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第一章 サモナード領セレニクリス
9.旅支度
俺が静かに部屋を出て行こうとすると、エディが最後に父さんの方へ振り返る。
内心では緊張したけれど、考えてみればもうここには戻れないのだからエディとしては何を言っても構わないとでも思ったのだろうか?
あえてエディのことを止めることはせずに、様子を静かに見守ろうと俺も立ち止まる。
「当主様、一つだけ伝えておきます。あなたは今日の日の判断を後悔する時が必ず来るでしょう。ですが、リサイル様の命を奪う選択をしなかったことだけは、私の心に留めておきます」
エディは時々従者としての立場を越えて発言することもあったけれど、この発言も当主に対して普通は許されないものだ。
父さんは心の広い人だから無礼があったくらいで怒ったりしないとはいえ、エディの上から目線の冷え切った言葉は俺が聞いていても背筋が凍るような恐ろしい雰囲気だ。
「エディは昔から私に対しても対等に物申していたな。お前の言う通り、私は後悔し続けるのだろう。それでも、リサイルとオニキル。そしてビジュナとセレナイアも私にとって大切な家族なのだ」
父さんは母さんのことも忘れずにいてくれた。それが分かっただけで心が少し軽くなる。
義母さんとオニキルも、俺に辛く当たるだけで家族は家族。
ただ、俺に家族を納得させるような力がなかっただけだ。
「父さん、俺は父さんのことを恨んではいません。あるのは感謝の気持ちだけです。落ちこぼれだと言われ続けた俺を見捨てずにいてくれた。それだけで嬉しく思っています。では……お元気で」
俺とエディは今度こそ父さんへ背を向けて、執務室を後にした。
俺と話している間も変わらなかった父さんの苦々しい表情が、この決断自体が辛いことを物語っている。
父さんも……俺の成人の儀に疑問が残るということを分かっているのだろう。
全て理解した上で、当主としての決断は俺の追放しかなかったということだ。
俺にとっても辛いけれど、サモナード家の長男として当主の決定に逆らうことはできない。
「リサイル様、誰かに見つかると面倒です。夜のうちにセレニクリスを抜けてしまいましょう。この街を抜けてしまえば安全なはずです。私がお守りいたします」
「ありがとう。この時間なら義母さんとオニキルも眠っているだろうし。二人にあいさつは……しなくていいよな」
エディにぎこちなく微笑んでみせる。俺ができることなんて、今はそれくらいしかない。
エディは装備を抱えたまま、参りましょうと静かに告げた。
+++
俺たちはそれぞれの自室に戻ってから旅支度のための簡単な準備を始めた。
エディは大した荷物はないと言って、護身用に持たされていた剣といくつかの薬を持ってきたかと思うとすぐに準備は済んだと言って俺の部屋へ戻ってきた。
俺も母さんが嫁入り道具として持ってきた美しい形見の銀のナイフとお気に入りの絵本。
魔法が使えるか分からないけれど、初心者用の木の杖を持っていくことに決めて準備していく。
「旦那様が魔法の袋を下さったので、着替えはこちらに詰めていきましょう」
「そうは言っても容量が無限という訳じゃないだろう? この袋の中で保管できるとはいえ、全部持っていくわけには……」
「いくら家を出るからと言って、全てを粗末なものにする訳にも参りません。あなたは召喚士一族のご長男。しっかりと準備を整えなくてはいけません」
「旅に出たら召喚士一族も何もないと思うけど……って。エディ、それって魔法と剣の指南書?」
エディが何かを抱えながら入って机の上へ置いたのは何となく見えていたけれど、目線を合わさずに会話をしていたので気づいていなかった。
エディは家の図書室から何冊か拝借してきたみたいだ。
「家を出るのです。これからは思う存分学ぶことができます。あなたの力が十分に発揮できないのは、具体的な方法が分からないという理由もあるのです。詳しくは私の口から伝えることはできませんが……」
伝えることができないというのはどういう意味だろう?
エディでも分からないということなのか?
でも、魔法や剣の勉強ができるのは嬉しい。
本当はもっと本を読んで魔法と剣のことを学びたいという思いもあったからだ。
エディは魔法の袋の中へ本や着替えを順番に詰め込んでいく。
魔法の袋は高額な魔法の道具で、魔法で作られた仮想空間に物を詰めることができる便利な道具だ。
とはいっても、値段によって詰められる容量が決まっている。
父さんがくれたのは、身の回りのものくらいは一通り詰められそうな物だ。
家具などの大物は詰められないだろうけど、着替えや装備などの旅支度に関わるものや書物くらいなら詰められそうな大きさだ。
内心では緊張したけれど、考えてみればもうここには戻れないのだからエディとしては何を言っても構わないとでも思ったのだろうか?
あえてエディのことを止めることはせずに、様子を静かに見守ろうと俺も立ち止まる。
「当主様、一つだけ伝えておきます。あなたは今日の日の判断を後悔する時が必ず来るでしょう。ですが、リサイル様の命を奪う選択をしなかったことだけは、私の心に留めておきます」
エディは時々従者としての立場を越えて発言することもあったけれど、この発言も当主に対して普通は許されないものだ。
父さんは心の広い人だから無礼があったくらいで怒ったりしないとはいえ、エディの上から目線の冷え切った言葉は俺が聞いていても背筋が凍るような恐ろしい雰囲気だ。
「エディは昔から私に対しても対等に物申していたな。お前の言う通り、私は後悔し続けるのだろう。それでも、リサイルとオニキル。そしてビジュナとセレナイアも私にとって大切な家族なのだ」
父さんは母さんのことも忘れずにいてくれた。それが分かっただけで心が少し軽くなる。
義母さんとオニキルも、俺に辛く当たるだけで家族は家族。
ただ、俺に家族を納得させるような力がなかっただけだ。
「父さん、俺は父さんのことを恨んではいません。あるのは感謝の気持ちだけです。落ちこぼれだと言われ続けた俺を見捨てずにいてくれた。それだけで嬉しく思っています。では……お元気で」
俺とエディは今度こそ父さんへ背を向けて、執務室を後にした。
俺と話している間も変わらなかった父さんの苦々しい表情が、この決断自体が辛いことを物語っている。
父さんも……俺の成人の儀に疑問が残るということを分かっているのだろう。
全て理解した上で、当主としての決断は俺の追放しかなかったということだ。
俺にとっても辛いけれど、サモナード家の長男として当主の決定に逆らうことはできない。
「リサイル様、誰かに見つかると面倒です。夜のうちにセレニクリスを抜けてしまいましょう。この街を抜けてしまえば安全なはずです。私がお守りいたします」
「ありがとう。この時間なら義母さんとオニキルも眠っているだろうし。二人にあいさつは……しなくていいよな」
エディにぎこちなく微笑んでみせる。俺ができることなんて、今はそれくらいしかない。
エディは装備を抱えたまま、参りましょうと静かに告げた。
+++
俺たちはそれぞれの自室に戻ってから旅支度のための簡単な準備を始めた。
エディは大した荷物はないと言って、護身用に持たされていた剣といくつかの薬を持ってきたかと思うとすぐに準備は済んだと言って俺の部屋へ戻ってきた。
俺も母さんが嫁入り道具として持ってきた美しい形見の銀のナイフとお気に入りの絵本。
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「旦那様が魔法の袋を下さったので、着替えはこちらに詰めていきましょう」
「そうは言っても容量が無限という訳じゃないだろう? この袋の中で保管できるとはいえ、全部持っていくわけには……」
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伝えることができないというのはどういう意味だろう?
エディでも分からないということなのか?
でも、魔法や剣の勉強ができるのは嬉しい。
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エディは魔法の袋の中へ本や着替えを順番に詰め込んでいく。
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とはいっても、値段によって詰められる容量が決まっている。
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