召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第四章 赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ

30.漂う緊張感

 エディと殿下。そしてユーアンの間にはピリピリとした緊張感が漂っている。
 ユーアンまで警戒するなんて、殿下は危険な者だと思っているのだろうか?

「オレはルーブロア公国第一皇子。サフィシュ・ディ・ルーブロアだ。こっちは護衛騎士のアジュラン」
「ご丁寧にありがとうございます。わたしはリサイル、こちらは旅の仲間のエディ。この子はユーアンです」
「ということですので。殿下はどうぞ視察をお続けください。我々はあなたがたの邪魔をするつもりはございませんので」

 自己紹介をしたところで、エディはさっさと話しを切り上げようとする。
 すると、エディに一歩近づいたサフィシュ殿下が眉をひそめた。

「エディと言ったな? もしや……」

 何かを言いかけた殿下をけん制するように、エディは自分たちに関わるなと言う空気を前面に押し出す。
 護衛騎士のアジュランさんも、エディの態度を見て逆に危険を察知したのか、一旦殿下を下がらせる。

「殿下、この方たちにも事情があるのでしょう。お触れも知らないとおっしゃっている方たちに、殿下の都合だけを押し付けるのはいささか乱暴ではないでしょうか」
「アジュラン、お前はオレにリサイルを諦めろというのか? お触れを出したのは父上だ。国を支えるためにも伴侶を見つけろと言ったのは父上だぞ?」
「は……伴侶っ?」

 殿下の一言で俺は驚いて固まり、エディからは見えない冷気が出ている気がする。
 ユーアンも怒っているのか、ユッユッと何度も声をあげて抗議しているみたいだ。

「やはり、ご存じなかったのですね。ルーブロア公国では、サフィシュ殿下の伴侶を国内外から募集するというお触れが出されておりまして。殿下はお触れの様子見も兼ねて城下町を見回っておられたのです」
「そうだったのですね。でしたら、わたしではお力にはなれないかと存じます。申し訳ありません」

 事情を知り、俺ではふさわしくないとすぐにお断りしたのに殿下は俺のことを見続けたままだ。
 
「なぜだ? リサイルは美しい。一目見て、オレの伴侶に相応しいと思って声をかけた。将来オレの子を……」

 それに、この殿下は根本的に勘違いをしている。まず、俺は子どもを産むことができない。
 なぜなら、俺は男だからだ。一応丁寧に話そうと自分のことをわたしと言ったし、男っぽくないのは自覚しているけれど……。
 初対面で女性と間違われるとは……男としては少し悲しくなる。

「あなたが殿下だろうと、これだけははっきり言っておきます。リサイル様は男性です。それすら分からないような王族にリサイル様の真の価値が分かるはずもありません。これ以上無礼を働くのならば、私にも考えがあります」
「なっ……この美しい者が、男……?」
「申し訳ありません。サフィシュ殿下は思い込みが激しいところがありまして、旅のお方に大変なご迷惑をおかけし失礼をいたしました。主に代わりまして、謝罪させていただきます」

 衝撃を受けているサフィシュ殿下の代わりに、アジュランさんが謝ってくれるという展開になってしまった。
 いや、こちらとしては何も悪いことはしてない……はず。
 なのに、どうも気まずい。

「分かっていただければそれで結構です。ですよね? リサイル様」

 俺は会話についていけないまま、エディの言うことにゆっくりと頷く。
 殿下は相変わらず、なんということだと言ったままの衝撃から帰ってこない。

「お詫びになるかは分かりませんが、今宵王城の庭園で身分関係なく参加できる夜会を開催することになっています。殿下のことはともかく、多くの料理や飲み物を振る舞います。よろしければお立ち寄りいただき、楽しんでいただけると幸いです」
「う……そうだな。リサイルのことを気に入ったのは本当だが、少々焦りすぎたようだ。この国は旅の者も歓迎している自由の国でもある。誰もが気兼ねなく立ち寄れる開かれた夜会だ。リサイルたちもぜひ立ち寄って欲しい」

 サフィシュ殿下も少しは落ち着いてくれたみたいだ。
 アジュランさんのおかげで場も丸く収まりそうで、俺もホッとする。
 エディも少し警戒を緩めて、俺をかばっていた腕を下げてくれた。

「お誘いありがとうございます。もし行けそうであればというお返事でも構いませんか?」
「ああ。それだけで十分だ。では、失礼する」

 殿下の言葉のあと、アジュランさんは言葉の代わりに俺たちに一礼し、二人そろってゆっくりと去っていった。
 俺は肩の力が抜けてしまい、エディの足に頭をこてんとくっつける。

「一体何がなんだか……エディ、ユーアン。ありがとう。俺だけじゃ切り抜けられそうになかったから助かった」
「このタヌキ……ユーアンが私の意図を汲んで時間を稼いでくれたおかげで間に合いました。強引な皇子でしたが、皇族ということはおそらくブルードラゴンなのでしょう」
「だよな。皇族は全員ブルードラゴンの血筋。しかも、サフィシュ殿下は第一皇子。おそらく……皇太子だよな。でも、伴侶を探しているお触れなんて……何か急ぐ理由でもあるのか?」
「リサイル様は、サフィシュ殿下の伴侶として選ばれそうになったというのに、余裕そうですね」

 エディの視線は少し冷ややかだ。俺に対して危機感がないと視線で訴えかけている。
 でも、急にオレの好みだ! とか言われるなんて予想できないし。
 一目みただけで、気に入ってもらえるなんて……信じられないことだ。
 夜会か……行ってみたい気持ちもあるけれど、エディは許してくれるだろうか?
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