召喚士一族の落ちこぼれ長男なのに、過保護な従者が離してくれません!

楓乃めーぷる

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第六章 世界の綻び

71.深く繋がる想い

 目に見えても分かるもやの濃さだけれど、ファーのいやしの力のおかげで視界が確保された。
 レイディスが黒いもやの奥を、スッと腕を伸ばして指し示す。

「あれが、世界のほころびです。神が創った世界に入り込めなかった、哀れな者たちの成れの果てです」

 レイディスが示した場所は、地面に亀裂が走っていた。
 亀裂の奥は真っ黒で、触れたものを引きずり込みそうな深い闇が覗いている。
 
「よし、さっさと塞いじまえば終わりだろ? だったらお前らの息ピッタリなところを見せつけてもらえば……」

 イーラが言いかけた瞬間、黒いもやが動いて俺たちに襲い掛かろうとする。
 レイディスが手のひらを前に出してせまってきた黒いもやを吹き飛ばすと、恨めしい声が耳にこびりつく気がした。

「あれは、同情する余地がないもの。外界も穏やかな場所だと言います。ですので、外界に押し戻したほうが悪意にとっても幸せなはずです」
「……分かった。元いた場所へ――返そう」
 
 俺とレイディスで先ほどのように魔力を合わせようとすると、伏せろ! という声が聞こえた。
 結界を張っているサフィシュが叫んだということは、結界が破られるということか?

「残念ながら、はいそうですかと帰ってくれるわけじゃなさそうだぜ?」

 イーラが諦めと敵意を込めて放った声は、目の前に現れた異形に向けられていた。
 黒いもやが集まり、形になったもの。
 それは、大きなドラゴンのような形になる。
 今、このドラゴンが炎を吐くように黒いもやを放ったらしい。

「気に入りませんね。私たちと同じような形を取って強く見せようと?」
「俺様たちのことを強いと認めたってことか? 全く嬉しくないけどな」
「あなたと気が合うのは正直どうかと思いますが……今はあなたのその意見に賛成です」
 
 レイディスとイーラの意見があってしまうほどに、ドラゴンたちにとって不快な存在なのだろう。
 イーラはまた拳に炎をまとわせて、直接もやに触れないように拳圧でもやを散らしていく。

「オレがいる限り、ヤツの好きにはさせない。お前らはさっさと準備しろ」
「はい。わたしもイーラさんと共に戦います。いやしの力は、このもやには攻撃としても有効だと分かったので」

 サフィシュとファーに守ってもらいながら、俺とレイディスで吹き出すもやを追い出すための強い魔力を練り始める。
 先ほどと同じ要領で、杖の先に魔力を溜めていく。

「ちぃっ! 大人しくしてろ、このもやめ」
「動きが早いですね。こちらも相手の動きを見極めるのが難しそうです」
 
 イーラとファーが、俺たちに迫ろうとするドラゴンのもやを散らし続けているのにもやは染まれと言わんばかりに口元からもやを大量に吐き出してくる。

「ご主人さまっ!」
「みんなはあまり俺のそばから動かないで。マキーニャ……ありがとう」

 マキーニャは俺が言わなくても、サフィシュの結界の中でもう一つ俺を守る結界を張ってくれる。
 ユーアンも自分の意思で炎をぶつけ、モモモはもやを食べずに口から空気を吐き出してもやを払う手伝いをしてくれていた。

「うおっ! 急に向きを変えるのは反則だろうが!」
「イーラさん! 大丈夫ですか?」

 イーラの服にドラゴンが吐いたもやがかする。それだけで、服はボロっと散っていく。
 サフィシュの結界を一瞬貫通させるほどの力を放ったということだろうか?

「動かない者に対しては結界もかけやすいが、そう動き回れると結界が乱れる。イーラ、なるべく動くな」
「おい、無茶言うなって! こっちは引きつけて霧散させるだけで大変だってのによ」
「わたしの力でも、あのドラゴンの形のもやは全て消しきれません。お気をつけて!」

 三人のドラゴンたちでさえも苦戦しているらしい。
 もっと集中して、魔力を強く結びつけないと……!
 
 でも、焦りが出てしまうせいか先ほどよりうまくいかない。
 レイディスと心を一つにしたいのに、みんなのことが気になってしまって集中力が乱れてしまう。

「リサイル様、彼らなら心配いりません」
「分かってる。分かっているのに……」

 杖を持つ手が震えていることに気づく。緊張と不安で心が乱れてしまっている。
 レイディスに手を握られているはずなのに、その温もりですら俺にとっては足りないということなのだろうか?

「リサイル様、失礼します」
「え、何を……んむぅ」

 レイディスに頬に触れられたと思った瞬間、唇を奪われた。
 緊迫している状況なのに、俺はレイディスしか見えなくなる。

「ユッ?」
「ユーアン、見ないの!」
「……モ」

 召喚獣たちの声は聞こえたけれど、レイディスは更に深く口づけてくる。
 けれど……それだけじゃない。
 レイディスの魔力が、唇を通して送られてくるのが分かる。
 俺の指先に温かい力が通い、杖を持つ手に力が戻ってきた。

「はあ? おいおい……ここで見せつけてくるかぁ?」
「イーラさん、前を見てください! 前!」
「うおっ! おい、俺様の頭に汚いものを吐いてくるんじゃねえよ」

 イーラはイーラらしい反応をするから、少し笑ってしまった。
 それに対して真面目に返すファーが、めずらしく焦っているのも心を和ませる。

「なんでもいい。それで成功するなら、キスでも何でもしてしまえ。オレはすべきことをするだけだ。それが、ブルードラゴンの役割。青き知性の守りだ!」

 気恥ずかしさを押さえ、魔力をしっかりと集めていく。
 レイディスの舌でたっぷりと酔わされ、心もレイディスで染められたところで唇はゆっくりと離れていく。

「よくできました。あとは、放つだけです」
「ん……っ……分かった」

 俺は身体の熱も魔力に変換して、杖の先に全ての魔力を集中させる。
 そして――レイディスに身体を支えられたまま、共に魔力をドラゴンのもやへぶつけるように思いきり放った。
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