収拾がつかなくなるからそれでいい。チャットを使っているとはいえ、これは会議だ。今日中に決めなくてはならない重要な会議。恙なく進行させることが私の役目。
私達A組はクラス会議に、チャットアプリサービス、キズナチャットを活用している。
普通こういうのは朝礼前や放課後に集まってやるものだ。けれども、A組は会議に対して消極的な子が多く、なかなか集まらなかった。事前に呼びかけても朝礼前なら遅刻するし、昼休みは食堂派が教室にいないし、放課後は用事があると言って早々に帰る子が必ずいた。
いつまでも纏まりに欠けるA組を心配してか、担任がクラスのグループチャットを作ってみたら? と提案したのが始まりだった。
元々チャットをやっていた人はいたらしいが、既存のアカウントとは別に学校専用のを作らせたところ、参加者は多く、中々の盛り上がりを見せた。
教室では関わったことがなかったクラスメイトとも、チャットでなら気軽に話せる、という人も出てきた。チャットの中の交友関係が、教室にも反映されるようになった頃には、いつしかクラスメイト全員のグループチャットになっていた。
こんなに集まりがいいならば、会議もここですればいい、という流れになるのは、当然かもしれない。先生からも了承を得て、今に至る。
実際、チャットで会議をするのは便利だ。
議論の内容が文字として記録されているし、誰が何を発言したかがすぐ分かる。一人ずつ順番に意見を聞いていくのも、教室よりずっと楽だ。顔が見えないから、余計な事に気を回さなくていい。
雑談しているクラスメイトに苛立つこともなければ、発言もしないくせに、早く終われって顔に出てる自分勝手な人に気づかなくていい。
文字は平等だ。
手のひらサイズの画面の中で流れていく言葉は、誰が打っても同じ文字だ。
私はその言葉の一つ一つを拾っていって、クラスの意見としてまとめ上げる。
今日も会議は恙なく進行している。
顔の見えないクラスメイトに、私は小さく微笑んだ。
『それでは双輿女子高校一年A組の、文化祭の出し物についての会議をはじめます!』
午後八時定時。
トークルームに打ち込んだ言葉に、一瞬にして三十九人から反応が来る。
吹き出しの下に表示される「既読39」という文字。
取りあえず、全員が出席してくれてることに安堵する。
『進行役は学級委員長である私が務めさせていただきます。よろしくお願いします』
『よろしくー』
すぐに数人から返信が来る。私と仲がいい子達からだ。他は沈黙しているけれど、全員に好き勝手喋られたら収拾がつかなくなるからそれでいい。チャットを使っているとはいえ、これは会議だ。今日中に決めなくてはならない重要な会議。恙なく進行させることが私の役目。
私達A組はクラス会議に、チャットアプリサービス、キズナチャットを活用している。
普通こういうのは朝礼前や放課後に集まってやるものだ。けれども、A組は会議に対して消極的な子が多く、なかなか集まらなかった。事前に呼びかけても朝礼前なら遅刻するし、昼休みは食堂派が教室にいないし、放課後は用事があると言って早々に帰る子が必ずいた。
いつまでも纏まりに欠けるA組を心配してか、担任がクラスのグループチャットを作ってみたら? と提案したのが始まりだった。
元々チャットをやっていた人はいたらしいが、既存のアカウントとは別に学校専用のを作らせたところ、参加者は多く、中々の盛り上がりを見せた。
教室では関わったことがなかったクラスメイトとも、チャットでなら気軽に話せる、という人も出てきた。チャットの中の交友関係が、教室にも反映されるようになった頃には、いつしかクラスメイト全員のグループチャットになっていた。
こんなに集まりがいいならば、会議もここですればいい、という流れになるのは、当然かもしれない。先生からも了承を得て、今に至る。
実際、チャットで会議をするのは便利だ。
議論の内容が文字として記録されているし、誰が何を発言したかがすぐ分かる。一人ずつ順番に意見を聞いていくのも、教室よりずっと楽だ。顔が見えないから、余計な事に気を回さなくていい。
雑談しているクラスメイトに苛立つこともなければ、発言もしないくせに、早く終われって顔に出てる自分勝手な人に気づかなくていい。
文字は平等だ。
手のひらサイズの画面の中で流れていく言葉は、誰が打っても同じ文字だ。
私はその言葉の一つ一つを拾っていって、クラスの意見としてまとめ上げる。
今日も会議は恙なく進行している。
顔の見えないクラスメイトに、私は小さく微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
元カレは隣の席のエース
naomikoryo
ライト文芸
【♪♪♪本編、完結しました♪♪♪】
東京で燃え尽きたアラサー女子が、地元の市役所に転職。
新しい人生のはずが、配属先の隣の席にいたのは――
十四年前、嘘をついて別れた“元カレ”だった。
冷たい態度、不器用な優しさ、すれ違う視線と未練の影。
過去を乗り越えられるのか、それとも……?
恋と再生の物語が、静かに、熱く、再び動き出す。
過去の痛みを抱えた二人が、地方の公務員として出会い直し、
心の距離を少しずつ埋めていく大人の再会ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる