いつから魔力がないと錯覚していた!?

犬丸まお

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連載

特別な下拵えの屋台の肉串

「これ、これ! これをクラウィスに食べてもらいたかったんだよ!」
 クラウィスとリベラを引き連れて馴染みの串焼き屋台に行けば、すでに何人もの客が並んでいた。周囲に肉が焼ける香ばしい匂いが漂っていて、早くも俺の腹の虫は騒ぎ出している。
 この店の串焼きは本当に美味しくて、是非ともクラウィスたちに食べてもらいたかったんだ。いわゆる庶民の味ってやつだけど、飾らない旨さがある。
「ここがサフィラスおすすめの店か」
「楽しみですね」
 クラウィスとリベラは他の客と同じように、串焼きを買う列に並ぶ。貴族のお忍びかな、くらいには思うかも知れないけど、まさか、獣人国の王太子と側近が屋台の串焼きを買うために並んでいるとは誰も思わないだろう。
 クラウィスたちと一緒に王都巡りをしたいと思いながら、なかなかその機会はなかったんだけど、今日ようやくその念願が叶った。彼らとは一学年の時からの付き合いなのに、こうして一緒に遊びに出る機会は全くと言って良いほどなかったからな。
 今日は思い切り食べて遊ぶつもり。まぁ、俺はいつだって思い切り食べて遊んではいたが……
 リベラがすぐそばにいるし、俺とパーシヴァルもいる。それに、離れたところでは護衛の騎士もいるから万が一なんてことは間違ってもない。だから、今日は心置きなく街歩きを楽しんでもらいたいんだ。
 肉が焼けてゆく魅力的な様子を見ながら待っていれば、間も無く俺たちの順番がやってきた。
「お、兄ちゃんたち、またきてくれたのかい?」
「うん、今日は友人も連れてきたんだ」
「そりゃぁ、ありがたいね。ほら、今日も特別にうまい肉が焼けてるよ」
 屋台の店主から肉串を受け取って、クラウィスとリベラに渡す。
「いい匂いだな」
 大きめの肉が四つ、串に刺さっているそれを、クラウィスはじっと見つめている。今すぐにでも、かぶりつきたそうな顔だ。街で買い食いをするのは初めてだって言っていたしな。
「クラウィス様、まずは私が毒味をいたしますのでお待ちください」
 毒味というよりは、品質の確認だ。だって、これだけの人がこの肉串を食べているんだから、毒なんか入っていたら、今頃通りは屍がゴロゴロしている。それよりも気をつけなきゃいけないのは食材の質の方だ。
 屋台の中には、粗悪な食材を使っている店もあるから気をつけないといけない。この辺りで店を出している屋台なら、そんな心配はあまりないけど。
 毒味するリベラの隣で、俺も肉にかぶりつく。もちろん毒味だよ。我慢できなかったからじゃないからな。
 それにしても、相変わらず美味い! 安い肉を使っているはずなのに、すごく柔らかい。きっと、特別な下拵えをしているんだと思う。
 もう一本食べちゃおうかな……
「サフィラス、この後もまだあるのだから、一本にしておいた方がいい」
「うっ……そうだよねぇ」
 肉の誘惑に負けそうになっていれば、パーシヴァルに止められた。今日は色々な美味しいものをクラウィスたちにご馳走しようって計画なんだ。ここで満腹になるわけにはいかないよね。
「これはなかなか……」
 肉を口にしたリベラが目を輝かせ、その隣でクラウィスがソワソワとしながら待っている。
「……リベラ、もう食べてもいいだろうか?」
 肉串を握って落ち着かなげな王太子……これはなかなか見られない姿だな。
 普段は、真面目でキリッとしているのに。でも、その気持ちはよくわかるよ。美味いものを目の前にして、冷静でいろなんて無理ってもんだ。
「はい、大丈夫です。問題ないようですので、どうぞ召し上がってください」
「そ、そうか」
 待ってましたとばかりに肉にかぶりついたクラウィスが、驚きの表情を浮かべる。
「……これは、美味しい。肉に塩を振ってただ焼いただけだというのに」
「そりゃぁ、うちの肉は下拵えに手間暇かけているからね。その辺のレストランにだって負けないよ」
 クラウィスの賞賛に、店主が得意げに言う。
「素晴らしいな……」
 満足げに頷いたクラウィスは、あっという間に肉串を平らげてしまった。
「よし! それじゃぁ、次は甘いものを食べに行こう!」
 俺はお気に入りの揚げ菓子を売っている屋台にクラウィスたちを引っ張ってゆく。練った小麦粉を輪っか状にして揚げた菓子に、たっぷりと蜜がかかっているんだけど、ふかふかしていてとっても美味しいんだ。
「サフィラスは魔法と食べ物のことになると生き生きとするな」
 そりゃそうさ。どっちも俺にはなくてはならないものだからね!

 甘いものも腹に収めた俺たちは、食べ物以外の店も冷やかした。
 武器屋や魔法具店。それから、学院のご令嬢たちがよく足を運ぶという雑貨屋。雑貨屋はお茶会仲間のご令嬢から教わった。見ているだけでも楽しい店だって。
 店内に入ると、華やかで、ご令嬢が好みそうなお洒落な小物や筆記具が揃っていた。なるほど、ご令嬢たちはこういう品物が好きなのか。
 リベラは雑貨屋で透かし模様の入った綺麗な便箋と封筒をいくつか買った。
「お土産?」
「ああ、妹にな」
「妹さんと仲がいいんだね」
「ああ、仲は悪くないんだが……気が強くてな。よく喧嘩になる」
 眉間に皺を寄せながらそう言いつつも、リベラは妹を可愛がっているんだろうな。じゃなきゃ、こうしてお土産なんて買わない。
「ワーズティターズの王都もここラエトゥスと同じように賑やかなんだろ?」
「ああ、そうだな。今度は俺たちがワーズティターズの王都を案内しよう。食べ物も美味しいぞ。きっとサフィラスを満足させることができる。ぜひ、我が国にも遊びに来てほしい」
「もちろん行くよ! なっ、パーシヴァル!」
「ああ。今度はゆっくりと王都を見てまわりたいものだな」
 以前ワーズティターズに行った時は、王都を楽しむなんて余裕はなかった。今度はちゃんと、名所を見て美味しいものを食べるんだ! そうそう、召喚獣の銅像巡りも忘れちゃいけない。
「……それにしても、本当に色々とあった学院生活だった。実際に学院で学んだ時間は僅かではあったが……」
 クラウィスがしみじみと呟く。
「うん……そうだね」
 本当にな。
 全くもって波乱の学院生活だった。クラウィスは国そのものが揺らぐ事態に見舞われたし、俺は実家に問題を抱えていて、家を離れてからもそれはそれはもう色々あった。
「だが、ソルモンターナに留学して良かったと心から思っている。サフィラスやパーシヴァルと友人になれたことは、俺にとって何ものにも代え難い財産だ」
「……クラウィス、それは俺たちもだ。だから、これからも末長くよろしく頼むよ」
「ああ! もちろんだとも」
「もしこれから先、何か困ったことがあったら遠慮しないで言ってくれよな。どこにいたってすぐに駆けつけるから」
 俺たちの立場の違いは大きいけれど、友人であることに変わりはない。友が困っていたら、俺はどこにいたってすぐに駆けつける。パーシヴァルもきっと同じ思いでいる。そう思ってパーシヴァルに視線を向ければ、真剣な顔で頷いてくれた。
「ありがとう。二人も、何か困ったことがあったらいつでもワーズティターズを頼ってほしい」
 上っ面だけではなく、クラウィスは心からそう言ってくれている。それは実に心強い。とはいえ、クラウィス王太子を頼るような事態ってことは、それはもう重大案件だ。そんなことにだけはならないよう、女神に祈っておく。
 クラウィスたちに会いにゆくのは、楽しい予定の時だけであってほしいからな。
「きっと、二人はすぐに名うての冒険者パーティになるだろうな……ところで、パーティ名は決まったのか?」
 興味津々とばかりに、リベラが目を輝かす。
「うん、自由の風だよ。パーシヴァルが考えてくれたんだ」
「自由の風か……それは良い名だな。とても二人らしい」
 俺もそう思う。パーシヴァルは良い名前を俺たちのパーティにつけてくれた。風見鶏がそうだったように、大陸のどこに行ってもこの名前が通用する冒険者パーティを目指したい。
 目標は大きく持たなきゃね!
感想 933

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みんなの感想(933件)

ヨウ
2026.04.21 ヨウ

パーシヴァルどんな顔して怒られてるんだろう笑
一緒に夢中になっちゃったのか、一緒に怒られるの覚悟してサフィの好きにさせたのか。冒険楽しみと言ったパーシヴァルならどっちもありかなと思いました。

冒険編楽しみです!近況で冒険編あるって明言されててとっても嬉しいです。
学園卒業で終わりじゃないよね?!と震えていたので笑

解除
m‥·*"
2026.04.14 m‥·*"

 チラ見されてるサフィラスさんを隠すパーシヴァルさん。萌…
 作者様、ご更新誠にありがとうございます!

 「自由の風」にホッ… 「風見鶏」だと、首相経験のある政治家(故人)のあだ名と同じ(世代バレ笑)。その名を耳にする度にバーコードを思い浮かべてしまう脳みそゆえに有り難や〜

>お尻が贅沢
 爆っ! 有り難い腹筋運動♬

解除
tente
2026.04.08 tente

エディタがひたすら逆恨みで逃げてしまっていて卑怯なままで残念。多少は考える頭がある方がすっきりしますが、このお話は父はじめ基本敵対側が現実を見る展開はないなと気付きました。

解除

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