召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

文字の大きさ
62 / 74
第五章 夢と記憶

61.確かめ合う

 俺はその身体に飛び込んだまま自然と泣いていた。
 子どものように泣きじゃくっていると、仕方ありませんねという声と共に黒い身体が光りはじめた。

 その姿は、俺が別れたときのままの姿だった。
 エディは人間の姿に変化してくれた。
 血はついていなかったけれど、俺を助けてくれたエディそのものだ。

「私を召喚してくださったということは、私との出会いを思い出したのですね?」
「ああ……でも、自分の力じゃ……なくって。夢渡りで……っ」
「全く、子どものように泣いてばかりですね。ここはどうやら時間の流れも外と少し違うようです。私が眠っていた間のことをゆっくりと聞きましょうか」
「ん……分かった」

 エディは俺を優しくなでると、そのまま身体を抱き上げた。
 俺は甘えるように体重をあずけ、心地良い揺れに身を任せた。

 +++

 神殿の中にあった一室は、外から見えるのと違って生活感のある部屋だった。
 白いベッドと机が置いてあり、丸く切り取られた壁から柔らかな風が入ってくる少し広めの部屋だ。
 城の客室のようでもあり、上質な宿の一室でもあるようでもある。
 なぜか食べ物や飲み物まで置いてあり、エディに調べてもらうと今でも普通に口にできるということだった。
 
 エディに紅茶を淹れてもらうと、俺も心を落ち着けて話すことができた。
 今までのことを説明すると、エディは静かに頷いてまた紅茶を注いでくれる。

「リサイル様が無事で本当に良かった。でないと私が力を全て使った意味がありませんから」
「エディのおかげで、俺は怪我一つなかった。その……俺も暴走したけれど」

 俺が苦笑すると、エディも柔らかく微笑んでくれた。
 エディがそばにいるということで夢のようなのに、俺はエディを見つめているだけで胸が高鳴ってしまう。
 
「私を再度呼び出したのは、また従者としてあなたの世話をさせるためでしょうか?」

 エディが問う。もちろん、そばにいてもらえるだけで嬉しい。
 けれど……俺の気持ちは――

「それも……嬉しい。けれど……俺が望むのは……」

 俺は紅茶のカップを置く。
 そして、顔をあげてエディをじっと見つめた。
 赤紫の瞳は、前と同じように俺だけを見てくれている。

「移動しましょう。こちらでお話を聞いた方が良い気がします」

 エディはどこか楽しそうな笑みを浮かべて俺の手を取ると、ゆっくりと俺を導いていく。
 俺はベッドの上に座らされた。
 エディは俺の手を握ったまま、俺の言葉を静かに待ってくれていた。

「エディが消える瞬間、エディの心の声が聞こえた気がしたんだ。愛しています……って。それは俺が求めていた願望なのかもしれない。けれど……その声は俺の心に静かに響いて……心の中へ広がっていった」

 エディは何も言わず、俺の言葉を静かに聞いてくれていた。
 俺はエディを見上げて、言葉を続ける。

「エディが消えてしまった事実に絶望した。一緒に消えてしまいたかったと思った。けれど……それ以上にエディに会いたくてたまらなかった。俺は……俺が触れられたいのはエディだけだ」

 俺は握られたままの手を自分の頬に当て、すり寄せる。
 この手だ。この優しい温もりに……甘えていたい。

「エディ……俺は、エディのことが好きだ。従者としてではなく、エディが好きなんだ。もう、離れたくない。ずっと……ずっと俺のそばにいてほしい。あの時、聞こえた声が願望でも何でも構わない。俺は……」

 俺はどうして気づかなかったのだろう?
 いつも近くにいてくれたから? それとも……。
 やっと気づけた自分の気持ちを全て伝えた瞬間、ベッドの上に押し倒されていた。
 エディは俺を逃さないと言わんばかりに、俺の手首を握って拘束する。

 赤紫の瞳は俺だけを捕らえて離さない。
 普段は感情を表に出さないくせに、その瞳はエディの気持ちを雄弁に語っている。
 端正な顔立ちはいつも通りなのに、瞳の中だけ炎が灯っているようだ。

「やっとあなたを私だけのものにできますね。この日をどれだけ待ちわびたことか」
「今まで気づかなくて……ごめん。どうしてずっとそばにいてくれたのか、その理由をもっと考えるべきだった」
「あなたは悪くありません。私も最初は興味本位だったので、気まぐれの暇つぶし程度のつもりでした。それなのに……今はあなたの全てを自分のものにしたい」

 ゴクリと喉がなる。俺のことを優先してくれていたのは分かっていたし、従者としてエディはいつも完璧だった。
 落ちこぼれだった俺にも罵声を浴びせることもなく、だからといって甘やかすわけでもない。
 ただ、静かに辛抱強く隣に寄り添ってくれていた。

 良かった。あの時、エディが消えてしまう前に聞こえた声は……本物だったんだ。
 俺は、それが嬉しかったんだ。
 
 だから……今、俺がエディに渡せるものは一つしかない。
 エディが俺の全てをと望むのならば、俺はそれに答えたい。

「……いいよ。許す。俺は、全てを差し出す」

 俺はエディに全てを委ねて、目を閉じる。
 優しい吐息と共に笑う声が聞こえた。
 拘束されていたはずの手首は自由になり、エディの大きな手で俺の両手が握られる。
 
 きしむベッドの音が聞こえる。
 エディの身体が覆いかぶさってきたのだろう。

「それでは、遠慮なく」

 エディの甘い声で囁かれると同時に、ゆっくりと唇が奪われた。
 確かめるようなキスは何度も繰り返され、そして次第に深くなっていく。
 俺は少しの喪失感と共に身体がほてってくるのが分かり、体温が増しているようだ。

 奪われているのに、与えられている。
 奇妙な感覚だ。
 
 ダメだ、だんだんふわふわしてきて意識がぼんやりしてくる。
 与えられる熱から逃れることは許されず、俺の思考は途切れていった。
感想 71

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
※未完 4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。