召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第一章 サモナード領セレニクリス

6.漆黒

 誰にも期待なんてされていない。それでも、青年の儀は召喚士一族の長男として行わなければならない義務だ。
 自分にどんな結果が出ようとも、それを受け入れる覚悟はできている。
 俺は一度深く息を吸い込んでから、祭壇を見据えて一歩ずつ進む。
 神託官の前までたどり着くと、軽く頭を下げた。
 
「リサイル・サモナードよ。此度は成人の儀へよくぞ参った。私が神託を授けよう。この水晶玉に手をかざしなさい」

 神託官はオニキルと同じ台詞を告げてくる。俺は緊張しながらそっと水晶玉の上へ手をかざした。
 すると手に何かまとわりつくような感覚がする。と、同時に何かが手のひらで弾けて棘が刺さるような違和感を感じる。
 俺は危険を感じて、反射的に手を離してしまう。

 すると、俺が手を離したのと同時に水晶玉の中が黒く淀んだもやのようなもので満たされていく。
 これは一体どういうことなのだろう? 黒い色は今まで聞いたことがない。
 まるで闇のような漆黒……?

「なんということだ! まさか……呪われし力を持つ者が現れるとは! 嘆かわしいことだが……災いをもたらすと言われる呪いの力だ。この場で分かって良かったようなものの……これは恐ろしい力だ」
「そんな……何かの間違いじゃないですか? 俺は力がないと言われているだけで呪いなんて……」

 特別席にいた父さんと義母かあさんも驚いた顔で俺を見ている。
 オニキルは俺を外敵だと言わんばかりに激しい憎悪に満ちた顔でにらみつけてきた。

「力がないどころか災いですって? あなた……セレニクリスに呪いを振りまくつもり? なんて汚らわしいの!」
「リーサ! かあ様ととう様に近づくな! どこまで僕たちやサモナードの名前を穢せば気が済むんだ? この魔法剣士オニキルがこの場でお前を討ち滅ぼしてやる!」

 義母さんとオニキルの二人が騒ぎ立てると、父さんが一旦二人を制して俺の方へ近づいてくる。
 そして、水晶玉の様子を確認したあとに神託官を見ながら口を開く。

「この黒いものが災いをもたらす呪いの力だと……それは間違いないのか?」
「サモナード家当主が神託官の判断を誤りだと? 残念だが、間違いない。存在するとは思わなかったが……この色は破滅と災いを呼ぶ漆黒だ」

 神託官は堂々と結果を告げる。この方は高名な神託官らしいし、間違いなんてありえないのは頭では理解できる。
 だけど、俺も心の底では納得していない。
 一瞬だけ感じた違和感。あれは俺が水晶玉に触れた瞬間に感じたはず。だとすれば、水晶玉に細工が……?

 だけど、俺が何かを物申せる雰囲気ではなく、呪いと災いと言う言葉を聞いてしまった周囲がざわめき始める。

「落ちこぼれなだけじゃなくて、災いですって? 私たちを傷つけるつもり?」
「オレらをどうするつもりだ? この魔物め!」
「そうだそうだ! 呪いの子なんて今すぐ追い出してしまえ!」

 一人が言い出すと、不満の声はより周りへ広がっていく。
 誰もが怒りと憎悪を俺へぶつけてきて、止まらない。今、俺ができることは……ただこの場で耐えることくらいだ。

「今のうちに処刑だ!」
「オニキル様! あなたの手で、災いをもたらす者を討伐してください!」

 オニキルもいつの間にか手に取った剣を構え、俺をいつでも倒してやろうという姿を見せている。
 近くの父さんだけは黙って様子を見ているけど、俺は一体どうなってしまうのだろう?
 全ての悪意を一身に受けてしまい、俺は声すら出なくなる。
 申し開きをしたくても、雰囲気に飲まれてしまって口どころか指一本すら動かせない。
 
「静まれ! 民たちよ。この子をどうするかは私が判断する。それまでは手出ししないように」

 父さんは俺をかばうように一歩出て堂々と告げたけど……一度火のついた怒りは静まらない。
 
「そんなこと言って、呪いの子をこの街に置いておくつもりか? ご当主様は街を滅ぼすつもりなのか?」
「そうよ! 今のうちに裁きを受けるべきよ!」
「さっさと出ていけ! この悪魔め!」

 この緊張状態に耐えきれなくなった街の人が、俺へ向かって飲み物が入っていたらしい器を投げつけてきた。
 俺は避けることもできずに当たることを覚悟して両目をつぶる。

「……くだらない」

 低く小さな声だったけど、俺には聞こえた。
 短い一言の中には静かな怒りが込められている。目を開けると、俺の隣にはエディがいた。
 その手には俺に当たるはずだった物が握られていた。
 エディは握ったものを地面へ叩きつけ、器を粉々に砕いてしまった。
 辺りはエディの雰囲気と何も言わせないという恐ろしいほどの威圧感のおかげで、しんと静まり返る。

「エディ……」
「旦那さま、私はリサイル様を連れて屋敷へ戻ります。今、この場に留まることは危険です」
「そうだな。いずれにせよこの場で決めることではない。リサイル、屋敷の自室で待っていなさい。エディ、頼んだぞ」
「かしこまりました」

 エディは静かに失礼しますと告げて俺の手を取り、街の人たちを押しのけていく。
 誰もが何かを言いたいはずなのに、エディの気迫と目力に圧倒されているのか、これ以上俺に物を投げてくる人も罵声を浴びせてくる人もいなかった。
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