召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第六章 世界の綻び

70.アトラズール大空洞

 サフィシュが結界を解くと、セルディオス殿下が俺たちのそばに来てくれた。
 レイディスも仕方なくといった空気で、俺の身体を解放してくれる。

「召喚士殿たちの連携した動き、我々も見習うべきものだった。あの苦戦したゴーレムたちを……見事だ」
「みんなの力を合わせることができたからこそです。セルディオス殿下、俺たちはこのままアトラズール大空洞の中へ入ります。外にあふれている魔物たちをお願いいたします」

 俺が丁寧に頭を下げると、セルディオス殿下は騎士として俺に対して最敬礼の体勢を取る。
 周りの騎士たちも同じ体勢になったので、俺は慌てて手を振った。

「兄上、騎士たちの傷も癒しました。今はわたしたちも国同士で手を取り合うべき時。後ろに兄上たちがいてくだされば心強いです」
「ファー、助かった。お前の信頼を裏切らぬよう必ずやこの場で魔物を食い止めてみせよう。我々も騎士の誇りにかけて、必ずや敵をせん滅してみせる。行くぞ!」

 セルディオス殿下が高々と剣を天に突きあげると、周りの騎士たちも声を上げて剣を天に突きあげた。
 そして、気を付けるのだぞと言い残して、セルディオス殿下たちも後方の魔物の群れの方へ向かっていった。

 「あっちの殿下はまだまだやる気みたいだな。まあ、魔物の群れもなんとかなるだろ。俺様たちもさっさと終わらせようぜ」
「ああ。行こう」

 イーラとサフィシュの言葉で俺たちも頷き合い、急ぎ大空洞の中へと突き進む。

 +++

 薄暗い大空洞の中は、外の騒がしさが嘘のように静まり返っている。
 この静けさが、逆に寒気を呼ぶ気がする。

「なーんか嫌な空気だな」
「確かに……まとわりつく空気が気持ち悪くなる気がします」

 イーラが気だるそうに呟くと、ファーは身体をちぢこめる。
 緊張しながら奥へ進んでいくと、レイディスが何かを察知したように俺をかばうように抱きしめる。

「……来る。サフィシュ!」
「ついに呼び捨てか? それも構わないがな!」

 レイディスの声と同時に、真っ黒な何かが奥から溢れ出してくる。
 もやのようなそれは、触れてはならないと本能的に感じる不快なものだ。
 サフィシュが反射的に結界を張り巡らせたおかげで、黒いもやに触れずに済んだ。

「これに触れることは許されません。精神を操られます」
「もしかして、この黒いもやが魔物たちを活性化させている……?」

 俺が推測を呟くと、レイディスが頷く。
 触れるだけで危ういものをどうすればいいのだろうか?
 緊張感が高まり、背筋に一筋の汗が流れ落ちる。

「世界のほころびから漏れ出している黒いもやのようなもの。それは、外界の者がこの世界へ入りたいと願う心が変異した悪意です」
「悪意……そのせいで魔物たちも群れて騒ぎだしているということか」

 レイディスの説明にサフィシュが呟きを返すと、レイディスも肯定するように話を続ける。
 
「悪意が、触れたものを悪しき者へ変ぼうさせるのです。そのため、ここは封印されていたはずなのですが……」
「その封印が解けてしまったなら……再封印して悪意を止めないと!」
「はい。そうすれば異変は収まります。ただ、止めるためには私たちも悪意に近づかなくてはならないのです。純粋な魔力をぶつければ……それが再封印となるでしょう」

 レイディスの言うことは理解できるけれど、一切触れてはならないというのはかなりの危険がともなう。
 もし、みんなが触れてしまったら……俺の不安な思いが伝わったのか、豪快に笑い飛ばす声が空洞内に響く。

「俺様は呪われてたところを助けてもらってるんだ。今更悪意だろうが関係ねえ。その時はリーサちゃんにまた魔法をぶつけてもらえばいいだろ」
「イーラ……」
「わたしもみなさんをいやします。浄化もできますのでご安心を」
「心配することなど何もない。悪意などオレの結界がある限り、通しはしない」

 不安を吹き飛ばすように、みんなが俺を支えてくれている。
 レイディスは俺を安心させるように俺の手を取って軽く握りこんでくれる。

「リサイル様は心のままに進んでください。私があなたを必ずお守りいたします」
「ユッ」
「あたしも頑張ります!」
「……モッ」

 召喚獣のみんなとレイディス……みんな俺のそばで支えてくれる。
 そして、俺の思う通りにと応援してくれている。
 だったら俺も……召喚士としてみんなを導く存在にならないとな。

「ありがとう、みんな。危険だけれど……このまま進もう。世界の綻びへ!」

 全員と心が繋がる感覚が増した気がする。
 最初はレイディスだけの繋がりだったのに、俺の周りには心強い味方がたくさんいる。
 そして……今も変わらず俺だけのために俺を必ず守ると誓ってくれた人がいる。
 
 俺が今することは、迷うことではない。
 正しいと思う道を、突き進むことだ。
 俺は大きく息を吸い込んで、進むべき道を見つめる。
 
 俺たちはアトラズール大空洞の最深部を目指して、歩き出す。
 薄暗い道をひたすら進み続ける。

 そして――最深部へたどり着いた。
 そこは開けた場所でありながら、悪意が渦巻いていて息苦しさを感じる場所だ。
 サフィシュも苦しそうにしながら、結界を張り続けてくれている。

「癒しの光よ――」
 
 ファーの優しい光が辺りを照らすと、俺たちの周りの悪意が払われていく。
 おかげで少し呼吸が楽になった。
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