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Epilogue
一仕事終えて
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純潔のヴァンパイアとの死闘を終えたクーゲルとロウ。
ロウは怪我をしたクーゲルを、自分の隠れ家の一つへ案内した。
「クーゲルになら知られても構わない僕の隠れ家へようこそ」
「別に興味もないし、誰にも言う気はない」
クーゲルはロウに気だるい視線だけを投げたが、権能の使い過ぎの反動で視界はぼやけたままだ。
薄暗い部屋には最低限の家具だけが置かれており、ロウはクーゲルを木の丸椅子へ座らせた。
更にボロになったトレンチコートを脱がし、着こんでいた防弾チョッキも脱がそうとする。
「……っ」
クーゲルは眉間に皺を寄せる。
ヴァンパイアにやられた傷は大したことはなかったのだが、服と傷口が引っ付いてしまっていたらしい。
ロウはクーゲルの身体の僅かな震えに気づいたのか、ごめんと謝りながら丁寧に服を脱がせた。
「僕のために名誉の負傷をしてくれたし、手当てさせて」
「別にいらない。と言いたいところだが、少し疲れた」
「今回の傷はこれ? って……傷多いな。いつも手当てしてないのか?」
クーゲルは目と共に身体を休ませるように目を閉じた。
静寂に包まれた部屋で、ロウが静かにクーゲルの傷を消毒しながら手当てをしているらしい。
わずかな消毒液の香りはあまり良いものでもなかったが、暗がりと静けさはクーゲルの心を落ち着かせた。
手当てに身を委ねているうちに、クーゲルに眠気が襲い掛かってくる。
普段なら人前で寝るなどありえないことなのだが――
「よし、包帯を巻くほどじゃないから軽くガーゼでも貼って……って。え、おっさん?」
「……」
クーゲルは座ったまま、疲労感に逆らわず眠りに落ちた。
+++
どれくらい時間が経過したのか、薄暗い部屋ではよく分からない。
少しずつ意識が覚醒してくると、クーゲルは自身の身体がソファーに横たわっていることに気づく。
身体には毛布がかかっており、本当に手当てされながら寝落ちてしまったのだと理解する。
少し身体を起こし、室内を見回す。
視界は元通り良好に戻っており、疲労も大分緩和していた。
(警戒もせずに眠るとは……)
もう過ぎたことだが、クーゲルは自嘲の笑みを浮かべた。
背中のひりついた痛みも引いていて、ロウは適切な手当てを施したことが分かる。
ロウに礼の一つでも言おうかと、クーゲルはソファーから立ち上がる。
見える範囲にはロウの姿は見当たらないが、突き辺りの扉の隙間から淡い光が漏れていた。
静かに扉へ近づくとのと同時に、扉がゆっくりと開かれた。
「おはよう? 血も涙もないと言われるバウンティーハンターのクーゲルが可愛い寝顔を晒してくれるなんて。役得だね」
「お前は視力に重大なダメージを負ったらしいな。礼の一つでも言おうかと思ったが……必要ないらしい」
「え……お礼まで? それを言うなら僕もだ。ヴァンパイアが残した宝石だけれど、少し役立つことが分かった。クーゲルと手を組んだおかげだ」
ロウは優しく微笑みかけながらクーゲルの両肩に手を置くと背伸びをし、クーゲルの耳元でありがとうと囁いた。
クーゲルは反応を示さず、視線だけロウへ動かす。
「金の配分のことだが、経費とは別計算だ。手当てもお前が勝手にしたことだから、配分には含めない」
「はいはい。本当に色気も何もないな。まあ、それくらいの方が後のお楽しみがあっていいか……。構わないよ、むしろこちらは光明が見えた。宝石を先にいただいてしまったし、僕はあれだけで構わない」
「分かった。金は総取りさせてもらう」
「ああ。ついでに装備代と洋服代を僕から追加で足しておく。で、言われた治療費も無料。これでいい?」
クーゲルが了承の意で頷き返すと、ロウも交渉成立と言って微笑する。
「ソファーの寝心地はいかがだったでしょうか?」
「悪くはなかった。視力も回復したし、ある程度休息できた」
「それは何より。折角お招きしたわけだし、お茶でもいかがですか?」
片目を瞑り優雅に誘ってくるロウに対して、クーゲルは変わらない仏頂面で呟く。
「コーヒー。ブラックで」
「了解」
どこか楽し気なロウの背中を視線で追うと、クーゲルはソファーへ戻りゆったりと腰かける。
しばらく待って運ばれてきたコーヒーの深い香りがクーゲルの心に少量の安らぎをもたらしたことを、ロウが気づけたかどうかは――彼の表情を見れば分かることなのだろう。
ロウは怪我をしたクーゲルを、自分の隠れ家の一つへ案内した。
「クーゲルになら知られても構わない僕の隠れ家へようこそ」
「別に興味もないし、誰にも言う気はない」
クーゲルはロウに気だるい視線だけを投げたが、権能の使い過ぎの反動で視界はぼやけたままだ。
薄暗い部屋には最低限の家具だけが置かれており、ロウはクーゲルを木の丸椅子へ座らせた。
更にボロになったトレンチコートを脱がし、着こんでいた防弾チョッキも脱がそうとする。
「……っ」
クーゲルは眉間に皺を寄せる。
ヴァンパイアにやられた傷は大したことはなかったのだが、服と傷口が引っ付いてしまっていたらしい。
ロウはクーゲルの身体の僅かな震えに気づいたのか、ごめんと謝りながら丁寧に服を脱がせた。
「僕のために名誉の負傷をしてくれたし、手当てさせて」
「別にいらない。と言いたいところだが、少し疲れた」
「今回の傷はこれ? って……傷多いな。いつも手当てしてないのか?」
クーゲルは目と共に身体を休ませるように目を閉じた。
静寂に包まれた部屋で、ロウが静かにクーゲルの傷を消毒しながら手当てをしているらしい。
わずかな消毒液の香りはあまり良いものでもなかったが、暗がりと静けさはクーゲルの心を落ち着かせた。
手当てに身を委ねているうちに、クーゲルに眠気が襲い掛かってくる。
普段なら人前で寝るなどありえないことなのだが――
「よし、包帯を巻くほどじゃないから軽くガーゼでも貼って……って。え、おっさん?」
「……」
クーゲルは座ったまま、疲労感に逆らわず眠りに落ちた。
+++
どれくらい時間が経過したのか、薄暗い部屋ではよく分からない。
少しずつ意識が覚醒してくると、クーゲルは自身の身体がソファーに横たわっていることに気づく。
身体には毛布がかかっており、本当に手当てされながら寝落ちてしまったのだと理解する。
少し身体を起こし、室内を見回す。
視界は元通り良好に戻っており、疲労も大分緩和していた。
(警戒もせずに眠るとは……)
もう過ぎたことだが、クーゲルは自嘲の笑みを浮かべた。
背中のひりついた痛みも引いていて、ロウは適切な手当てを施したことが分かる。
ロウに礼の一つでも言おうかと、クーゲルはソファーから立ち上がる。
見える範囲にはロウの姿は見当たらないが、突き辺りの扉の隙間から淡い光が漏れていた。
静かに扉へ近づくとのと同時に、扉がゆっくりと開かれた。
「おはよう? 血も涙もないと言われるバウンティーハンターのクーゲルが可愛い寝顔を晒してくれるなんて。役得だね」
「お前は視力に重大なダメージを負ったらしいな。礼の一つでも言おうかと思ったが……必要ないらしい」
「え……お礼まで? それを言うなら僕もだ。ヴァンパイアが残した宝石だけれど、少し役立つことが分かった。クーゲルと手を組んだおかげだ」
ロウは優しく微笑みかけながらクーゲルの両肩に手を置くと背伸びをし、クーゲルの耳元でありがとうと囁いた。
クーゲルは反応を示さず、視線だけロウへ動かす。
「金の配分のことだが、経費とは別計算だ。手当てもお前が勝手にしたことだから、配分には含めない」
「はいはい。本当に色気も何もないな。まあ、それくらいの方が後のお楽しみがあっていいか……。構わないよ、むしろこちらは光明が見えた。宝石を先にいただいてしまったし、僕はあれだけで構わない」
「分かった。金は総取りさせてもらう」
「ああ。ついでに装備代と洋服代を僕から追加で足しておく。で、言われた治療費も無料。これでいい?」
クーゲルが了承の意で頷き返すと、ロウも交渉成立と言って微笑する。
「ソファーの寝心地はいかがだったでしょうか?」
「悪くはなかった。視力も回復したし、ある程度休息できた」
「それは何より。折角お招きしたわけだし、お茶でもいかがですか?」
片目を瞑り優雅に誘ってくるロウに対して、クーゲルは変わらない仏頂面で呟く。
「コーヒー。ブラックで」
「了解」
どこか楽し気なロウの背中を視線で追うと、クーゲルはソファーへ戻りゆったりと腰かける。
しばらく待って運ばれてきたコーヒーの深い香りがクーゲルの心に少量の安らぎをもたらしたことを、ロウが気づけたかどうかは――彼の表情を見れば分かることなのだろう。
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