召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第四章 赤き猛る力、青き知性の守り、白き光の慈しみ

47.招かれざる客

 俺たちはファーさんの工房へ行く約束をした日まで、町で画材や食料などを買い込んでいた。
 そして、数日後に工房へ行くと笑顔のファーさんが出迎えてくれた。

「こんにちは、ファーさん」
「リサイルさん、エディさん。いらっしゃい。どうぞ」

 ファーさんへ招かれるままに工房へ入り、その後は軽いおしゃべりをしながら俺とエディの絵を描いてもらう。
 俺とエディが自然と寄り添っている姿を描きたいと言われたので、俺が座っているそばにエディが立っている状態で描いてもらうことになった。

 +++

「今日はこの辺で。そうだ、リサイルさんと一緒に描く絵も決めないといけませんね」
「そうですね。共に描くなら、美しい風景画などでしょうか? 架空の風景でもいいと思いますが」
「それはいい考えですね」

 俺とファーさんで笑いあっていると、エディの視線を背中に感じる。
 今日はエディも一緒なのに、放っておくのも申し訳ない気持ちになる。

「エディ、先に宿へ戻っていて。もう少し話をめたら俺も戻る」
「そうですね、すみません。エディさんもお疲れなのに。暗くなる前には終わらせますので」
「かしこまりました。では、リサイル様。遅くなる前に必ずお戻りください」

 エディはそう言い残すと、一礼して先に工房を出て行った。
 俺は一人になることがなかったので少し不安だったけれど、エディが俺を信頼してくれたからこそだと切り替えてファーさんと話を進めていった。

 +++

 俺はエディと約束していたことがある。それは、エディと離れている状態で町の中を歩くときは必ず召喚獣を召喚することだ。
 ファーさんにはまだ正体を明かしていないので、工房から出たあとに少し距離を取って目立たない場所で召喚を試みる。
 今日は右手の薬指を光らせた。淡い茶色の光が爪を照らし、召喚陣が浮かびあがると同時にマキーニャが現れた。

「さあ、ご主人様。帰りましょう。エディが機嫌を悪くしないうちに」
「マキーニャ、エディは分かってくれているから大丈夫だ」
「もうっ! ご主人様は本当に……」
「本当に何?」

 俺が聞き返すと、マキーニャは尻尾を振りながら、なんでもありませんと答える。
 一体何が言いたかったのだろう?
 マキーニャの言いたいことが分からないまま、無事宿へ帰りつくことができた。

 +++

 それから何日間か工房へ通っていくうちに、俺たちを描いてもらっている絵も共同で描いている絵も少しずつ形になってきていた。
 しかし……そんな楽しい日々を打ち消すようにそれは突然現れた。

「失礼いたしますよ? 全く……こんなところに隠れておいでとは、困ったものですな」

 無遠慮に開かれた扉からは、呆れたような声が聞こえてくる。
 俺が振り返るのと同時に、振り返ったファーさんが絵筆を落としてしまう。

「どうして……何の用でここへ?」
「決まっているではありませんか。貴方が姿をくらましたと聞いたので、心を痛めてお探ししていたのですよ」

 偉そうな口調で、護衛らしき兵士を二人連れている中年の人物。
 服装も高級な装いを見るに、ある程度の地位を持った男性なのだろう。
 俺は義母かあさんを思い出して、少しぞっとしてしまう。

「……失礼ですが、どなたでしょう?」
「フン。どこの者かは知らないが……お前のような旅人が一緒にいていいようなお方ではない」

 男性に指示をされた兵士たちが工房の中へ入ってきて、俺の手首をつかむ。
 すると、ファーさんが慌てて俺の方へ駆け寄ってきた。

「やめないか! 彼は関係ない! すぐにその手を離しなさい。わたしの言うことが聞けないのですか!」
「しかし……」
「大臣の命令は聞けるのに、わたしでは不足ですか?」

 ファーさんが強い口調で言うと、兵士が俺の手を離して一歩下がってくれた。
 俺をかばうように俺の前に立ってくれたけれど、ファーさんの身体は少し震えている。
 兵士が言うことを聞くような存在。そして、美しい白い髪。
 まさかとは思っていたけれど……俺の想像が正解ならば、この方は――

「ご立派ではありませんか、ファルリオラ殿下。しかし、そのような者に肩入れする必要はありません。絵を描くなどとつまらないことはおやめになることですな。さあ、城へ戻りましょう。陛下と王妃もあなたのご帰還をお待ちですぞ」
「わたしは戻らない。そう、父上たちにも告げたはずだ。わたしのことは放っておいてくれ」

 ファルリオラ殿下は悲しそうな表情で大臣を拒む。けれど、大臣は全く譲ろうとする気配もない。
 それどころか辺りを見回し、俺たちが描いていた絵を見て怒りをあらわにしてきた。

「あなたが絵を描きたいなどと仰るせいで、セルディオス殿下の功績ばかりが目立ってしまうのですよ? もっと力を示していただかなければ困るのです!」

 大臣は俺たちが描いていた絵を忌々しそうに見遣ってから、絵を床へ叩き落とした。
 そして、俺たちが止める間もなくその絵を何度も踏みつける。

「なんということを……」

 ファルリオラ殿下はあまりの出来事に、床へ崩れ落ちる。
 胸に手を当てて震える姿は、悲しみと怒りが織り交ざっているのだろう。
 
 俺は……数日だったけれど楽しかった日々を思い出す。そして、その日々を一瞬にして踏みにじった大臣。
 今までの俺だったら、このまま怯えてしまったのかもしれない。
 けれど……これは許してはいけないことだと本能が訴えかけてくる。

「あなたの事情はよく知りません。ですが……ファルリオラ殿下が心を込めて描いた作品を踏みにじる権利があるとは、俺には思えない」
「なんだと? 小僧のくせに無礼な! おい、兵士たち。こいつを捕らえて牢へ……」
「させない」

 俺だって怖い。けれど……今は、殿下を守りたい。
 
 俺は手のひらを前へ突き出して、召喚を試みる。
 俺の右手の爪は光り、召喚陣を浮かび上がらせる。
 赤の光、茶の光、桃色の光――
 俺は召喚獣たちを、大臣の目の前で召喚する。

「な、なっ……」
「ユーアン、モモモ、マキーニャ! この人たちを今すぐ追い返せ。モモモ、少しだけ食べてもいい。でも、ぺっしなさい」

 膨れ上がった魔力と共に、俺の被っていたフードが外れてしまったらしい。
 でも、それでもいい。ファルリオラ殿下のことを知ったのだから、俺も正体を知られても構わない。
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