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第一章 サモナード領セレニクリス
8.父の決断
どれくらい眠っていたのだろう?
目を開けると室内は薄明りに照らされていて、静寂に満たされている。
顔を横に向けると、エディが俺の気配に気づいたのか同じく顔を向けてきた。
本当に俺のそばにずっといてくれたらしい。俺が眠っている間もただ横に座って見守ってくれていたのだろう。
「エディ……?」
「よくお休みになられていたようで安心しました」
「ああ……そういえばそうか。俺は災いをもたらす存在って言われたのに……眠れるくらいの元気はあるらしい」
俺が笑うと、エディは無言のまま白手袋を外して俺のひたいに手を当てる。
エディの手は少しひんやりとしていて、心地良い。
俺はもう子どもじゃないのに、熱の心配をしてくれたのだろうか?
「どうやら体調を崩されてはいないようですね。旦那様が目覚められたら執務室に来るようにとおっしゃってました」
「分かった。心の準備をしておいたほうがよさそうだ」
眠ったことによって、少しは気持ちを落ち着けることができた。
父さんに何を言われたとしても、覚悟はできている。
正直、やりたいこともできないまま処刑されるなんて嫌だ。
でも、呪いの力で生まれ育った大切な故郷に災いをもたらすよりは――
つい考えこんでしまうと、俺の表情から何かを読み取ったのかエディが口を開いた。
「先に言っておきます。私はあなたのおそばにいると決めています。あなたの命に関わるようなことがあれば、それが例え旦那様であろうとも排除します」
「排除って! エディ、それは……」
抗議しようと、ベッドから勢いよく起き上がる。
けれど、エディは俺に反論を許さないと言わんばかりに俺のことを鋭い視線で射抜いてくる。
絶対的な強さの前に、俺はエディに対して反論の言葉を紡ぎ出すことができない。
「いつかこのようなことが起こると思っていました。あの人たちは旦那様にも反論させない方法でリサイル様を陥れる方法を企んでいたのです。ご自身でも全て納得している訳ではないのでしょう?」
「それは……」
俺は水晶玉にかざした手を見つめる。
一瞬感じた違和感。そして、勝ち誇ったような義母さんの顔。
俺のことを疎ましく思っていたのだから、何か起こっても不思議ではないけれど……エディは確信を持って俺に何かを告げようとしている気がする。
「ですが、今言うことではありませんね。旦那様は執務室に私が共にいることをお許しくださいました。万が一のことを考えてだそうです。リサイル様、参りましょう」
エディに優しく身体を支えられる。俺は頷いてゆっくりとベッドからおりた。
+++
途中で義母さんとオニキルに会うのではと思っていたのに、執務室へ向かう間も屋敷の中はしんと静まり返っていた。
もしかしたら、父さんが強く義母さんとオニキルへ余計なことをするなと言い含めたのかもしれない。
俺が執務室の扉を叩くと、入りなさいという低い声が返ってきた。
「失礼します」
俺とエディでゆっくりと父さんの座る前へ歩み寄る。
父さんは厳しい顔のまま俺たちを見上げた。
「リサイル、身体に変わりはないか?」
「はい。エディのおかげで怪我一つありません」
「そうか」
父さんはそう言ったあと、黙ってしまった。
俺からは何も言うことはないし、ただ父さんの言葉を待つだけだ。
どれくらいの沈黙が続いたかは分からない。
重苦しい空気の中、父さんはとうとう決意したのか息を長く吐き出してもう一度俺を見上げた。
「リサイル。お前も私にとって大切な息子だ。お前にはサモナード家を支えてほしかったが……民たちの不安を煽る存在をこのまま家に置いておくわけにはいかん。お前をサモナード領から追放とする」
父さんは重い口調で、追放だとはっきりと告げた。
追放……その言葉の重みが身体に染みわたっていく。
命をとられるよりはいいけれど、生まれ育った故郷にはもう戻って来られないということだ。
「旦那様、それがあなたの選択なのですね」
「エディ!」
エディは従者という立場をわきまえることもなく、父さんに向かって冷たく言い放つ。
俺は思わずエディを止めてしまったけれど、父さんは手を前に出して緩く首を振った。
「いや……いい。サモナード家の者として、お前のことを最後まで見てやれないのは申し訳なく思う。だが、民たちも大切な存在。不安の芽は潰さなくてはならないのも当主の務めだ」
「分かっています、父さん。夜のうちにセレニクリスを出ます。今までお世話になりました」
俺はこれまで育ててもらった恩を込めて頭を下げる。
父さんは苦々しい表情のまま、布袋に入ったお金と簡易的な旅の装備を机の上へ置く。
エディも無言で、それらを回収していく。
「私はリサイル様について行きます」
「お前はそう言うと思っていたよ。リサイルのことを……頼んだぞ」
父さんが用意してくれていた旅支度は、二人分用意されていた。
エディは俺についていくという確信があったのだろう。
目を開けると室内は薄明りに照らされていて、静寂に満たされている。
顔を横に向けると、エディが俺の気配に気づいたのか同じく顔を向けてきた。
本当に俺のそばにずっといてくれたらしい。俺が眠っている間もただ横に座って見守ってくれていたのだろう。
「エディ……?」
「よくお休みになられていたようで安心しました」
「ああ……そういえばそうか。俺は災いをもたらす存在って言われたのに……眠れるくらいの元気はあるらしい」
俺が笑うと、エディは無言のまま白手袋を外して俺のひたいに手を当てる。
エディの手は少しひんやりとしていて、心地良い。
俺はもう子どもじゃないのに、熱の心配をしてくれたのだろうか?
「どうやら体調を崩されてはいないようですね。旦那様が目覚められたら執務室に来るようにとおっしゃってました」
「分かった。心の準備をしておいたほうがよさそうだ」
眠ったことによって、少しは気持ちを落ち着けることができた。
父さんに何を言われたとしても、覚悟はできている。
正直、やりたいこともできないまま処刑されるなんて嫌だ。
でも、呪いの力で生まれ育った大切な故郷に災いをもたらすよりは――
つい考えこんでしまうと、俺の表情から何かを読み取ったのかエディが口を開いた。
「先に言っておきます。私はあなたのおそばにいると決めています。あなたの命に関わるようなことがあれば、それが例え旦那様であろうとも排除します」
「排除って! エディ、それは……」
抗議しようと、ベッドから勢いよく起き上がる。
けれど、エディは俺に反論を許さないと言わんばかりに俺のことを鋭い視線で射抜いてくる。
絶対的な強さの前に、俺はエディに対して反論の言葉を紡ぎ出すことができない。
「いつかこのようなことが起こると思っていました。あの人たちは旦那様にも反論させない方法でリサイル様を陥れる方法を企んでいたのです。ご自身でも全て納得している訳ではないのでしょう?」
「それは……」
俺は水晶玉にかざした手を見つめる。
一瞬感じた違和感。そして、勝ち誇ったような義母さんの顔。
俺のことを疎ましく思っていたのだから、何か起こっても不思議ではないけれど……エディは確信を持って俺に何かを告げようとしている気がする。
「ですが、今言うことではありませんね。旦那様は執務室に私が共にいることをお許しくださいました。万が一のことを考えてだそうです。リサイル様、参りましょう」
エディに優しく身体を支えられる。俺は頷いてゆっくりとベッドからおりた。
+++
途中で義母さんとオニキルに会うのではと思っていたのに、執務室へ向かう間も屋敷の中はしんと静まり返っていた。
もしかしたら、父さんが強く義母さんとオニキルへ余計なことをするなと言い含めたのかもしれない。
俺が執務室の扉を叩くと、入りなさいという低い声が返ってきた。
「失礼します」
俺とエディでゆっくりと父さんの座る前へ歩み寄る。
父さんは厳しい顔のまま俺たちを見上げた。
「リサイル、身体に変わりはないか?」
「はい。エディのおかげで怪我一つありません」
「そうか」
父さんはそう言ったあと、黙ってしまった。
俺からは何も言うことはないし、ただ父さんの言葉を待つだけだ。
どれくらいの沈黙が続いたかは分からない。
重苦しい空気の中、父さんはとうとう決意したのか息を長く吐き出してもう一度俺を見上げた。
「リサイル。お前も私にとって大切な息子だ。お前にはサモナード家を支えてほしかったが……民たちの不安を煽る存在をこのまま家に置いておくわけにはいかん。お前をサモナード領から追放とする」
父さんは重い口調で、追放だとはっきりと告げた。
追放……その言葉の重みが身体に染みわたっていく。
命をとられるよりはいいけれど、生まれ育った故郷にはもう戻って来られないということだ。
「旦那様、それがあなたの選択なのですね」
「エディ!」
エディは従者という立場をわきまえることもなく、父さんに向かって冷たく言い放つ。
俺は思わずエディを止めてしまったけれど、父さんは手を前に出して緩く首を振った。
「いや……いい。サモナード家の者として、お前のことを最後まで見てやれないのは申し訳なく思う。だが、民たちも大切な存在。不安の芽は潰さなくてはならないのも当主の務めだ」
「分かっています、父さん。夜のうちにセレニクリスを出ます。今までお世話になりました」
俺はこれまで育ててもらった恩を込めて頭を下げる。
父さんは苦々しい表情のまま、布袋に入ったお金と簡易的な旅の装備を机の上へ置く。
エディも無言で、それらを回収していく。
「私はリサイル様について行きます」
「お前はそう言うと思っていたよ。リサイルのことを……頼んだぞ」
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エディは俺についていくという確信があったのだろう。
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