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第一章 サモナード領セレニクリス
1.懐かしい物語
母さんが教えてくれた絵本の物語が大好きだった。
俺が駄々をこねると、母さんはいつも俺に寄り添ってくれて眠るまで絵本を読んでくれた。
その物語の一節は、今も語り継がれている。
昔々、世界を救ったという賢人がいた。
赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ。
三種の力と共に世界を護る守護者。伝説の召喚士。
子どものころは、伝説の召喚士になれたらいいのにと思っていた。
召喚士の血を引く一族の中から、長い間召喚士の力を持つ者は生まれていない。
魔法や剣術に秀でている者たちが多いのにもかかわらず、四領のどこからも召喚士の話は出てこない。
伝説の召喚士と呼ばれる人物も今は物語のような言い伝えしか残っておらず、詳しい記録が一つも残っていないらしい。
「ん……もう朝か」
窓から差し込む柔らかな朝日で目が覚める。どうやら昔の夢を見ていたみたいだ。
母さんは俺が子どものころに亡くなってしまったから、もう顔もおぼろげにしか思い出せない。
俺が何度か瞬きをしていると、カーテンを開けている人物が顔だけこちらに向けてきた。
黒髪は真ん中できっちりと分けられており、緩く外に流している端正な顔立ちの背の高い男性。
執事服をまとった俺の従者だ。
「リサイル様、もうお目覚めですか?」
「ん……うん。おはよう」
「おはようございます。朝食の時間まで少々お時間がございますが」
淡々と話す声はいつも通り正確なことだけ告げてくる。
彼は俺より四歳年上で、子どものころに森の中で迷子になっていたところを助けてくれた恩人でもある。
「エディはいつも時間に正確だし時計いらずだな。少々と言うと……読みかけの本を読むくらいの時間はありそうか」
「読書も結構ですが、まずは身支度を」
エディが声を上げて笑うところは、一度も見たことがない。
俺は長く一緒にいるから、視線の動きやわずかな顔の筋肉の動きで、不機嫌なのか上機嫌なのかくらいは分かる。
エディの顔は男の俺から見ても整っていて、従者でいるのはもったいないと思う。
屋敷に来る客人も、大抵エディの見目と佇まいに目を留める気がする。
ただ、人を寄せ付けない雰囲気だからエディのことが気に入ったとしてもなかなか近づけないのかもしれない。
俺がじっと見ていることに気づいたのか、エディは切れ長の赤紫の瞳で逆に俺を見返してくる。
「私に何か?」
「いや、なんでもないよ。今、起きる」
俺は顔を洗い、服を着替えてから鏡台の前に座って身支度を整えていく。
首筋くらいまで伸びてしまった銀の髪は、いつもエディが濃紺の細い飾り紐で束ねてくれる。
だけど母さん似の瑠璃色の垂れ目は、いつもやる気の感じられない腹立たしい目だと言われていた。
俺にとって母さんの瞳は優しくて大好きな瞳だ。
だから、文句を言われる度にチクリと心が痛んでいたけれど……もう慣れてしまった。
朝食までの時間を潰すために読書をすることにした。
今朝見た夢を思い出してしまったせいか、続きを読むはずだった本ではなく古ぼけた一冊の絵本を取り出す。
「懐かしいな……この絵本」
最近は開くこともなかったが、改めて見ると懐かしい。
挿し絵が多い本の中に、夢の中で思い出していた伝説の召喚士の言い伝えが書いてある。
三種の力とはおそらく召喚した召喚獣なのだろうと推測されており、この世界でも絶対強者だと呼ばれるドラゴン族のことだろうと言われていた。
俺の生まれ育った故郷は、召喚士の血を引く兄弟たちが築いた四領のうちの一つだ。
サモナード領都セレニクリス。別名水晶の都と呼ばれている美しい土地。
サモナード領の中心都市を治める一族の長男として生まれたのが、この俺――リサイル・サモナードだ。
俺はエディとは違う男らしくない見た目で、自分を見ていると少し情けなくなる。
しばらく懐かしさに浸りながら読書していたが、隣にエディが立っている気配を感じた。
「リサイル様、絵本をお読みになっているのは構いませんがそろそろ朝食の時間です」
「分かった。行こうか」
絵本を閉じてから立ち上がり、絵本を本棚へ戻す。
先に扉を開いて俺を促してくれた従者のエディと共に自室を出た。
それなりに広い屋敷だが、住んでいるのは家族と使用人のみだ。
そのため、廊下は静まり返っている。
俺の家族は、父のドレバンと後妻である義母のビジュナ、そして義母の息子である義弟のオニキルの四人家族だ。
ただ、俺には問題があって……そのせいで家族とはうまくいっていない。
俺が駄々をこねると、母さんはいつも俺に寄り添ってくれて眠るまで絵本を読んでくれた。
その物語の一節は、今も語り継がれている。
昔々、世界を救ったという賢人がいた。
赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ。
三種の力と共に世界を護る守護者。伝説の召喚士。
子どものころは、伝説の召喚士になれたらいいのにと思っていた。
召喚士の血を引く一族の中から、長い間召喚士の力を持つ者は生まれていない。
魔法や剣術に秀でている者たちが多いのにもかかわらず、四領のどこからも召喚士の話は出てこない。
伝説の召喚士と呼ばれる人物も今は物語のような言い伝えしか残っておらず、詳しい記録が一つも残っていないらしい。
「ん……もう朝か」
窓から差し込む柔らかな朝日で目が覚める。どうやら昔の夢を見ていたみたいだ。
母さんは俺が子どものころに亡くなってしまったから、もう顔もおぼろげにしか思い出せない。
俺が何度か瞬きをしていると、カーテンを開けている人物が顔だけこちらに向けてきた。
黒髪は真ん中できっちりと分けられており、緩く外に流している端正な顔立ちの背の高い男性。
執事服をまとった俺の従者だ。
「リサイル様、もうお目覚めですか?」
「ん……うん。おはよう」
「おはようございます。朝食の時間まで少々お時間がございますが」
淡々と話す声はいつも通り正確なことだけ告げてくる。
彼は俺より四歳年上で、子どものころに森の中で迷子になっていたところを助けてくれた恩人でもある。
「エディはいつも時間に正確だし時計いらずだな。少々と言うと……読みかけの本を読むくらいの時間はありそうか」
「読書も結構ですが、まずは身支度を」
エディが声を上げて笑うところは、一度も見たことがない。
俺は長く一緒にいるから、視線の動きやわずかな顔の筋肉の動きで、不機嫌なのか上機嫌なのかくらいは分かる。
エディの顔は男の俺から見ても整っていて、従者でいるのはもったいないと思う。
屋敷に来る客人も、大抵エディの見目と佇まいに目を留める気がする。
ただ、人を寄せ付けない雰囲気だからエディのことが気に入ったとしてもなかなか近づけないのかもしれない。
俺がじっと見ていることに気づいたのか、エディは切れ長の赤紫の瞳で逆に俺を見返してくる。
「私に何か?」
「いや、なんでもないよ。今、起きる」
俺は顔を洗い、服を着替えてから鏡台の前に座って身支度を整えていく。
首筋くらいまで伸びてしまった銀の髪は、いつもエディが濃紺の細い飾り紐で束ねてくれる。
だけど母さん似の瑠璃色の垂れ目は、いつもやる気の感じられない腹立たしい目だと言われていた。
俺にとって母さんの瞳は優しくて大好きな瞳だ。
だから、文句を言われる度にチクリと心が痛んでいたけれど……もう慣れてしまった。
朝食までの時間を潰すために読書をすることにした。
今朝見た夢を思い出してしまったせいか、続きを読むはずだった本ではなく古ぼけた一冊の絵本を取り出す。
「懐かしいな……この絵本」
最近は開くこともなかったが、改めて見ると懐かしい。
挿し絵が多い本の中に、夢の中で思い出していた伝説の召喚士の言い伝えが書いてある。
三種の力とはおそらく召喚した召喚獣なのだろうと推測されており、この世界でも絶対強者だと呼ばれるドラゴン族のことだろうと言われていた。
俺の生まれ育った故郷は、召喚士の血を引く兄弟たちが築いた四領のうちの一つだ。
サモナード領都セレニクリス。別名水晶の都と呼ばれている美しい土地。
サモナード領の中心都市を治める一族の長男として生まれたのが、この俺――リサイル・サモナードだ。
俺はエディとは違う男らしくない見た目で、自分を見ていると少し情けなくなる。
しばらく懐かしさに浸りながら読書していたが、隣にエディが立っている気配を感じた。
「リサイル様、絵本をお読みになっているのは構いませんがそろそろ朝食の時間です」
「分かった。行こうか」
絵本を閉じてから立ち上がり、絵本を本棚へ戻す。
先に扉を開いて俺を促してくれた従者のエディと共に自室を出た。
それなりに広い屋敷だが、住んでいるのは家族と使用人のみだ。
そのため、廊下は静まり返っている。
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ただ、俺には問題があって……そのせいで家族とはうまくいっていない。
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