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第五章 夢と記憶
57.兄弟
セルディオス殿下がゆっくりと室内へ入って来られた。
ファルリオラ殿下と似た雰囲気の白を基調とした上品な服を身にまとっているけれどがっしりとした体格で、白の短い髪は清潔感がある。
灰白色の瞳は弟であるファルリオラ殿下と一緒だけれど、キリっと引き締まった瞳なので雰囲気がまるで違う。
「まだ万全な体調ではないのにすまない。この国の争いに召喚士殿を巻き込む事態になってしまい、更には大切な人を失わせてしまった。この不始末――この国の王族として、そして騎士として。心よりお詫びしたい」
セルディオス殿下は深く頭を下げた。
召喚士とはいえ、追放された身の俺に対しても丁寧なお詫びの気持ちが伝わってくる。
俺はすぐに、お顔をおあげくださいと声をかけた。
「まだ気持ちの整理がついておらず、陛下を始め王族の皆様に対しごあいさつにうかがえないこと、大変申し訳なく思っております」
「心遣い痛み入る。本当にすまない。気が利かないものでな。名乗り遅れてしまったな? ファーの兄であり、この国の第一王子。そして、ランシュノー王国の騎士団長。セルディオス・ル・ランシュノーだ」
「身に余るご対応、恐れ入ります。わたしは、リサイル・サモナードです。ファルリオラ殿下とは偶然知り合い、色々とお話をさせていただいていました」
俺たちは全員簡単ではあるが、自己紹介をした。
この室内には王族が三人、ドラゴンも四人いることになる。
状況だけ見れば、まるで伝説の召喚士のようで……全く実感がわかない。
俺はセルディオス殿下に今までの経緯を伝え、ファルリオラ殿下はこれからのことについて進言した。
「兄上、リサイルさんを聖地アウルレーンへお連れしたいのです。今必要なのは、エディさんを呼び戻すこと。それにはリサイルさんが記憶を取り戻す必要があるのです」
「事情は分かった。すぐに陛下へ伝えるとしよう。陛下もこの度の一件は心を痛めておいでだ。すぐに旅立てるよう、取り計らう」
セルディオス殿下の誠実な人柄が伝わってくるのと同時に、慈しみの心を持つファルリオラ殿下とランシュノー王国の良さが分かる。
それだけに……あの大臣がいたことが残念でならない。
今はどうしているかなどと考えたくもないし、本当は俺の手で……と、心の奥底の暗い部分で思っていることも事実だ。
でも、その気持ちは出してはいけないものだと理性で抑え込む。
「セルディオス殿下、お心遣い感謝いたします」
俺が礼を返すと、セルディオス殿下は少し居心地悪そうに苦笑していた。
セルディオス殿下の立ち振る舞いを見ていると、丁寧というよりはさっぱりとしていて言葉少なに感じた。
気が利かないとは言っておられたけれど、普段はもっと違う接し方をされているのだろうか?
王族らしい気品もあるけれど、騎士だと名乗っていたこともあって根は無骨な方なのかもしれない。
「本来はかしこまったやり取りは苦手でな。芸術の国と言われるランシュノー王国の生まれだというのに、私は絵の一つも描けないのだ」
「兄上はわたしにはない、民を導く力をお持ちです。ですから私は兄上こそ王位を継ぐのにふさわしいと思っています。父上にもようやくしっかりと向き合うことができました」
ファルリオラ殿下の言葉に、セルディオス殿下も嬉しそうに笑う。
「ファー……お前も召喚士殿に出会い、変わったのだな。今こそ、お前のその優しさと癒しの力。役立てるときだろう。私はほとんど癒しの力が使えないのだからな」
「兄上……」
俺たちはお二人の会話を見守っていたけれど、イーラがニヤニヤしながらまたサフィシュを小突き始めた。
サフィシュは嫌そうな顔をしながら、静かにしていろとたしなめている。
「すまない、話し込んでしまったな。今はゆっくりと静養してほしい。では、そろそろ失礼する」
「はい。ありがとうございました」
セルディオス殿下は、優しくファルリオラ殿下の頭をなでてから去っていった。
ご兄弟の仲が良いことが伝わってきて、俺はどこかうらやましさを感じていた。
「ユー……」
俺のそばでうずくまって静かにしていたユーアンから、か細い声が聞こえてくる。
「ん? ああ、ごめん。俺のことを心配してくれてるのか。ありがとう、ユーアン」
「長いお話にさっきまで寝かけていたくせに……あたしも同じ気持ちです、ご主人様」
「……モッ」
召喚獣たちは、敏感に俺の気持ちに気づいてくれたらしい。
イーラとサフィシュも俺の近くに寄ってきてくれて、それぞれ俺の手に自分たちの手を重ねてくれた。
「血の繋がりはなくとも、オレたちは常に繋がっている」
「サフィシュ殿下の言う通り。俺様はリーサちゃんのことを気に入ってるんだ。いくらでも呼んでくれ。トカゲたちもリーサちゃんのことは信用してるんだぜ?」
「ありがとう……みんな」
エディの空白をみんなが少しでも埋めようとしてくれている。
エディの代わりはいないし、喪失感に今でも打ちのめされそうだけれど……その気持ちは本当に嬉しい。
そして、俺たちのやり取りを見守っていたファルリオラ殿下が俺を真剣な眼差しで見つめていることに気づく。
「わたしは今まで自信も持てず、好きな絵を描くことで逃げていたのかもしれません。大臣のことも、私が陛下に進言していればと悔やんでも悔やみきれません。ですが……兄上も言ってくださった通り、私も癒しの力なら使えます」
「ファルリオラ殿下……」
「リサイルさん、わたしとも契約してください。力不足ではありますが、あなたと共にわたしも成長していきたいのです」
ファルリオラ殿下の言葉が、俺の胸の奥へゆっくりと響いていく。
まさか殿下の方から契約してほしいと言ってもらえるなんて、静かな決意の中に込められた熱意がにじむ声色を聞くと、俺も自然と真剣な気持ちに切り替わる。
エディがいたら……また嫌な顔をしたのかもしれないけれど――
きっと……あなたが望むならと言ってくれるはずだ。
ファルリオラ殿下と似た雰囲気の白を基調とした上品な服を身にまとっているけれどがっしりとした体格で、白の短い髪は清潔感がある。
灰白色の瞳は弟であるファルリオラ殿下と一緒だけれど、キリっと引き締まった瞳なので雰囲気がまるで違う。
「まだ万全な体調ではないのにすまない。この国の争いに召喚士殿を巻き込む事態になってしまい、更には大切な人を失わせてしまった。この不始末――この国の王族として、そして騎士として。心よりお詫びしたい」
セルディオス殿下は深く頭を下げた。
召喚士とはいえ、追放された身の俺に対しても丁寧なお詫びの気持ちが伝わってくる。
俺はすぐに、お顔をおあげくださいと声をかけた。
「まだ気持ちの整理がついておらず、陛下を始め王族の皆様に対しごあいさつにうかがえないこと、大変申し訳なく思っております」
「心遣い痛み入る。本当にすまない。気が利かないものでな。名乗り遅れてしまったな? ファーの兄であり、この国の第一王子。そして、ランシュノー王国の騎士団長。セルディオス・ル・ランシュノーだ」
「身に余るご対応、恐れ入ります。わたしは、リサイル・サモナードです。ファルリオラ殿下とは偶然知り合い、色々とお話をさせていただいていました」
俺たちは全員簡単ではあるが、自己紹介をした。
この室内には王族が三人、ドラゴンも四人いることになる。
状況だけ見れば、まるで伝説の召喚士のようで……全く実感がわかない。
俺はセルディオス殿下に今までの経緯を伝え、ファルリオラ殿下はこれからのことについて進言した。
「兄上、リサイルさんを聖地アウルレーンへお連れしたいのです。今必要なのは、エディさんを呼び戻すこと。それにはリサイルさんが記憶を取り戻す必要があるのです」
「事情は分かった。すぐに陛下へ伝えるとしよう。陛下もこの度の一件は心を痛めておいでだ。すぐに旅立てるよう、取り計らう」
セルディオス殿下の誠実な人柄が伝わってくるのと同時に、慈しみの心を持つファルリオラ殿下とランシュノー王国の良さが分かる。
それだけに……あの大臣がいたことが残念でならない。
今はどうしているかなどと考えたくもないし、本当は俺の手で……と、心の奥底の暗い部分で思っていることも事実だ。
でも、その気持ちは出してはいけないものだと理性で抑え込む。
「セルディオス殿下、お心遣い感謝いたします」
俺が礼を返すと、セルディオス殿下は少し居心地悪そうに苦笑していた。
セルディオス殿下の立ち振る舞いを見ていると、丁寧というよりはさっぱりとしていて言葉少なに感じた。
気が利かないとは言っておられたけれど、普段はもっと違う接し方をされているのだろうか?
王族らしい気品もあるけれど、騎士だと名乗っていたこともあって根は無骨な方なのかもしれない。
「本来はかしこまったやり取りは苦手でな。芸術の国と言われるランシュノー王国の生まれだというのに、私は絵の一つも描けないのだ」
「兄上はわたしにはない、民を導く力をお持ちです。ですから私は兄上こそ王位を継ぐのにふさわしいと思っています。父上にもようやくしっかりと向き合うことができました」
ファルリオラ殿下の言葉に、セルディオス殿下も嬉しそうに笑う。
「ファー……お前も召喚士殿に出会い、変わったのだな。今こそ、お前のその優しさと癒しの力。役立てるときだろう。私はほとんど癒しの力が使えないのだからな」
「兄上……」
俺たちはお二人の会話を見守っていたけれど、イーラがニヤニヤしながらまたサフィシュを小突き始めた。
サフィシュは嫌そうな顔をしながら、静かにしていろとたしなめている。
「すまない、話し込んでしまったな。今はゆっくりと静養してほしい。では、そろそろ失礼する」
「はい。ありがとうございました」
セルディオス殿下は、優しくファルリオラ殿下の頭をなでてから去っていった。
ご兄弟の仲が良いことが伝わってきて、俺はどこかうらやましさを感じていた。
「ユー……」
俺のそばでうずくまって静かにしていたユーアンから、か細い声が聞こえてくる。
「ん? ああ、ごめん。俺のことを心配してくれてるのか。ありがとう、ユーアン」
「長いお話にさっきまで寝かけていたくせに……あたしも同じ気持ちです、ご主人様」
「……モッ」
召喚獣たちは、敏感に俺の気持ちに気づいてくれたらしい。
イーラとサフィシュも俺の近くに寄ってきてくれて、それぞれ俺の手に自分たちの手を重ねてくれた。
「血の繋がりはなくとも、オレたちは常に繋がっている」
「サフィシュ殿下の言う通り。俺様はリーサちゃんのことを気に入ってるんだ。いくらでも呼んでくれ。トカゲたちもリーサちゃんのことは信用してるんだぜ?」
「ありがとう……みんな」
エディの空白をみんなが少しでも埋めようとしてくれている。
エディの代わりはいないし、喪失感に今でも打ちのめされそうだけれど……その気持ちは本当に嬉しい。
そして、俺たちのやり取りを見守っていたファルリオラ殿下が俺を真剣な眼差しで見つめていることに気づく。
「わたしは今まで自信も持てず、好きな絵を描くことで逃げていたのかもしれません。大臣のことも、私が陛下に進言していればと悔やんでも悔やみきれません。ですが……兄上も言ってくださった通り、私も癒しの力なら使えます」
「ファルリオラ殿下……」
「リサイルさん、わたしとも契約してください。力不足ではありますが、あなたと共にわたしも成長していきたいのです」
ファルリオラ殿下の言葉が、俺の胸の奥へゆっくりと響いていく。
まさか殿下の方から契約してほしいと言ってもらえるなんて、静かな決意の中に込められた熱意がにじむ声色を聞くと、俺も自然と真剣な気持ちに切り替わる。
エディがいたら……また嫌な顔をしたのかもしれないけれど――
きっと……あなたが望むならと言ってくれるはずだ。
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