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第五章 夢と記憶
61.確かめ合う
俺はその身体に飛び込んだまま自然と泣いていた。
子どものように泣きじゃくっていると、仕方ありませんねという声と共に黒い身体が光りはじめた。
その姿は、俺が別れたときのままの姿だった。
エディは人間の姿に変化してくれた。
血はついていなかったけれど、俺を助けてくれたエディそのものだ。
「私を召喚してくださったということは、私との出会いを思い出したのですね?」
「ああ……でも、自分の力じゃ……なくって。夢渡りで……っ」
「全く、子どものように泣いてばかりですね。ここはどうやら時間の流れも外と少し違うようです。私が眠っていた間のことをゆっくりと聞きましょうか」
「ん……分かった」
エディは俺を優しくなでると、そのまま身体を抱き上げた。
俺は甘えるように体重をあずけ、心地良い揺れに身を任せた。
+++
神殿の中にあった一室は、外から見えるのと違って生活感のある部屋だった。
白いベッドと机が置いてあり、丸く切り取られた壁から柔らかな風が入ってくる少し広めの部屋だ。
城の客室のようでもあり、上質な宿の一室でもあるようでもある。
なぜか食べ物や飲み物まで置いてあり、エディに調べてもらうと今でも普通に口にできるということだった。
エディに紅茶を淹れてもらうと、俺も心を落ち着けて話すことができた。
今までのことを説明すると、エディは静かに頷いてまた紅茶を注いでくれる。
「リサイル様が無事で本当に良かった。でないと私が力を全て使った意味がありませんから」
「エディのおかげで、俺は怪我一つなかった。その……俺も暴走したけれど」
俺が苦笑すると、エディも柔らかく微笑んでくれた。
エディがそばにいるということで夢のようなのに、俺はエディを見つめているだけで胸が高鳴ってしまう。
「私を再度呼び出したのは、また従者としてあなたの世話をさせるためでしょうか?」
エディが問う。もちろん、そばにいてもらえるだけで嬉しい。
けれど……俺の気持ちは――
「それも……嬉しい。けれど……俺が望むのは……」
俺は紅茶のカップを置く。
そして、顔をあげてエディをじっと見つめた。
赤紫の瞳は、前と同じように俺だけを見てくれている。
「移動しましょう。こちらでお話を聞いた方が良い気がします」
エディはどこか楽しそうな笑みを浮かべて俺の手を取ると、ゆっくりと俺を導いていく。
俺はベッドの上に座らされた。
エディは俺の手を握ったまま、俺の言葉を静かに待ってくれていた。
「エディが消える瞬間、エディの心の声が聞こえた気がしたんだ。愛しています……って。それは俺が求めていた願望なのかもしれない。けれど……その声は俺の心に静かに響いて……心の中へ広がっていった」
エディは何も言わず、俺の言葉を静かに聞いてくれていた。
俺はエディを見上げて、言葉を続ける。
「エディが消えてしまった事実に絶望した。一緒に消えてしまいたかったと思った。けれど……それ以上にエディに会いたくてたまらなかった。俺は……俺が触れられたいのはエディだけだ」
俺は握られたままの手を自分の頬に当て、すり寄せる。
この手だ。この優しい温もりに……甘えていたい。
「エディ……俺は、エディのことが好きだ。従者としてではなく、エディが好きなんだ。もう、離れたくない。ずっと……ずっと俺のそばにいてほしい。あの時、聞こえた声が願望でも何でも構わない。俺は……」
俺はどうして気づかなかったのだろう?
いつも近くにいてくれたから? それとも……。
やっと気づけた自分の気持ちを全て伝えた瞬間、ベッドの上に押し倒されていた。
エディは俺を逃さないと言わんばかりに、俺の手首を握って拘束する。
赤紫の瞳は俺だけを捕らえて離さない。
普段は感情を表に出さないくせに、その瞳はエディの気持ちを雄弁に語っている。
端正な顔立ちはいつも通りなのに、瞳の中だけ炎が灯っているようだ。
「やっとあなたを私だけのものにできますね。この日をどれだけ待ちわびたことか」
「今まで気づかなくて……ごめん。どうしてずっとそばにいてくれたのか、その理由をもっと考えるべきだった」
「あなたは悪くありません。私も最初は興味本位だったので、気まぐれの暇つぶし程度のつもりでした。それなのに……今はあなたの全てを自分のものにしたい」
ゴクリと喉がなる。俺のことを優先してくれていたのは分かっていたし、従者としてエディはいつも完璧だった。
落ちこぼれだった俺にも罵声を浴びせることもなく、だからといって甘やかすわけでもない。
ただ、静かに辛抱強く隣に寄り添ってくれていた。
良かった。あの時、エディが消えてしまう前に聞こえた声は……本物だったんだ。
俺は、それが嬉しかったんだ。
だから……今、俺がエディに渡せるものは一つしかない。
エディが俺の全てをと望むのならば、俺はそれに答えたい。
「……いいよ。許す。俺は、全てを差し出す」
俺はエディに全てを委ねて、目を閉じる。
優しい吐息と共に笑う声が聞こえた。
拘束されていたはずの手首は自由になり、エディの大きな手で俺の両手が握られる。
軋むベッドの音が聞こえる。
エディの身体が覆いかぶさってきたのだろう。
「それでは、遠慮なく」
エディの甘い声で囁かれると同時に、ゆっくりと唇が奪われた。
確かめるようなキスは何度も繰り返され、そして次第に深くなっていく。
俺は少しの喪失感と共に身体がほてってくるのが分かり、体温が増しているようだ。
奪われているのに、与えられている。
奇妙な感覚だ。
ダメだ、だんだんふわふわしてきて意識がぼんやりしてくる。
与えられる熱から逃れることは許されず、俺の思考は途切れていった。
子どものように泣きじゃくっていると、仕方ありませんねという声と共に黒い身体が光りはじめた。
その姿は、俺が別れたときのままの姿だった。
エディは人間の姿に変化してくれた。
血はついていなかったけれど、俺を助けてくれたエディそのものだ。
「私を召喚してくださったということは、私との出会いを思い出したのですね?」
「ああ……でも、自分の力じゃ……なくって。夢渡りで……っ」
「全く、子どものように泣いてばかりですね。ここはどうやら時間の流れも外と少し違うようです。私が眠っていた間のことをゆっくりと聞きましょうか」
「ん……分かった」
エディは俺を優しくなでると、そのまま身体を抱き上げた。
俺は甘えるように体重をあずけ、心地良い揺れに身を任せた。
+++
神殿の中にあった一室は、外から見えるのと違って生活感のある部屋だった。
白いベッドと机が置いてあり、丸く切り取られた壁から柔らかな風が入ってくる少し広めの部屋だ。
城の客室のようでもあり、上質な宿の一室でもあるようでもある。
なぜか食べ物や飲み物まで置いてあり、エディに調べてもらうと今でも普通に口にできるということだった。
エディに紅茶を淹れてもらうと、俺も心を落ち着けて話すことができた。
今までのことを説明すると、エディは静かに頷いてまた紅茶を注いでくれる。
「リサイル様が無事で本当に良かった。でないと私が力を全て使った意味がありませんから」
「エディのおかげで、俺は怪我一つなかった。その……俺も暴走したけれど」
俺が苦笑すると、エディも柔らかく微笑んでくれた。
エディがそばにいるということで夢のようなのに、俺はエディを見つめているだけで胸が高鳴ってしまう。
「私を再度呼び出したのは、また従者としてあなたの世話をさせるためでしょうか?」
エディが問う。もちろん、そばにいてもらえるだけで嬉しい。
けれど……俺の気持ちは――
「それも……嬉しい。けれど……俺が望むのは……」
俺は紅茶のカップを置く。
そして、顔をあげてエディをじっと見つめた。
赤紫の瞳は、前と同じように俺だけを見てくれている。
「移動しましょう。こちらでお話を聞いた方が良い気がします」
エディはどこか楽しそうな笑みを浮かべて俺の手を取ると、ゆっくりと俺を導いていく。
俺はベッドの上に座らされた。
エディは俺の手を握ったまま、俺の言葉を静かに待ってくれていた。
「エディが消える瞬間、エディの心の声が聞こえた気がしたんだ。愛しています……って。それは俺が求めていた願望なのかもしれない。けれど……その声は俺の心に静かに響いて……心の中へ広がっていった」
エディは何も言わず、俺の言葉を静かに聞いてくれていた。
俺はエディを見上げて、言葉を続ける。
「エディが消えてしまった事実に絶望した。一緒に消えてしまいたかったと思った。けれど……それ以上にエディに会いたくてたまらなかった。俺は……俺が触れられたいのはエディだけだ」
俺は握られたままの手を自分の頬に当て、すり寄せる。
この手だ。この優しい温もりに……甘えていたい。
「エディ……俺は、エディのことが好きだ。従者としてではなく、エディが好きなんだ。もう、離れたくない。ずっと……ずっと俺のそばにいてほしい。あの時、聞こえた声が願望でも何でも構わない。俺は……」
俺はどうして気づかなかったのだろう?
いつも近くにいてくれたから? それとも……。
やっと気づけた自分の気持ちを全て伝えた瞬間、ベッドの上に押し倒されていた。
エディは俺を逃さないと言わんばかりに、俺の手首を握って拘束する。
赤紫の瞳は俺だけを捕らえて離さない。
普段は感情を表に出さないくせに、その瞳はエディの気持ちを雄弁に語っている。
端正な顔立ちはいつも通りなのに、瞳の中だけ炎が灯っているようだ。
「やっとあなたを私だけのものにできますね。この日をどれだけ待ちわびたことか」
「今まで気づかなくて……ごめん。どうしてずっとそばにいてくれたのか、その理由をもっと考えるべきだった」
「あなたは悪くありません。私も最初は興味本位だったので、気まぐれの暇つぶし程度のつもりでした。それなのに……今はあなたの全てを自分のものにしたい」
ゴクリと喉がなる。俺のことを優先してくれていたのは分かっていたし、従者としてエディはいつも完璧だった。
落ちこぼれだった俺にも罵声を浴びせることもなく、だからといって甘やかすわけでもない。
ただ、静かに辛抱強く隣に寄り添ってくれていた。
良かった。あの時、エディが消えてしまう前に聞こえた声は……本物だったんだ。
俺は、それが嬉しかったんだ。
だから……今、俺がエディに渡せるものは一つしかない。
エディが俺の全てをと望むのならば、俺はそれに答えたい。
「……いいよ。許す。俺は、全てを差し出す」
俺はエディに全てを委ねて、目を閉じる。
優しい吐息と共に笑う声が聞こえた。
拘束されていたはずの手首は自由になり、エディの大きな手で俺の両手が握られる。
軋むベッドの音が聞こえる。
エディの身体が覆いかぶさってきたのだろう。
「それでは、遠慮なく」
エディの甘い声で囁かれると同時に、ゆっくりと唇が奪われた。
確かめるようなキスは何度も繰り返され、そして次第に深くなっていく。
俺は少しの喪失感と共に身体がほてってくるのが分かり、体温が増しているようだ。
奪われているのに、与えられている。
奇妙な感覚だ。
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