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第五章 夢と記憶
59.夢の守り人
馬車は問題なく聖地アウルレーンへ到着した。
俺がうとうとして寝ている間も、誰も俺を起こそうとはせずにそっとしておいてくれたらしい。
みんなの優しさに感謝しつつ、俺も馬車をおりた。
「我々は一旦引き上げる。君たちがまたランシュノー王国へ戻るときは、喜んで迎えに来よう」
「ありがとうございます、セルディオス殿下。まずはここで大切な人を取り戻すことから始めようと思います。それから、どうするかを考えてみます」
「ああ。召喚士殿の道が明るく照らされるよう、祈っている」
セルディオス殿下と馬車を見送ってから、俺たちは聖地アウルレーンへ足を踏み入れる。
森の中にひっそりと存在している聖地は、ランシュノー王国で許しを得たものではないと入れないらしい。
何も知らない者が迷い込むと、同じ場所をぐるぐると回り続けてしまうそうだ。
ファーが空中に手をかざすと、淡い光が輝いて入り口が開かれた。
「へえ。ずいぶんと空気がうまい場所だな」
「ここは聖地。悪しき者は足を踏み入れることができない場所です」
ファーの案内でゆっくりと歩いていくが、しんとしていてとても静かな場所だ。
イーラの言う通り、澄んだ空気が心地よい。
「イーラが入れるくらいならば、優しい結界だろうがな。しかし、ここは神殿のように見えるが……」
サフィシュの嫌味にも笑って流すイーラだったけれど、ファーは少し反応に困っているようだ。
俺も辺りを見回してみたけれど、白い石でできている神殿のような建物には植物が這っていて長い間手入れされていないように見える。
ここに夢見の守り人がいるはずだけれど、一体どこにいるのだろう?
「神殿ではなく、夢見の守り人が住んでいるのは湖のほとりにある小屋だと言われています。わたしも子どもの頃に連れてきてもらったことはあるのですが……」
「神殿を守る存在なのに、神殿に住んでいるわけではないのか……」
俺の言葉に同意するように、ファーが頷く。
「神殿の中に入れるのは、召喚士だけと言われています。そして、その中で過ごせるのも召喚士と真に心を通わせた者のみだそうです」
「じゃあ、俺様は余裕だな」
「お前、わざと言っているだろう?」
イーラがふざけるのは、サフィシュをからかうためなのかそれとも俺たちの間の空気を和らげようとしてくれているのか。
どちらなのかは分からないけれど、イーラの存在は俺にとってもありがたいのは確かだ。
「わたしも皆さんに早く溶け込めるように頑張りますね。あちらに見える湖がそうです」
湖は穏やかな湖面をたたえていて美しい。
静けさと湖に心を癒されながら、そのほとりにひっそりとたたずんでいる小屋に全員で近づいていく。
質素だがしっかりとした作りの小屋の前に立つと、少し緊張してきた。
ファーが扉を叩くと、ゆっくりと扉が開かれていく。
「小さな小屋に大人数で。我に何の用だ?」
「あなたがアムリラ様でしょうか? 私はランシュノー王国の第二王子、ファルリオラ・ル・ランシュノーです。あなたにお願いがあってまいりました」
顔を出した人は新緑の長い髪と浅葱色という少し緑色を帯びた薄い青色の瞳の耳の長いエルフだった。
エルフは美しい容姿を持っていると言われているが、目を奪われる美しさだ。
「我を求めるということは、夢渡りの力を必要としているということか。なるほど……木々がざわついていたのは、そなたの存在を教えていたのだな」
アムリラ様と呼ばれたエルフは俺を静かに見つめている。
俺は一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。
「俺は召喚士のリサイル・サモナードと申します。アムリラ様のお力をお借りしたいのです」
「召喚士……久しいな。我のことを敬う必要はない。我は召喚士に召喚され、この地を守るようにと頼まれたのだ」
「もしかして……ご先祖様に?」
「そなたと同じ銀の髪を持つ者、名はルナリオル。瞳の色まで似ているな」
俺とご先祖様の見た目が似ている?
嬉しいけれど、俺が本当にご先祖様に似ているのだろうかという疑ってしまう気持ちもある。
しかし、俺の動揺は気にした様子もなく、アムリラは言葉を続けた。
「彼の者は紺青色。深い青に紫が混じる色だったと記憶している。我はアムリラ。古代から存在するエルフであり、時に取り残された不死者だ」
ご先祖様の名前まで知ることができて驚いていると同時に、アムリラの不死者という言葉を聞いて緊張感が増した気がする。
しかしアムリラは変わらぬ表情のまま、入れと一言だけ告げて俺たちを中へうながした。
+++
俺とファーでエディのことを含めた事情を簡単に説明すると、アムリラは静かに頷いてくれた。
「いいだろう。我は聖地を守る者であり、ルナリオル……我はルーナと呼んでいたが――ルーナとは悠久の友人。その子孫の悲しみはルーナの悲しみでもある」
ルーナと呼んだご先祖様とは悠久の友人……伝説の召喚士と呼ばれたルナリオル様にとってのアムリラは俺にとってのエディのような存在?
愛称で呼び合うほど、深い絆で結ばれた者同士……ということだろうか?
俺たちは頷き合い、すぐに夢渡りをしてもらうことにした。
アムリラに言われた通りに木の椅子へ腰かけて、静かに目を閉じた。
「では、始めるぞ」
アムリラの透き通るような声が頭の中へ響き渡る。
その言語は聞いたことのない未知の言語だったけれど、聞いているうちに不思議と眠くなってくる。
夢渡りというだけあって、夢を見るように記憶をたどれるのだろうか?
「――その身を、ゆだねよ」
アムリラの最後の一言だけ聞き取れたが、その言葉とともに俺は眠りの世界へ落ちていった。
俺がうとうとして寝ている間も、誰も俺を起こそうとはせずにそっとしておいてくれたらしい。
みんなの優しさに感謝しつつ、俺も馬車をおりた。
「我々は一旦引き上げる。君たちがまたランシュノー王国へ戻るときは、喜んで迎えに来よう」
「ありがとうございます、セルディオス殿下。まずはここで大切な人を取り戻すことから始めようと思います。それから、どうするかを考えてみます」
「ああ。召喚士殿の道が明るく照らされるよう、祈っている」
セルディオス殿下と馬車を見送ってから、俺たちは聖地アウルレーンへ足を踏み入れる。
森の中にひっそりと存在している聖地は、ランシュノー王国で許しを得たものではないと入れないらしい。
何も知らない者が迷い込むと、同じ場所をぐるぐると回り続けてしまうそうだ。
ファーが空中に手をかざすと、淡い光が輝いて入り口が開かれた。
「へえ。ずいぶんと空気がうまい場所だな」
「ここは聖地。悪しき者は足を踏み入れることができない場所です」
ファーの案内でゆっくりと歩いていくが、しんとしていてとても静かな場所だ。
イーラの言う通り、澄んだ空気が心地よい。
「イーラが入れるくらいならば、優しい結界だろうがな。しかし、ここは神殿のように見えるが……」
サフィシュの嫌味にも笑って流すイーラだったけれど、ファーは少し反応に困っているようだ。
俺も辺りを見回してみたけれど、白い石でできている神殿のような建物には植物が這っていて長い間手入れされていないように見える。
ここに夢見の守り人がいるはずだけれど、一体どこにいるのだろう?
「神殿ではなく、夢見の守り人が住んでいるのは湖のほとりにある小屋だと言われています。わたしも子どもの頃に連れてきてもらったことはあるのですが……」
「神殿を守る存在なのに、神殿に住んでいるわけではないのか……」
俺の言葉に同意するように、ファーが頷く。
「神殿の中に入れるのは、召喚士だけと言われています。そして、その中で過ごせるのも召喚士と真に心を通わせた者のみだそうです」
「じゃあ、俺様は余裕だな」
「お前、わざと言っているだろう?」
イーラがふざけるのは、サフィシュをからかうためなのかそれとも俺たちの間の空気を和らげようとしてくれているのか。
どちらなのかは分からないけれど、イーラの存在は俺にとってもありがたいのは確かだ。
「わたしも皆さんに早く溶け込めるように頑張りますね。あちらに見える湖がそうです」
湖は穏やかな湖面をたたえていて美しい。
静けさと湖に心を癒されながら、そのほとりにひっそりとたたずんでいる小屋に全員で近づいていく。
質素だがしっかりとした作りの小屋の前に立つと、少し緊張してきた。
ファーが扉を叩くと、ゆっくりと扉が開かれていく。
「小さな小屋に大人数で。我に何の用だ?」
「あなたがアムリラ様でしょうか? 私はランシュノー王国の第二王子、ファルリオラ・ル・ランシュノーです。あなたにお願いがあってまいりました」
顔を出した人は新緑の長い髪と浅葱色という少し緑色を帯びた薄い青色の瞳の耳の長いエルフだった。
エルフは美しい容姿を持っていると言われているが、目を奪われる美しさだ。
「我を求めるということは、夢渡りの力を必要としているということか。なるほど……木々がざわついていたのは、そなたの存在を教えていたのだな」
アムリラ様と呼ばれたエルフは俺を静かに見つめている。
俺は一歩前へ出て、丁寧に頭を下げた。
「俺は召喚士のリサイル・サモナードと申します。アムリラ様のお力をお借りしたいのです」
「召喚士……久しいな。我のことを敬う必要はない。我は召喚士に召喚され、この地を守るようにと頼まれたのだ」
「もしかして……ご先祖様に?」
「そなたと同じ銀の髪を持つ者、名はルナリオル。瞳の色まで似ているな」
俺とご先祖様の見た目が似ている?
嬉しいけれど、俺が本当にご先祖様に似ているのだろうかという疑ってしまう気持ちもある。
しかし、俺の動揺は気にした様子もなく、アムリラは言葉を続けた。
「彼の者は紺青色。深い青に紫が混じる色だったと記憶している。我はアムリラ。古代から存在するエルフであり、時に取り残された不死者だ」
ご先祖様の名前まで知ることができて驚いていると同時に、アムリラの不死者という言葉を聞いて緊張感が増した気がする。
しかしアムリラは変わらぬ表情のまま、入れと一言だけ告げて俺たちを中へうながした。
+++
俺とファーでエディのことを含めた事情を簡単に説明すると、アムリラは静かに頷いてくれた。
「いいだろう。我は聖地を守る者であり、ルナリオル……我はルーナと呼んでいたが――ルーナとは悠久の友人。その子孫の悲しみはルーナの悲しみでもある」
ルーナと呼んだご先祖様とは悠久の友人……伝説の召喚士と呼ばれたルナリオル様にとってのアムリラは俺にとってのエディのような存在?
愛称で呼び合うほど、深い絆で結ばれた者同士……ということだろうか?
俺たちは頷き合い、すぐに夢渡りをしてもらうことにした。
アムリラに言われた通りに木の椅子へ腰かけて、静かに目を閉じた。
「では、始めるぞ」
アムリラの透き通るような声が頭の中へ響き渡る。
その言語は聞いたことのない未知の言語だったけれど、聞いているうちに不思議と眠くなってくる。
夢渡りというだけあって、夢を見るように記憶をたどれるのだろうか?
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