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第五章 レトロ喫茶の運命は如何に

44.紳士待ちでそわそわ

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 とっきーとげんちゃんとの話し合いで謎の紳士待ちをすることになったんだけど、しばらく姿を見かけなかった。
 特定のお客さんを待つなんて不思議な感じだけど、どうしても気になるんだよな。
 今日も朝からカウンターの中で少しそわそわしながら、コーヒーを準備する。

蒼樹あおい、例のお客様は来たか?」
「来てないよ。あれ、とっきー顔見てなかったっけ?」
「見てない。接客したのはふーみんだろ? 俺はあの時、女の子たちの相手してたし」
「言い方がなんかチャラいなあ……。分かった。紳士が来店したら教えるよ」

 小声で会話を交わしてから、また準備に戻る。
 今日は客の入りが少ないし、今はカウンター前の席にも誰も座っていない。
 テーブル席にちらほらいるくらいだから、のんびりとしたスタートだ。
 淹れ終わったコーヒーをとっきーに運んでもらいながら、次の紅茶に取り掛かる。
 
「天気もイマイチだし、今日は客足も伸びないかな」

 雨が降ったりやんだりしている変な天気で雨宿りするほどの雨じゃないから、客足はどちらかというと伸びないんだよな。
 気を取り直して作業に戻ると、来店を知らせるベルの音がカランカランと鳴り響いた。

「いらっしゃいませ」

 とっきーが気づいて入口へ向かう。
 俺も視線で追うと、スーツ姿の男性の姿が見えた。
 おひとり様みたいだしもしかしてと思っていると、とっきーがお客様をカウンターに案内してくれた。

「いらっしゃいませ」
「永瀬君、こんにちは。まずはコーヒーをいただけるかな」

 噂の紳士が来てくれたので、自然とテンションがあがってしまう。
 案内してくれたとっきーに目線で合図すると、小さく頷いたあとこっそりとウィンクしてきた。
 雰囲気で察してはいたんだろうけど、俺の合図で噂の紳士だと確信したみたいだ。
 
「北條様、お待ちしておりました。どちらのコーヒーをお淹れしましょうか」
「そうだな……このあおをもらおう」
「かしこまりました」

 今日は俺の名前から名付けられたオリジナルコーヒーを注文してくれた。
 俺が作業している間も、やっぱりじっと見られている気がする。
 目の前で作業しているから、やっぱり物珍しいのかな?

「やはりいい香りだな」
「コーヒーの香りはお好きですか?」
「そうだな。落ち着く香りだ」

 香りを嗜む仕草も洗練されているから、お客様だというのに見つめてしまう。
 あんまりぶしつけに見るのは良くないことだけど、正体も気になってるせいもあって少しでもヒントが欲しいんだよね。

「そんなに見られると気恥ずかしいな」
「す、すみません。お客様の洗練された雰囲気についみとれてしまって」

 素直に気持ちを言うと、目の前の紳士はふわりと優しく笑ってくれた。
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