召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第五章 夢と記憶

56.聖地

 俺は、エディのことを何も知らないのだとじわじわと思い知らされる。
 だから、これからどうするのが適切なのかも分からなくなってきてしまう。
 
 考え込むと自然と心が暗くなっていって、また気力が失われていく。
 俺が思考の渦に飲まれて俯いていると、優しい声が聞こえてきた。

「でも、エディさんがドラゴンというのが間違いないとすれば……再び召喚をすれば、お会いできるはずですよね」

 ファルリオラ殿下の言う通り、エディとまた会える方法が召喚だというのなら……やるしかない。
 俺は何とか必死に気を持ち直す。
 けれど、エディを召喚するには正確な召喚陣で呼び出さなければならないはずだ。
 でも、俺はその召喚陣がどのようなものだったのか記憶がないため、召喚陣について何も分からないことが問題だ。

「リサイルさんが覚えていないのならば、思い出す手段を考えればよいのです」
「ファルリオラ殿下、何か思い当たることがあるのか?」

 サフィシュが問うと、ファルリオラ殿下に注目が集まる。
 殿下は緊張した表情で、ゆっくりと言葉を続ける。

「我が国には、伝説の召喚士が召喚を行ったとされる聖地があるのです。ご存じでしょうか?」
「確かにそういった場所があるのは聞いたことがあるな。だが、行ったところでリサイルの記憶が戻るわけでもないだろう?」

 サフィシュがはっきりと言うと、イーラがおい、とサフィシュをひじで小突こづく。
 イーラは俺が落ち込んでしまったことを気にしてくれたのだろう。

「何をす……ああ、すまない。オレは思ったことをすぐに言ってしまうところがあって、いつも注意されているのだが……注意するアジュランがいないから加減ができていないようだ」
「大丈夫。イーラ、サフィシュ。ありがとう」

 俺が声をかけるとサフィシュは少し申し訳なさそうな顔をしていたけれど、イーラがさらにちょいっと小突いた。
 そのうち、二人は顔を合わせて俺のために笑い返してくれた。
 その様子を見ていたファルリオラ殿下も、俺たちのやり取りを見て微笑ましそうにしてくれていた。

「皆さん、仲が良いのですね。うらやましいです」
「ファルリオラ殿下も混ざればいいだろ。リーサちゃんと契約しちまえばいい」

 イーラはニッと笑いながら、俺の身体を引き寄せてがっちりと肩を組んできた。
 サフィシュが嫌そうな顔をしながら、俺とイーラを引きはがしてくれる。

「エディがいないからといって、リサイルにくっつくな。後でどうなっても知らないぞ」
「これだから、王族の坊ちゃんは。でも、契約を提案したのは悪い話じゃないだろ。あんただって、ホワイトドラゴンなんだしな」

 イーラの提案に対して、ファルリオラ殿下は眉を下げて微笑みだけ返す。
 俺と契約するのは、不安があるのかもしれない。ファルリオラ殿下は争いごとが苦手そうだし、俺も無理強いはしたくない。
 流れを切り替えるように、俺から話しかける。

「話を元に戻すと、ファルリオラ殿下は聖地に何かあると言いかけていましたよね?」
「ええ。その聖地には聖地を守る者がいるのです。その者は……夢見のり人と呼ばれています」
「夢見の守り人……?」

 俺が聞き返すと、またサフィシュが口を挟んでくる。

「なるほどな。夢見の守り人のうわさなら聞いたことがある。夢の世界と記憶の世界を繋ぐ、夢渡りという能力を持つという一族だな」
「はい。その夢渡りならば、記憶がないというリサイルさんでも忘れてしまった記憶を知ることができるかもしれません。わたしも過去に一度だけ訪れた場所なので、夢見の守り人には会っていないのですが……」
「じゃあ、すぐに行こうぜ。リーサちゃんも早くエディに会いたいだろ?」

 イーラに距離を詰められると、少しずつ恥ずかしくなってきてしまった。
 俺の様子を汲み取ったのか、今まで静かに大人しくしていたマキーニャがイーラをぺちっと叩く。

「イーラさん! ご主人様を困らせないでください!」
「ユッ!」
「……モ」

 無口なモモモまで俺の味方をしてくれると、イーラが悪い悪いと言って俺から離れてくれた。
 サフィシュは先ほどのお返しとばかりに、思いっきりイーラにひじを打ち込んでいた。
 柔らかな笑いがあふれる室内の空気が、俺の冷え切った心を少しずつ温めてくれるのを感じる。
 まだ割り切れていないところもあるし、本当はエディの温もりが欲しくてたまらないけれど……気持ちを心の奥底へ押し込める。

「みんなもありがとう。俺は大丈夫。まだ完全に元気とは言えないけれど……エディにまた会えるのなら、やれることはやりたい」
「おう、そうこなくっちゃな」
「エディが戻るまではオレたちでリサイルを支えてやらないと。何かあってはあとでエディに何をされるか分からないからな」

 イーラとサフィシュの二人に励まされ、俺も静かに頷き返す。
 見守ってくれていたファルリオラ殿下も、微笑みながら一緒に頷いてくれた。
 
 全員でこれからどうしようかと話し始めようとしたところで、扉が軽く叩かれる。
 室内の空気が、来客によって引き締まった感じがしてきた。
 ベッドで座ったままの俺の代わりに、ファルリオラ殿下が扉を開けに行ってくれた。

「兄上……?」
「ファー、ここにいたのか。その、召喚士殿の具合は?」
「ええ、少し元気を取り戻されたところです。ちょうど良かった。兄上にも口添えしていただいたほうが良いかもしれません。リサイルさん、構いませんか?」
「はい、ベッドの上で申し訳ありませんが……」

 ファルリオラ殿下が兄上と呼ぶ人物は、第一王子のセルディオス殿下で間違いないだろう。
 まさか、第一王子まで俺に会いに来てくれたのだろうか?
 俺は少しでも礼を尽くそうとベッドの上で体勢を整えてから、セルディオス殿下を出迎えることにした。
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