召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

文字の大きさ
30 / 74
第四章 赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ

29.青の出会い

 市場には他にも東の国の調味料で味付けした焼きルームル貝、数種類の果物をしぼって作ったしぼりたての果物の飲み物。
 朝とれたばかりだというアアユの香草焼きなど、海にまつわるものや手作りのパンやお菓子なども売られていた。

「さすがに全部は買えないし食べきれないな。串焼きを買ったし、一旦どこかで座って食べようか」
「そうですね。おっしゃっていただければ追加分は私が買ってきますので、リサイル様はあちらの腰掛けでお休みください」

 エディが指さしたところは広場へ続いていて、広場の周りに石の腰掛けがいくつか置いてあるのが見える。
 広場の真ん中にはドラゴンを模した石の彫像があり、優美な姿と共に力強さを表現しているようだ。

「エディは食べないのか?」
「私も後ほどいただきます。場所を確保できそうなので、飲み物を買ってまいります。先に食べていてください」
「分かった。ユーアンと一緒に待ってるよ」
「ユ!」

 ユーアンは尻尾を振りながらエディを見送る。
 エディも視線で何やらユーアンに訴えてから、また市場の方へ戻っていった。

「俺たちは先に座って待っていようか。あの腰掛けにしよう」

 俺はドラゴンの彫像の正面にある腰掛けへ座る。
 市場と違って人もまばらで、ゆっくりと食べることができそうだ。

「ユッ! ユユッ」
「ユーアンもお腹空いたよな? そんなに慌てなくても俺一人で食べないし……あ、こらっ」 
 
 ユーアンは串焼きの肉を目を輝かせながら狙っているみたいだ。
 俺の肩の周りをうろうろ落ち着きなく動き回っている。
 右へ左へと飛び跳ねるので、頭にかぶっていたフードがずり落ちてしまった。
 
「肉は逃げないぞ? 今食べさせてあげるって」
「ン!」

 ユーアンがシュっと手を伸ばしたのと同時に、俺の髪を結んでいた濃紺の飾り紐に手が引っかかってしまったらしい。
 ユーアンが飾り紐から逃れようと何度か腕を振ったせいで、飾り紐が緩んできてしまう。
 
「いてて、こら暴れないで大人しく……」

 俺の願いも虚しく、飾り紐はユーアンの爪に引っかかり、髪の毛を緩めながらするりと解けてしまった。
 柔らかな潮風が俺の手をすり抜けて、飾り紐を飛ばしてしまう。
 その飾り紐は偶然にも通りがかった人の手にスッと落ちていった。

「あ……」

 上等な服に身を包んだ青年だ。
 俺の声が聞こえたのか、こちらに顔を向けてなぜか無言のまま俺の方へ歩いてくる。
 俺はどうしていいか分からず、近づいてきた彼を見上げた。
 
 精悍な顔立ちの自信が満ちた表情で、金の瞳は角度によって金青にも見える瞳。
 風になびく髪は絵に描くとしたら、花紺青はなこんじょうという色で表現したくなる高貴さがある、紫みを帯びた濃い青だ。
 そばにはお供の人もいるし、もしかして……貴族とか偉い人なのだろうか?

「これは、お前の飾り紐か?」
「はい、そうです」
「美しい銀の髪と愛らしく柔らかな瑠璃色の瞳を持つ者か……。ふむ……よし、決めたぞ。城へ連れて帰ろう」
「……は?」

 この人は今、城と言ったのか?
 しかも連れ帰るって……あまりの発言に俺の思考が止まって変な声が出てしまった。

「殿下、この者の身なりからして旅の者でしょう。お触れを見て国を訪れた者ではないのでは?」
「オレが気に入ったのだから問題ないだろう?」
「え? 殿下って……あの……?」
「ユーッ!」

 ユーアンのおかげで我に返った。急にそんなことを言われても困る。
 何のことだか全く分からないが、殿下ってことはルーブロア公国の皇子様か?
 隣にいる明るく爽やかな青の長髪の人が間に入ってくれなかったら、有無を言わさず連れて行かれるところだった。
 確かに皇子様の高貴な雰囲気は納得できる。じゃなくて、俺はどうすればいいんだ?

「なんだ、このもふもふは。オレの邪魔をする気なのか? 受けてたとう」
「ユッ! ンーッ!」

 俺が困っているのを察してくれたのか、ユーアンは俺を守ろうとしてくれているらしい。
 毛を逆立てて、来るなと言わんばかりに声をあげている。
 
「すみません、話が全く見えてこないのですが……それにわたしはこの街に偶然立ち寄っただけなので、お触れについては何も知らないんです」
「ほう? この国には来たばかりか。しかし……見た目だけでなく声も良いとは。オレ好みだ」

 やたらとグイグイとくるので笑ってごまかそうとしていると、俺の前にヒュッと腕が伸びてきた。
 この感じ……前もあった気がする。
 オニキルから俺をかばってくれた時にそっくりだ。
 いつの間にか買い物を終えて戻ってきたエディが、俺の前に立って殿下をはばんでいる。

「どなたかは存じ上げませんが、何か御用でしょうか? 私たちはあなたの目的に全く関係のない旅の者です。お引き取りを」
「お前こそなんだ。旅の者ならば、オレのことが分からなくても仕方ないが……にしても、ずいぶんと無礼だな」
「殿下、まずは名乗られてはいかがでしょうか? 我が国では身分関係なく接するのが常。殿下から名乗られた方がよろしいかと」

 お付きの方は騎士だろうか? 鎧を着込んでいないけれど、騎士剣らしき剣を腰の辺りからぶらさげているのが分かる。
 殿下の扱いには、慣れているみたいだ。
 雰囲気的に殿下は俺ともそこまで年は離れていなさそうだし、騎士さんは逆にエディと年が近そうな雰囲気がする。
感想 71

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
※未完 4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。