彼の素顔は誰も知らない

楓乃めーぷる

文字の大きさ
15 / 94
第三章 ギルド長からのご指名

15.戦闘終了

しおりを挟む
 ふわ、と身体が空で翻り、一瞬、時が止まったような錯覚に陥る。
 戦いの最中だと言うのに、僕は何だか見惚れてしまった――

「何、アレ……」

 リューは同じ人間とは思えない動きで空中で銃を抜き、狙いを定める。

 魔物からすれば喰われにきたのかとでも思ったのか、花びらを広げてリューという獲物を迎え入れようとする。
 リューは落下しながら身体を捻り、牽制のように花弁に何発も銃弾の雨を降らせていく。

「ギィィィィギャァァァァァーーーーーアァァァァアーーーーッッッ!!!!」

 何とも言えない声に僕は頭痛がしてくるが、リューは顔色一つ変えずに身体ごと突っ込んで持っていたナイフを勢いよく中心部に突き立てる。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーー――――」

 断末魔なのか最後まで耳障りな声を残し、魔物は動かなくなった。
 花びらに着地していたリューもナイフを引き抜くと、崩れ落ちる花と共に地面へと降り立つ。

「おかえり」
「あぁ」

 何事もなかったようにこちらへ帰ってくるリューを、片手を上げて待ってみる。
 チラと僕を見てから溜め息をつき、面倒だと言わんばかりの顔で僕の片手を軽く叩いてくれた。

「僕は何もしてないけど、討伐完了ってところかな」
「寄生型だから、後始末はしないといけないが。俺たちの仕事はここまでだ」
「そうだね。近くで見れば見るほど、悪趣味な花だ。気持ち悪い」

 僕は地面へと落ちた花へと近づいてヒョイと覗き込む。
 花弁はリューによって引き裂かれてはいるが、流れ落ちている液体が何だか妙な香りがして……

「……っ、アルヴァーノ!」

 リューの焦ったような声が聞こえたのと同時に、グイっと思い切り腕を引っ張られた。
 勢いで尻餅をついてしまうが、気が付いた時にはリューが僕の目の前に立っていた。
 ゴバァッ! という音と共に花弁から液体が吹き出して、僕を庇ったリューに液体が吹きかけられてしまう。

 ビクンと動いた花弁はそれきりで、今度こそ動かなくなった。

「え……え? リュー? ちょっと、リュー!!」

 頭からベタベタになっているリューに不安になり、慌てて駆け寄ろうとする。

「来るな!!」

 鋭い声に制されて、踏み出した足で数歩たたらを踏む。

「大丈夫、だ……洗い流してくるから、お前は先にもどれ」
「大丈夫って、ねぇ、溶けたりして、ないよね……?」
「……溶けてない」

 確か、この近くに川があったはずだ。
 リューもそれを覚えていたのか、フラフラと身体を揺らしながらゆっくりと川の方へ歩いていく。
 僕は差し出した手を握り込み、その背を見送ることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...