召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第四章 赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ

44.絵描きの工房

 焦げ茶のクロークのフードをかぶっていたので気づかなかったけれど、露店の人の髪はさらさらとした白髪で、肩口で切りそろえられている。
 灰白色かいはくしょくと呼ばれる、白色に黄色みを帯びたように見える瞳……不思議な色合いなのに、とても優しそうな雰囲気だ。
 俺が絵を見つめていると、柔らかく微笑みかけてくれた。

「この絵を気に入ってくださったのですか? こちらの絵はホワイトドラゴンと伝説の召喚士が出会った場面を想像して描いたものです」
「とても優しい絵だなと思いまして。色使いも繊細で、見ているこちらも心が穏やかになります」
「確かにただ色を塗るのではなく、何色も重ねてじっくりと仕上げていったのですが……少し見ただけなのに分かっていただけるなんて、嬉しいです」

 絵描きらしき人はどうやら男性らしい。穏やかな話し方で、芸術への造けいも深そうだ。
 絵の描き方も俺と似ている気がして、初対面なのに親近感が湧く。

「俺も絵を描くのが好きで、最近はあまり描いていないのですが……もしホワイトドラゴンについて知っているのなら教えてほしいです。伝説の召喚士と出会った場面ということは……絵本の物語を知っているのですか?」

 俺がまとめて話してしまったせいで、混乱させてしまったみたいだ。
 しかし、彼は気を悪くした様子もなく優しく微笑んでくれる。

「あなたも絵を描かれるのですね? はい、知っています。わたしも伝説の召喚士の出てくる一節が大好きで、よく絵本を読んでもらったのです。ホワイトドラゴンとの出会いはわたしの想像にすぎませんが……」
「でも、白き光の慈しみはホワイトドラゴンですよね。きっとこの絵のように出会っていたのではないでしょうか」
「そうだと……いいですね」

 俺と絵描きの人で穏やかに話をしていたけれど、隣からは不服そうな空気が出ている気がする。
 俺が楽しそうに話をしているので口を挟んではこないけれど、エディはまた不機嫌になってきたようだ。
 情報収集だと小声で伝えると、エディは諦めたように長く息を吐いた。

 絵描きの人は、俺とエディを交互に見てからエディを見て一瞬不思議そうに首を傾げる。
 そのあと、気のせいか……という小声の呟きが聞こえてきた。
 知り合いの人にでも似ていたのだろうか?
 
「お二人は気が合うようですね。私からは落ち着いて話ができる場所へ移動することを提案いたしますが、いかがでしょうか?」
「確かにエディの言う通りだ。あの……あなたとは初対面ですが、じっくりとお話してみたいなと思いまして。俺は旅をしているリサイルと申します。こちらは仲間のエディです。もう少し詳しくお話をお聞かせいただけませんか?」

 俺がお願いすると、絵描きの人も笑顔で頷いてくれる。

「構いませんよ。わたしもあなたとゆっくりお話してみたいと思っていたところです。よろしければ、工房へご案内させていただきます。わたしは絵描きのファーと申します。この場を片付けますので少しお待ちください」
「こちらこそ、ありがとうございます。お片付け、手伝いますね」

 ファーさんと話しながら露店の品を片付けて、彼の工房へ案内してもらう。
 賑わっていた露店が並ぶ道を抜けて、街外れの静かな場所へ進んでいく。
 こぢんまりとした白い小さな家。ここがファーさんの工房らしい。

「散らかっていてすみません。どうぞ」

 家の中に入ったとたんに絵の具の独特の香りがする。
 静かで穏やかな空間は、絵を描くにはちょうど良い静けさもあって落ち着く。
 床に転がっている画材も絵描きらしい。足の踏み場がないほどじゃないけれど、描きかけの絵などがあってついきょろきょろと辺りを見回してしまう。

「好きな気持ちが伝わってきます。この絵も素敵ですね」
「ありがとうございます。この絵はお気に入りの湖の絵なのです。昔行ったきりなので、自分の頭の中の記憶だけで描いたものですが……」

 俺が目を留めた絵は、柔らかな光が差し込む穏やかな湖の絵だ。
 見ているだけでいやされるような優しさを感じる。
 ファーさんは恥ずかしそうにしているけれど、本当に湖に行ったかのような気持ちになれる素敵な絵だと思う。

「そういえば、他にもホワイトドラゴンの絵を描かれたりしているのですか?」
「はい、何枚か。この国を治めているのはホワイトドラゴンの一族。ホワイトドラゴンは癒しの力を持っていると言われるドラゴン。その美しさと優しさが少しでも伝わるといいなと思って練習しています」

 ファーさんは穏やかに微笑みながら、ホワイトドラゴンの絵も見せてくれた。
 白くて美しい気品を感じるドラゴンは、描いているファーさんの雰囲気にも似ているように感じるから不思議だ。
 それだけ心を込めて描いているのだろう。

「こちらの国に来たのは、ホワイトドラゴンのことが知りたかったのもあって。でも、ファーさんの絵から色々と感じ取ることができました」
「そうだったのですね? ホワイトドラゴンは行事の時くらいしか見ることはできないと思うので、実際に目にするのは難しいかもしれませんが……わたしの想像でもよろしければいくらでも」
「ありがとうございます」

 俺とファーさんが話している間、エディは静かに見守ってくれていた。
 エディも絵は眺めているみたいだけれど、感情が現れていないのでどう感じているのかは分からない。
 俺がドラゴンに肩入れしているのはあまり嬉しくないことのようだし、今も無関心なのかもしれない。
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