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連載
初めての報酬は大銀貨一枚と芋一袋
俺たちは畑の周りを歩いて、材料の見積りをする。
「これは結構な量の杭が必要になりそうだな」
「でも、林の木は好きなだけ切っていいって言ってたし、問題ないよ」
切り出す木の本数を大体決めた俺たちは林に向かう。材料を切り出すと言っても、適当に切るわけにはいかない。ちゃんと林の顔を見て、どこからどれだけ切るかを決める。
適当に切っちゃうと、林が駄目になったりすることもあるからだ。
おそらく、この林は村の防風の役割を果たしているんだろうし、おそらく水を溜め込む役割も担っている。それに、林から得ている恩恵もあるんだと思うんだよね。例えば、木の実とか薬草とか山菜とか。
だから、木を切り倒しても林が健全に存在できる配慮が必要だ。
「うーん……この木と、その木……それから、あそこの木……かな。あと、あれも」
俺の選んだ木にパーシヴァルが印をつけてゆく。建物のための木じゃないから、太さはそこまで無くてもいい。
木が混み合っている辺りから、切り倒す木を選んでゆく。
林の風通しをよくすると、木の根の張りが良くなるし、何より病害虫が防げる。それに、いろいろな植物が育つようになるから林からの恩恵も増えるはず。
「とりあえず、こんなもんで足りるかな?」
「そうだな。十分だろう」
「じゃぁ、始めますか!」
俺は印をつけた木の根元を狙って、風の魔法を放つ。刃のように鋭い風が、あっという間に10本近い木を切り倒した。メキメキと音を立てて、木が同じ方向に向かって綺麗に倒れてゆく。
ちゃーんと安全確認をして、倒れる方向も考えて魔法を放ったからね。
「相変わらず、サフィラスの魔法は正確だな……」
「えへへ~、まぁね。俺の取り柄なんて魔法くらいだからさ」
「そんなことはない。サフィラスは魔法だけじゃなく、豊かな知識もあるじゃないか」
「そうかな?」
「ああ。とても頼りになる」
パーシヴァルが太陽の騎士の笑みを浮かべる。
いや、冒険者になったから太陽の騎士改め、太陽の剣士だな。どっちにしても、俺の伴侶は格好いいぞ。
木を切り倒した後は、転移で一本一本畑の近くまで運び出す。
運び出した木の枝をパーシヴァルが落として、俺が必要な長さに魔法で切る。この単調な作業を黙々とこなして、日が暮れるころには柵作りのための一通りの材料が揃った。
「今日はここまでかな」
「ああ、そうだな。そろそろ帰らないと皆に心配される」
「……あっ、そうだった」
ギルドに登録に行くと言って城を出た俺たちだが、依頼を受けてくるとまでは言っていない。カードを受け取ったあとは、オリエンスをぶらぶらして城に戻るつもりだったから。
俺たちは今日の作業を終えて、オリエンスに戻ることを村長さんに伝えに行く。
「え? 今からオリエンスに戻られるのですか? しかし、馬車は3日後まで来ませんぞ。大したおもてなしはできませんが、今夜は私たちの家にお泊まりになられては?」
「お気遣いありがとうございます。でも、俺たちは転移ができるので大丈夫です。また明日来ますね」
村長にいとまを告げて城に戻れば、エントランスホールでは、義母さんとジェイコブさんが待っていた。こ、これはもしかして、ちょっとお怒りだろうか……
「た、ただいま戻りました」
「……ギルドに行くと朝早く出て行ったかと思えば、この時間まで一体なにをしていたのかしら?」
義母さんの言葉に、ジェイコブさんもうんうんと頷いている。確かになー……日が暮れる前には戻ってこようと思ってたのに、ちょっと作業に夢中になりすぎてすっかり遅くなってしまった。
「すみません……実は、依頼を一つ引き受けていました」
「冒険者登録をしたからといっても、あなたたちはまだ学生なのですからね」
「申し訳ありません」
「まぁ、母上。彼らももう大人なんです。あまり干渉するのも良くないでしょう。この様子だと、サフィもお腹を空かせているのではないですか?」
いい年をした二人が、子供みたいに叱られて項垂れているところを、ちょうど城に戻ってきたお兄さんたちに見つかってしまった。
テオドールさんの言う通り、今日はギルドに向かう前に朝食を食べたきりだ。ふすまのクッキーは食べたけど、腹の足しになるようなものでもない。ずいぶん体も動かしたし、すっかり空腹で倒れそうだ。
マントの裾に木屑をつけて、どことなく汚れている俺たちを頭の先から足の先まで見た義母さんはため息をつく。
「……早く浴をしていらっしゃい。今日は冒険者登録のお祝いに、特別なお料理を用意していますからね」
「はい!」
冒険者登録をした俺たちを祝う準備をしてくれていた義母さんは、日が暮れても戻ってこない俺たちを今か今かと待ち構えていたんだろう。申し訳ないことをしてしまった。
俺とパーシヴァルは急いで部屋に戻ると、浴室に飛び込んだ。
「なるほど、それで早速依頼を受けたと言うわけか。で、二人の初めての仕事は何だったんだ?」
特別な料理を頂きながら、今日1日のことを報告する。
今夜のメインは子羊の骨付き肉。香草の塩が効いてて、しかも柔らかい! 学院のカフェテリアでも出てくるけど、断然こっちの方が美味いよ。こんなの何本だって食べられちゃうじゃないか。
ナイフとフォークじゃなくて、手で掴んで思い切りかぶりつきたい。
「柵の修繕です」
「……柵の修繕?」
肉に夢中な俺に代わってパーシヴァルが答えると、みんなが驚いたように俺たちに視線を向けた。
ん? そんなに驚くことかな?
「……はい。そういう依頼は初級冒険者の仕事なので」
肉を飲み込んだ俺は、パーシヴァルの後を引き継いだ。
「いや、そうなのだろうが、サフィが引き受けるのなら、魔獣討伐かと思っていた」
「それはもう少し小さな依頼をいくつかこなしてからにします」
「新人の冒険者ならば至って普通のことだな」
義父さんが納得したように頷く。
そうでしょう、そうでしょう。いくらフォルティスだった時にベテラン冒険者だったからと言って、俺たちは学生の身分だし新人冒険者だ。ちゃんと段階を踏まないとね。
「いや……だけど、サフィだぞ?」
カーティスさんはまだ納得できないようだけど。まぁ、魔獣の森の討伐には嬉々として参加してたからな。
「最初は柵の修繕だけのつもりだったんですけど、行ってみたら結構傷んでいて。結局全部作り直すことにしたんです。だから、しばらくは村に通うことになるかと思います」
「そう。それなら明日はランチを持ってゆきなさい。厨房に頼んでおきましょう」
「ありがとうございます!」
それはとっても有難い。腹が減っては戦はできぬっていうしね。ランチがあれば百人力だ。
翌朝。
サンドウィッチが入った籠を受け取った俺たちは、マテオに跨って昨日の村へと転移する。マテオも俺たち自由の風の仲間だからな。
作業を始める前に村長さんの家に挨拶に行って、早速畑に向かう。
今日からは古い柵を新しい物に取り替えてゆく。柵を抜くのはマテオの力を借りる。杭に縄を結びつけて、それをマテオに引いてもらうのだ。
「よし、マテオ引いてくれ」
パーシヴァルの合図でマテオが二、三歩前に出れば、杭はあっさりと抜けた。さすがマテオ!
抜いた杭は、俺が一箇所にまとめて積み上げる。これも小さく割れば薪として使えるからね。昨日パーシヴァルが落とした枝も立派な焚き付けになるので、ちゃんとまとめてあるのだ。
俺たちが作業をしていると、村の人たちがちょくちょく様子を見に来る。外からやってきた人間が珍しいのだろう。
「よくきてくれたね。本当に助かるよ。これ、大した物じゃないけど食べておくれ」
「ありがとうございます」
おばあさんが差し出したのは干し芋だった。貴重な保存食じゃないか。
「この畑が私らの食糧を支えているんだ。それを鹿や猪に荒らされちゃって、ほとほと困り果てていたんだよ」
「安心して下さい。猪が体当たりしてもびくともしない頑丈な柵を作りますから」
昨日俺たちに厳しい言葉をかけてきたダンという人は、遠くからこちらを見ていた。やっぱりまだ信用できないんだろう。まぁ、仕方がない。出来上がった柵を見てもらうしかないよな。
それはそうと。
「パーシヴァル。そろそろ昼にしない?」
「ああ、そうだな」
ランチ、楽しみだったんだ。だって、肉をたっぷりと挟んだサンドウィッチだからね。
俺たちは丸太に腰掛けて、ランチの入った籠を開ける。中にはサンドウィッチと果物が入っていた。
もちろんマテオの分のランチも持ってきている。ご褒美の林檎と人参だ。二人と一頭で、畑を眺めながらのランチタイム。
「サフィラス、疲れてはいないか?」
「全然平気。これくらいで疲れていたら、旅になんか出られないよ」
「確かに、そうだな」
肉がたっぷりの分厚いサンドウィッチにかぶりつく。肉が柔らかくて、ソースも美味しい。
天気が良くてのどかだし、空では鳥も囀っていて最高のランチだ。
「……楽しみだな」
絶品サンドウィッチを堪能していると、パーシヴァルがポツリと呟いた。
「ん、何が?」
今夜の晩餐のことかな?
「サフィラスと旅に出るのが楽しみだ。もちろん楽な旅だとは思っていない。俺は知識も経験も少ないから、サフィラスの足を引っ張ることもあるだろう。それでも、共に力を合わせて歩むのだと思うと……胸が高鳴る」
そうか、パーシヴァルも旅を楽しみにしてくれているんだ。俺ばっかりはしゃいでいるところがあったから、何だか嬉しいな。
「……そんなの、俺だってそうだよ……んぐっ!」
んんんんっ!
照れ臭さを隠すように思い切り頬張ったサンドウィッチが、喉に詰まる。
うげ……! しぬ!
「サフィラス⁉︎ 喉に詰まらせたのか! 水を!」
パーシヴァルに皮袋の水を飲ませてもらって、喉に詰まらせたサンドウィッチを何とか嚥下した。
「大丈夫か?」
「……だ、大丈夫。助かったよ」
あっぶな……旅に出る前に危うく窒息死するところだったよ。
それから、柵作りは順調に進み2日後には完璧に仕上がった。
「どうだ! これなら魔獣が体当たりしたってびくともしないぞ!」
「これは、これは……」
「何とも頑丈そうな柵だ」
柵の完成に村人たちが集まってくる。
「こんなに立派な柵を作ってくださって、ありがとうございます!」
村の人たちはみんな嬉しそうだ。喜んでもらえて良かったよ。離れた場所で、村人たちに囲まれている俺たちの様子を見ていたダンさんが、ゆっくりと歩み寄ってきた。やっぱり、ダンさんのお眼鏡に叶わなかったか?
ところが、バツが悪そうにしながらも、ダンさんは頭を下げた。
「……この間は悪かったな。あんたらを見た目だけで判断しちまって」
「いえ、気にしないでください」
新人冒険者だし、そのうち一人は見た目も弱そうなんだ。ちゃんとした仕事ができるのか、疑うのも当然。中には、自分の実力を見誤って依頼を遂行できない冒険者だっているからね。
「これを持っていけ」
ダンさんはずいっと麻袋を差し出す。
「……?」
受け取った袋を開けてみると、中には小ぶりの芋がたくさん入っている。これは少ない収穫の中でやっと蓄えた食糧じゃないだろうか。
受け取っていいものか戸惑っていると、ダンさんがニヤッと笑った。
「……柵ができたからな。これからは猪どもに荒らされることもない」
「それなら、遠慮なく頂いて行きます」
俺とパーシヴァルは、村の人たちと別れてギルドに戻ると、村長さんのサインが入った依頼書を受付嬢に渡す。
「依頼完了しました」
「お疲れ様でした」。こちらが報酬になります」
受付嬢から受け取った報酬は大銀貨一枚。俺たちは柵を全部作り替えちゃったけど、そもそもは柵の修理だ。報酬としてはこんなものだろう。
獣の被害が減れば収入も増えるだろうし、これから少しでも豊かになればいいけどな。
ともあれ、これで俺たちの仕事は完了だ。
大銀貨一枚と芋一袋。
「俺たち自由の風の初収入だね」
「そうだな」
俺たちは視線を交わして笑いあうと、ギルドを出た。
「これは結構な量の杭が必要になりそうだな」
「でも、林の木は好きなだけ切っていいって言ってたし、問題ないよ」
切り出す木の本数を大体決めた俺たちは林に向かう。材料を切り出すと言っても、適当に切るわけにはいかない。ちゃんと林の顔を見て、どこからどれだけ切るかを決める。
適当に切っちゃうと、林が駄目になったりすることもあるからだ。
おそらく、この林は村の防風の役割を果たしているんだろうし、おそらく水を溜め込む役割も担っている。それに、林から得ている恩恵もあるんだと思うんだよね。例えば、木の実とか薬草とか山菜とか。
だから、木を切り倒しても林が健全に存在できる配慮が必要だ。
「うーん……この木と、その木……それから、あそこの木……かな。あと、あれも」
俺の選んだ木にパーシヴァルが印をつけてゆく。建物のための木じゃないから、太さはそこまで無くてもいい。
木が混み合っている辺りから、切り倒す木を選んでゆく。
林の風通しをよくすると、木の根の張りが良くなるし、何より病害虫が防げる。それに、いろいろな植物が育つようになるから林からの恩恵も増えるはず。
「とりあえず、こんなもんで足りるかな?」
「そうだな。十分だろう」
「じゃぁ、始めますか!」
俺は印をつけた木の根元を狙って、風の魔法を放つ。刃のように鋭い風が、あっという間に10本近い木を切り倒した。メキメキと音を立てて、木が同じ方向に向かって綺麗に倒れてゆく。
ちゃーんと安全確認をして、倒れる方向も考えて魔法を放ったからね。
「相変わらず、サフィラスの魔法は正確だな……」
「えへへ~、まぁね。俺の取り柄なんて魔法くらいだからさ」
「そんなことはない。サフィラスは魔法だけじゃなく、豊かな知識もあるじゃないか」
「そうかな?」
「ああ。とても頼りになる」
パーシヴァルが太陽の騎士の笑みを浮かべる。
いや、冒険者になったから太陽の騎士改め、太陽の剣士だな。どっちにしても、俺の伴侶は格好いいぞ。
木を切り倒した後は、転移で一本一本畑の近くまで運び出す。
運び出した木の枝をパーシヴァルが落として、俺が必要な長さに魔法で切る。この単調な作業を黙々とこなして、日が暮れるころには柵作りのための一通りの材料が揃った。
「今日はここまでかな」
「ああ、そうだな。そろそろ帰らないと皆に心配される」
「……あっ、そうだった」
ギルドに登録に行くと言って城を出た俺たちだが、依頼を受けてくるとまでは言っていない。カードを受け取ったあとは、オリエンスをぶらぶらして城に戻るつもりだったから。
俺たちは今日の作業を終えて、オリエンスに戻ることを村長さんに伝えに行く。
「え? 今からオリエンスに戻られるのですか? しかし、馬車は3日後まで来ませんぞ。大したおもてなしはできませんが、今夜は私たちの家にお泊まりになられては?」
「お気遣いありがとうございます。でも、俺たちは転移ができるので大丈夫です。また明日来ますね」
村長にいとまを告げて城に戻れば、エントランスホールでは、義母さんとジェイコブさんが待っていた。こ、これはもしかして、ちょっとお怒りだろうか……
「た、ただいま戻りました」
「……ギルドに行くと朝早く出て行ったかと思えば、この時間まで一体なにをしていたのかしら?」
義母さんの言葉に、ジェイコブさんもうんうんと頷いている。確かになー……日が暮れる前には戻ってこようと思ってたのに、ちょっと作業に夢中になりすぎてすっかり遅くなってしまった。
「すみません……実は、依頼を一つ引き受けていました」
「冒険者登録をしたからといっても、あなたたちはまだ学生なのですからね」
「申し訳ありません」
「まぁ、母上。彼らももう大人なんです。あまり干渉するのも良くないでしょう。この様子だと、サフィもお腹を空かせているのではないですか?」
いい年をした二人が、子供みたいに叱られて項垂れているところを、ちょうど城に戻ってきたお兄さんたちに見つかってしまった。
テオドールさんの言う通り、今日はギルドに向かう前に朝食を食べたきりだ。ふすまのクッキーは食べたけど、腹の足しになるようなものでもない。ずいぶん体も動かしたし、すっかり空腹で倒れそうだ。
マントの裾に木屑をつけて、どことなく汚れている俺たちを頭の先から足の先まで見た義母さんはため息をつく。
「……早く浴をしていらっしゃい。今日は冒険者登録のお祝いに、特別なお料理を用意していますからね」
「はい!」
冒険者登録をした俺たちを祝う準備をしてくれていた義母さんは、日が暮れても戻ってこない俺たちを今か今かと待ち構えていたんだろう。申し訳ないことをしてしまった。
俺とパーシヴァルは急いで部屋に戻ると、浴室に飛び込んだ。
「なるほど、それで早速依頼を受けたと言うわけか。で、二人の初めての仕事は何だったんだ?」
特別な料理を頂きながら、今日1日のことを報告する。
今夜のメインは子羊の骨付き肉。香草の塩が効いてて、しかも柔らかい! 学院のカフェテリアでも出てくるけど、断然こっちの方が美味いよ。こんなの何本だって食べられちゃうじゃないか。
ナイフとフォークじゃなくて、手で掴んで思い切りかぶりつきたい。
「柵の修繕です」
「……柵の修繕?」
肉に夢中な俺に代わってパーシヴァルが答えると、みんなが驚いたように俺たちに視線を向けた。
ん? そんなに驚くことかな?
「……はい。そういう依頼は初級冒険者の仕事なので」
肉を飲み込んだ俺は、パーシヴァルの後を引き継いだ。
「いや、そうなのだろうが、サフィが引き受けるのなら、魔獣討伐かと思っていた」
「それはもう少し小さな依頼をいくつかこなしてからにします」
「新人の冒険者ならば至って普通のことだな」
義父さんが納得したように頷く。
そうでしょう、そうでしょう。いくらフォルティスだった時にベテラン冒険者だったからと言って、俺たちは学生の身分だし新人冒険者だ。ちゃんと段階を踏まないとね。
「いや……だけど、サフィだぞ?」
カーティスさんはまだ納得できないようだけど。まぁ、魔獣の森の討伐には嬉々として参加してたからな。
「最初は柵の修繕だけのつもりだったんですけど、行ってみたら結構傷んでいて。結局全部作り直すことにしたんです。だから、しばらくは村に通うことになるかと思います」
「そう。それなら明日はランチを持ってゆきなさい。厨房に頼んでおきましょう」
「ありがとうございます!」
それはとっても有難い。腹が減っては戦はできぬっていうしね。ランチがあれば百人力だ。
翌朝。
サンドウィッチが入った籠を受け取った俺たちは、マテオに跨って昨日の村へと転移する。マテオも俺たち自由の風の仲間だからな。
作業を始める前に村長さんの家に挨拶に行って、早速畑に向かう。
今日からは古い柵を新しい物に取り替えてゆく。柵を抜くのはマテオの力を借りる。杭に縄を結びつけて、それをマテオに引いてもらうのだ。
「よし、マテオ引いてくれ」
パーシヴァルの合図でマテオが二、三歩前に出れば、杭はあっさりと抜けた。さすがマテオ!
抜いた杭は、俺が一箇所にまとめて積み上げる。これも小さく割れば薪として使えるからね。昨日パーシヴァルが落とした枝も立派な焚き付けになるので、ちゃんとまとめてあるのだ。
俺たちが作業をしていると、村の人たちがちょくちょく様子を見に来る。外からやってきた人間が珍しいのだろう。
「よくきてくれたね。本当に助かるよ。これ、大した物じゃないけど食べておくれ」
「ありがとうございます」
おばあさんが差し出したのは干し芋だった。貴重な保存食じゃないか。
「この畑が私らの食糧を支えているんだ。それを鹿や猪に荒らされちゃって、ほとほと困り果てていたんだよ」
「安心して下さい。猪が体当たりしてもびくともしない頑丈な柵を作りますから」
昨日俺たちに厳しい言葉をかけてきたダンという人は、遠くからこちらを見ていた。やっぱりまだ信用できないんだろう。まぁ、仕方がない。出来上がった柵を見てもらうしかないよな。
それはそうと。
「パーシヴァル。そろそろ昼にしない?」
「ああ、そうだな」
ランチ、楽しみだったんだ。だって、肉をたっぷりと挟んだサンドウィッチだからね。
俺たちは丸太に腰掛けて、ランチの入った籠を開ける。中にはサンドウィッチと果物が入っていた。
もちろんマテオの分のランチも持ってきている。ご褒美の林檎と人参だ。二人と一頭で、畑を眺めながらのランチタイム。
「サフィラス、疲れてはいないか?」
「全然平気。これくらいで疲れていたら、旅になんか出られないよ」
「確かに、そうだな」
肉がたっぷりの分厚いサンドウィッチにかぶりつく。肉が柔らかくて、ソースも美味しい。
天気が良くてのどかだし、空では鳥も囀っていて最高のランチだ。
「……楽しみだな」
絶品サンドウィッチを堪能していると、パーシヴァルがポツリと呟いた。
「ん、何が?」
今夜の晩餐のことかな?
「サフィラスと旅に出るのが楽しみだ。もちろん楽な旅だとは思っていない。俺は知識も経験も少ないから、サフィラスの足を引っ張ることもあるだろう。それでも、共に力を合わせて歩むのだと思うと……胸が高鳴る」
そうか、パーシヴァルも旅を楽しみにしてくれているんだ。俺ばっかりはしゃいでいるところがあったから、何だか嬉しいな。
「……そんなの、俺だってそうだよ……んぐっ!」
んんんんっ!
照れ臭さを隠すように思い切り頬張ったサンドウィッチが、喉に詰まる。
うげ……! しぬ!
「サフィラス⁉︎ 喉に詰まらせたのか! 水を!」
パーシヴァルに皮袋の水を飲ませてもらって、喉に詰まらせたサンドウィッチを何とか嚥下した。
「大丈夫か?」
「……だ、大丈夫。助かったよ」
あっぶな……旅に出る前に危うく窒息死するところだったよ。
それから、柵作りは順調に進み2日後には完璧に仕上がった。
「どうだ! これなら魔獣が体当たりしたってびくともしないぞ!」
「これは、これは……」
「何とも頑丈そうな柵だ」
柵の完成に村人たちが集まってくる。
「こんなに立派な柵を作ってくださって、ありがとうございます!」
村の人たちはみんな嬉しそうだ。喜んでもらえて良かったよ。離れた場所で、村人たちに囲まれている俺たちの様子を見ていたダンさんが、ゆっくりと歩み寄ってきた。やっぱり、ダンさんのお眼鏡に叶わなかったか?
ところが、バツが悪そうにしながらも、ダンさんは頭を下げた。
「……この間は悪かったな。あんたらを見た目だけで判断しちまって」
「いえ、気にしないでください」
新人冒険者だし、そのうち一人は見た目も弱そうなんだ。ちゃんとした仕事ができるのか、疑うのも当然。中には、自分の実力を見誤って依頼を遂行できない冒険者だっているからね。
「これを持っていけ」
ダンさんはずいっと麻袋を差し出す。
「……?」
受け取った袋を開けてみると、中には小ぶりの芋がたくさん入っている。これは少ない収穫の中でやっと蓄えた食糧じゃないだろうか。
受け取っていいものか戸惑っていると、ダンさんがニヤッと笑った。
「……柵ができたからな。これからは猪どもに荒らされることもない」
「それなら、遠慮なく頂いて行きます」
俺とパーシヴァルは、村の人たちと別れてギルドに戻ると、村長さんのサインが入った依頼書を受付嬢に渡す。
「依頼完了しました」
「お疲れ様でした」。こちらが報酬になります」
受付嬢から受け取った報酬は大銀貨一枚。俺たちは柵を全部作り替えちゃったけど、そもそもは柵の修理だ。報酬としてはこんなものだろう。
獣の被害が減れば収入も増えるだろうし、これから少しでも豊かになればいいけどな。
ともあれ、これで俺たちの仕事は完了だ。
大銀貨一枚と芋一袋。
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