召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第三章 新たな出会いと力の片鱗

20.瞑想からの湯あみ

 今回は魔物に出会うこともなく、夜にはなってしまったけれど無事に境界の街ポルタリスに着くことができた。
 この街を越えれば、サモナード領から出られる。
 俺が慣れ親しんだ場所から離れることに後悔はないと言ったら嘘になるけれど、俺の隣にはエディが変わらずいてくれる。
 それで、十分だ。

 今夜の宿はメソリアより簡素でいいと言ったのに、野宿の後だからとメソリアと同じくらいの上質な部屋にしたみたいだ。
 お金の残りは大丈夫なのだろうかと心配になる。

「前と同じです。ただ、今夜は酒場の手伝いをしてまいりますので先にお休みください」
「またエディが働くのか?」
「気にされていらっしゃるようですが、ここはまだサモナード領内。リサイル様に気づくものがいないとも限りません。安全のためでもありますので、今は魔法のお勉強を優先してください」
「分かった。今はまず力をつけることを優先する」

 エディを見送ってから、言われた通りにまた魔法の勉強を再開する。
 この前、なぜか召喚陣が作動しそうになっていたんだよな。
 俺は魔法が使えないはずなのに、どうして召喚陣が……?
 エディに言われるまま、心に浮かんだものを空中に描いてみただけなのに。
 
「同じものを描いたら、今度こそ何か召喚できるのかもしれない。今までの俺だったらやる前から諦めていたけれど……諦めずにやってみよう」
 
 召喚術を使うためには、召喚士について学ぶ必要がある。
 召喚士一族と呼ばれているけれど、父さんもオニキルも召喚士ではなかった。
 でも……もし本当に俺が召喚士だったら?

「とにかくやってみよう。今は魔力の流れすら感じられないから、基礎の基礎から徹底的に」

 召喚士の成り立ちと召喚陣。そして、魔法を使うための感覚。
 俺は集中して全てを頭に叩き込んでいく。
 昔から読書と絵を描くことが好きだった。内政を学ぶ合間の自由時間は、その二つを楽しむくらいしかしていない。
 好きで描いていた絵もほとんど屋敷に置いてきてしまったけれど……エディは絵を描く道具も魔法の袋へ詰めたと言っていた。

「なるほど……瞑想も効果があるのか。少し試してみるか」

 本を読み進めていくと、魔力の高め方について記述があった。
 そこに書かれていた瞑想の効果があるかどうか、試す価値はありそうだ。
 
 俺は本を少し横へ置いて、ベッドの上で足を組んで座ってみる。
 何度か深呼吸をしながら、身体の中を巡っているはずの魔力を感じ取れるように意識を集中させていく。

「身体の中心にあるとされる、魔力の核。それが感じられれば……」

 意識を自分の中へもぐらせていく。
 意識の中は、真っ暗な闇につつまれていて何も見えない。
 それでもきっと、何かあるはずだ。闇の中に隠されている小さな希望を信じて――手を伸ばす。
 俺は諦めずに何度ももがき、必死に明かりを探していく。
 
 今まではもがくことすら許されなかった。だから、今度こそ……。
 俺は時間も忘れて、魔力の探求に没頭していった。

 +++

「はぁぁ……奥の方にある気はするのに、触れられない」

 ベッドの上に寝転んで、長く息を吐き出した。
 しばらく瞑想してみたけれど、結局魔力の流れは感じられなかった。
 今何時なのかは分からないけれど、今日も折角湯あみができる宿にしてもらったから気分転換に湯あみへ向かうことにする。

「今日は一人で湯あみを……」

 俺がベッドから起き上がると、エディが扉を開けて部屋へ戻ってきた。
 エディは俺の姿を見て、無言のまま近づいてくる。

「リサイル様、まだ休まれていなかったのですか? もう夜更けです。今まで何を?」
「あ……瞑想していたんだ。だから、気分転換に湯あみを……って。エディ?」
「行きましょう」

 エディにぐいっと腕を引っ張られた勢いで、俺は重心を崩してしまう。
 その勢いで、エディにぽすっと身体が当たってしまった。
 エディの身体からは、ほんのりとお酒の香りがする。
 酒場で手伝いをしていたせいで、香りが移ってしまったのだろうか?

「エディも一緒に湯あみしよう。その方が時間効率もいいし……」
「リサイル様が望まれるなら、私はそれでも構いませんが。よろしいのですか?」
「その代わり、身体は自分で洗う! エディも自分で洗うだろうし」

 つい声をあげながら強調してしまい、言いすぎてしまったかもしれないと後悔する。
 が、エディは気にした様子もないみたいだ。
 ホッとしていると、今度はエディが身体を曲げて顔を近づけてくる。
 
「私に洗われるのはそんなにお嫌でしたか?」

 俺が動揺していると、エディがくすぐるように耳元で囁いてくる。
 最近距離感がますます近づいているのは気のせいだろうか?
 
「嫌じゃ……ない。恥ずかしいだけだ。言っておくけど、溜まってないからな?」
「かしこまりました。では、本日は素早く済ませてしまいましょう」

 エディの身体を押しのけるように両手で押すと、エディも少し距離を取ってくれた。
 俺はエディの勢いに飲まれないように、さっさと簡易浴場へ向かう。
 しばらくはお互い無言で服を脱ぐことだけに集中し、脱いだあとに俺もエディを見ないようにして浴場へ先に足を踏み入れた。
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