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第一章 サモナード領セレニクリス
4.成人の儀の朝
俺は緊張しながら、成人の儀の日を迎えた。
あがいても仕方がない。どうせ結果は分かりきっている。
だったら……サモナード家のためになるように影から家を支えるだけだ。
そう決めているのに、儀式用の白地に金の刺繍が施されたローブを羽織っている間も不安に襲われる。
「リサイル様、緊張されているのですか?」
「結果は決まっているのに……情けないよな。今も手が震えているし」
乾いた笑いでごまかすのが精一杯だ。
俺については事実も憶測も含め色々な噂が囁かれ、セレニクリスの中でも無能な長男という話にまとまり広まっている。
今までは噂だけだったのに、それが真実だったのだと突き付けられてしまう。
情けないけれど……真実が明るみになるのが、怖くてたまらない。
今も恐怖感で押しつぶされそうだ。
「失礼します」
エディは俺に断ってから俺の手を取り、両手で優しく包み込んでくれる。
白い手袋越しでも、エディの体温が俺の心をじんわりと温めていく。
まるで、俺の心まで守ってくれているようだ。
エディはそばにいなくても、いつも俺の心の内側まで支えてくれている。
そんなエディの強さが俺の弱い心を守ってくれているから、俺も恐怖へ立ち向かう勇気が湧いてくる。
「エディ……」
「大丈夫です。あなたのことは私が一番よく知っています」
「怒らないんだ? でも……ありがとう。エディがいてくれたから、今まで生きてこられたんだ。だから……行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
エディはそっと手を離すと、丁寧なお辞儀で俺を送り出してくれた。
成人の儀の時は、エディは俺の隣にいない。
成人の儀は民たちの前で開かれる儀式で、昔から街の中心の広場の祭壇で行われる。
家族は神託官の近くの特別席で、儀式の様子を見守る。
使用人は民たちの間で見守ること自体は許されているので、エディも見守ってくれるはずだ。
+++
「ふぅん。リーサにはもったいない衣装だけど……儀式だから仕方ないか」
「心配しなくても、あなたの方がよく似合っていてよ?」
オニキルと義母さんは、儀式の場へ向かう馬車の中でも俺のことをじろじろと眺めながら悪態をついてくる。
オニキルの衣装は金地に白の刺繍が施されているローブで、特別に仕立てられたものらしい。
まるでどこかの国の王族のような、派手な雰囲気だ。
普段なら俺をかばってくれるエディも、馬車へ一緒に乗ることは許されない。
儀式の時は家族のみと決まっているので、エディは別の形で儀式の場に来るはずだ。
「リサイル、オニキル。今日の日を迎えられることを嬉しく思う。二人のこれからの道がどうなるのか、私も楽しみだ」
「あら、楽しみなのはオニキルだけではなくて? リーサは……どうなるか分かりませんわよ?」
俺を見る義母さんの瞳が、怪しく不穏な色を見せる。
いつもの蔑んだ視線とは違う何かがあるような、嫌な感じだ。
義母さんが俺に嫌がらせをするときはいつも楽しそうに見えるけど、今日は勝ち誇ったような顔をしている。
どうせ、俺の無能が街中にさらされることが嬉しいとかそんな感じだろうけど……心がざわつく。
「ビジュナ。オニキルにも期待しているが、リサイルもどんな生き方が向いているのか明らかになればいいと思っている。今はこれ以上何も言うな」
「仕方ありません。では、結果を楽しみにしていますわ」
義母さんは扇子を広げると、俺に笑いかけた。
美しい微笑みなのかもしれないけど、昔から義母さんの笑顔にはどうしても苦手意識があって素敵だと思えなかった。
次にどんな酷いことを口に出し、俺の心を沈ませてくるのかと自然と身構えてしまう。
義母さんと目が合うたびに、俺の心の中に不安が広がっていく。
しっかりしなくちゃいけないのに、また手が震えそうになる。
情けない。これじゃあ、俺を送り出してくれたエディを落胆させてしまう。
「エディ……」
俺は小さな声で名前を呼び、目を閉じて俺の味方でいてくれるエディのことだけを考えた。
彼の顔を思い出すと、自然と心が落ち着いていく。
いつも俺だけを見て、的確な言葉をくれる優秀すぎる従者。
エディは俺にとって従者以上の大切な存在だ。心からエディのことを信頼している。
「リサイルは瞑想しているのか。感心だな。このまま立派に成人の儀を迎えられそうだ」
「なっ……父様、僕だってそれくらい!」
オニキルは俺が褒められたことが気に食わないらしく、俺の真似をするように目を閉じて大人しくなる。
父さんが俺の行動を勘違いしてくれたおかげで、馬車の中が静かになった。
会場に向かうまでは、このまま集中しているふりをすればよさそうだ。
あがいても仕方がない。どうせ結果は分かりきっている。
だったら……サモナード家のためになるように影から家を支えるだけだ。
そう決めているのに、儀式用の白地に金の刺繍が施されたローブを羽織っている間も不安に襲われる。
「リサイル様、緊張されているのですか?」
「結果は決まっているのに……情けないよな。今も手が震えているし」
乾いた笑いでごまかすのが精一杯だ。
俺については事実も憶測も含め色々な噂が囁かれ、セレニクリスの中でも無能な長男という話にまとまり広まっている。
今までは噂だけだったのに、それが真実だったのだと突き付けられてしまう。
情けないけれど……真実が明るみになるのが、怖くてたまらない。
今も恐怖感で押しつぶされそうだ。
「失礼します」
エディは俺に断ってから俺の手を取り、両手で優しく包み込んでくれる。
白い手袋越しでも、エディの体温が俺の心をじんわりと温めていく。
まるで、俺の心まで守ってくれているようだ。
エディはそばにいなくても、いつも俺の心の内側まで支えてくれている。
そんなエディの強さが俺の弱い心を守ってくれているから、俺も恐怖へ立ち向かう勇気が湧いてくる。
「エディ……」
「大丈夫です。あなたのことは私が一番よく知っています」
「怒らないんだ? でも……ありがとう。エディがいてくれたから、今まで生きてこられたんだ。だから……行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
エディはそっと手を離すと、丁寧なお辞儀で俺を送り出してくれた。
成人の儀の時は、エディは俺の隣にいない。
成人の儀は民たちの前で開かれる儀式で、昔から街の中心の広場の祭壇で行われる。
家族は神託官の近くの特別席で、儀式の様子を見守る。
使用人は民たちの間で見守ること自体は許されているので、エディも見守ってくれるはずだ。
+++
「ふぅん。リーサにはもったいない衣装だけど……儀式だから仕方ないか」
「心配しなくても、あなたの方がよく似合っていてよ?」
オニキルと義母さんは、儀式の場へ向かう馬車の中でも俺のことをじろじろと眺めながら悪態をついてくる。
オニキルの衣装は金地に白の刺繍が施されているローブで、特別に仕立てられたものらしい。
まるでどこかの国の王族のような、派手な雰囲気だ。
普段なら俺をかばってくれるエディも、馬車へ一緒に乗ることは許されない。
儀式の時は家族のみと決まっているので、エディは別の形で儀式の場に来るはずだ。
「リサイル、オニキル。今日の日を迎えられることを嬉しく思う。二人のこれからの道がどうなるのか、私も楽しみだ」
「あら、楽しみなのはオニキルだけではなくて? リーサは……どうなるか分かりませんわよ?」
俺を見る義母さんの瞳が、怪しく不穏な色を見せる。
いつもの蔑んだ視線とは違う何かがあるような、嫌な感じだ。
義母さんが俺に嫌がらせをするときはいつも楽しそうに見えるけど、今日は勝ち誇ったような顔をしている。
どうせ、俺の無能が街中にさらされることが嬉しいとかそんな感じだろうけど……心がざわつく。
「ビジュナ。オニキルにも期待しているが、リサイルもどんな生き方が向いているのか明らかになればいいと思っている。今はこれ以上何も言うな」
「仕方ありません。では、結果を楽しみにしていますわ」
義母さんは扇子を広げると、俺に笑いかけた。
美しい微笑みなのかもしれないけど、昔から義母さんの笑顔にはどうしても苦手意識があって素敵だと思えなかった。
次にどんな酷いことを口に出し、俺の心を沈ませてくるのかと自然と身構えてしまう。
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しっかりしなくちゃいけないのに、また手が震えそうになる。
情けない。これじゃあ、俺を送り出してくれたエディを落胆させてしまう。
「エディ……」
俺は小さな声で名前を呼び、目を閉じて俺の味方でいてくれるエディのことだけを考えた。
彼の顔を思い出すと、自然と心が落ち着いていく。
いつも俺だけを見て、的確な言葉をくれる優秀すぎる従者。
エディは俺にとって従者以上の大切な存在だ。心からエディのことを信頼している。
「リサイルは瞑想しているのか。感心だな。このまま立派に成人の儀を迎えられそうだ」
「なっ……父様、僕だってそれくらい!」
オニキルは俺が褒められたことが気に食わないらしく、俺の真似をするように目を閉じて大人しくなる。
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