43 / 119
第六章 バグる距離感
40.正しい選択肢
しおりを挟む
この空気を何とかしないと、いたたまれない。
俺は必死になって辺りを見回す。
「そうだ。良かったら、お茶とかどうですか? イアリスから焼き菓子とお茶を分けてもらって……」
「ん……? あれ、ハルさん。もしかして、愛称の許可をもらったんですかぁ? ……あ、はい。そうですね。ラウディ様も」
「あ、ああ。さっきお茶をごちそうになったから、その時に……って。あの、グラウディ様?」
グラウディがじっとコッチを見ている気がした。さっきと違ってねっとりとするような視線。
まるで、俺を責めているような……少し怖い気配を感じる。
「ラウディ様、ダメですよぉ! ハルさんを怯えさせちゃダメです。ここは優しく……はい、そうですそうですー」
「え、モグ何を言って……」
モグが俺を見たり、グラウディを見たりと忙しそうだ。
何回か続けたあと、ニコっと俺に笑顔を向けてくれる。
「ハルさん、ラウディ様はお茶をするなら自分のことも愛称で呼んでほしいとおっしゃってますー」
「え、なんで? 俺、どちらかと言うと距離をおこう的なことを言ったような……」
「すみませんー。ラウディ様は一度言い出すとなかなか意見を曲げてくださらないので、あっしも困っちゃうんですよぉ。だから、ハルさん。お願いできますかぁ?」
モグに頼まれると嫌と言いづらい。けど、なんで内部好感度が上がってるんだ?
一番上がらない面倒な精霊のはずなのに、意味が分からない。
でも……このままじゃモグが泣いてしまいそうだ。俺もモグには泣いてほしくないんだけど……どうしよう?
俺は元いた世界に帰りたい。だから、グラウディと親しくなったらきっと悲しませてしまう。
それは……考えるだけで辛いことだと、心が苦しくなる。
「俺の記憶がもし戻ったら、今度はグラウディ様にも酷いことをしてしまうかもしれません。それでもいいのですか? 俺は、あなたを傷つけたくないんです」
「……」
こうなったら仕方ない。記憶喪失を利用して、納得してもらうしかない。
イアリスは理性的だから、俺がいなくなったところで傷つかないだろうけど……グラウディは違う。
この人は一度心を許した相手に裏切られた人だ。
俺はこれ以上、グラウディを傷つけたくない。
「グラウディ様はきっと優しい人だから。俺のことも気遣ってくれる。俺は今までの恩を仇で返したくないんです」
「ハルさん……そこまで、ラウディ様のことを考えて……」
グラウディとは距離を縮めてはいけない。
俺はここで選択肢を誤ってはだめだ。グラウディにはゆっくりと過ごして傷を癒してほしい。
だからこそ、いつかいなくなるかもしれない俺ではダメなんだ。
その時、俺たちの間に優しい風が吹き抜ける。
その風は俺とグラウディの間を通り、グラウディの髪をさらっていく。
一瞬顕になった表情は、悲しみと決意を含んだ美しいものだった。
俺を真摯に見つめる暗緑色の視線に射抜かれて、身体がピクリとも動かない。
「……」
「ラウディ様……! はい、そうですね。それでも貫かれるというならば、あっしはどこまでもお供しますよぉー」
二人の間で何か決まったのだろうか、モグは頷いてから俺の方をしっかりと見て口を開く。
「ハルさん、例え今のハルさんが消えてしまったとしても。ラウディ様は構わないと言ってます。その時は、自分がハルさんに今までのことをちゃんと伝えると」
「でも、俺は……」
「何事にもやる気も見せず、ただ流れる風のように過ごされていたラウディ様がここまで感情を取り戻されたのです。どんな結果になろうとも、ハルさんのおかげだとおっしゃってますよぉ」
俺が思っていた展開と真逆に進んでいるのは気のせいだろうか?
拒絶すればするほど、グラウディが迫ってくるような……。何だろう、この包囲されている感覚。
俺は何か違うスイッチを押してしまったのか?
俺は必死になって辺りを見回す。
「そうだ。良かったら、お茶とかどうですか? イアリスから焼き菓子とお茶を分けてもらって……」
「ん……? あれ、ハルさん。もしかして、愛称の許可をもらったんですかぁ? ……あ、はい。そうですね。ラウディ様も」
「あ、ああ。さっきお茶をごちそうになったから、その時に……って。あの、グラウディ様?」
グラウディがじっとコッチを見ている気がした。さっきと違ってねっとりとするような視線。
まるで、俺を責めているような……少し怖い気配を感じる。
「ラウディ様、ダメですよぉ! ハルさんを怯えさせちゃダメです。ここは優しく……はい、そうですそうですー」
「え、モグ何を言って……」
モグが俺を見たり、グラウディを見たりと忙しそうだ。
何回か続けたあと、ニコっと俺に笑顔を向けてくれる。
「ハルさん、ラウディ様はお茶をするなら自分のことも愛称で呼んでほしいとおっしゃってますー」
「え、なんで? 俺、どちらかと言うと距離をおこう的なことを言ったような……」
「すみませんー。ラウディ様は一度言い出すとなかなか意見を曲げてくださらないので、あっしも困っちゃうんですよぉ。だから、ハルさん。お願いできますかぁ?」
モグに頼まれると嫌と言いづらい。けど、なんで内部好感度が上がってるんだ?
一番上がらない面倒な精霊のはずなのに、意味が分からない。
でも……このままじゃモグが泣いてしまいそうだ。俺もモグには泣いてほしくないんだけど……どうしよう?
俺は元いた世界に帰りたい。だから、グラウディと親しくなったらきっと悲しませてしまう。
それは……考えるだけで辛いことだと、心が苦しくなる。
「俺の記憶がもし戻ったら、今度はグラウディ様にも酷いことをしてしまうかもしれません。それでもいいのですか? 俺は、あなたを傷つけたくないんです」
「……」
こうなったら仕方ない。記憶喪失を利用して、納得してもらうしかない。
イアリスは理性的だから、俺がいなくなったところで傷つかないだろうけど……グラウディは違う。
この人は一度心を許した相手に裏切られた人だ。
俺はこれ以上、グラウディを傷つけたくない。
「グラウディ様はきっと優しい人だから。俺のことも気遣ってくれる。俺は今までの恩を仇で返したくないんです」
「ハルさん……そこまで、ラウディ様のことを考えて……」
グラウディとは距離を縮めてはいけない。
俺はここで選択肢を誤ってはだめだ。グラウディにはゆっくりと過ごして傷を癒してほしい。
だからこそ、いつかいなくなるかもしれない俺ではダメなんだ。
その時、俺たちの間に優しい風が吹き抜ける。
その風は俺とグラウディの間を通り、グラウディの髪をさらっていく。
一瞬顕になった表情は、悲しみと決意を含んだ美しいものだった。
俺を真摯に見つめる暗緑色の視線に射抜かれて、身体がピクリとも動かない。
「……」
「ラウディ様……! はい、そうですね。それでも貫かれるというならば、あっしはどこまでもお供しますよぉー」
二人の間で何か決まったのだろうか、モグは頷いてから俺の方をしっかりと見て口を開く。
「ハルさん、例え今のハルさんが消えてしまったとしても。ラウディ様は構わないと言ってます。その時は、自分がハルさんに今までのことをちゃんと伝えると」
「でも、俺は……」
「何事にもやる気も見せず、ただ流れる風のように過ごされていたラウディ様がここまで感情を取り戻されたのです。どんな結果になろうとも、ハルさんのおかげだとおっしゃってますよぉ」
俺が思っていた展開と真逆に進んでいるのは気のせいだろうか?
拒絶すればするほど、グラウディが迫ってくるような……。何だろう、この包囲されている感覚。
俺は何か違うスイッチを押してしまったのか?
540
あなたにおすすめの小説
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる