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第六章 バグる距離感
55.連れて来られた先は
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アウレリオルはもう少しカティよりなのかと思っていたけど、最近はそうでもないのか?
もしくは元々厳しい性格だからなのかもしれない。
「カティ、お前はいつになったら礼儀を弁えることができるのだ? 我は何度も注意している。精霊として精霊使いの卵へ力を貸すことは義務だが、不真面目な者に力を貸すのは不愉快だ」
「不愉快だなんて……ヒドイ! ボクは一生懸命なのに!」
カティが泣き始めてしまったところで、ヴォルカングがよしよしと必死で宥め始める。
場の空気がなんだかしらけた気がした。
俺はもういなくても大丈夫そうだと判断して、軽く頭を下げる。
「では、俺はこれで失礼します」
「ハル、お疲れさまでした。また時間があれば私のところにも寄ってくださいね」
「ありがとうございます」
イアリスに社交辞令を述べると、急にグイっと腕を引っ張られた。
何事かと思って顔をあげると、暗緑色の瞳が髪の間から俺を見ていた。
「ラウディ?」
「ったく、ラウディのヤツ。相変わらずだな。俺様は優しいから今度にしといてやるよ。じゃあな、ハル」
シアンは前と同じようにひらりと手を振ってさっさと行ってしまった。
アウレリオルも気にした様子はなく、行けと目線で促された。
嘘泣きなのかよく分からないが、カティのことはヴォルカングが慰めているしアウレリオルが様子を見てくれるみたいだ。
「オレも行く」
イアリスと一緒にウィンも行ってしまった。
俺は相変わらずラウディに腕を掴まれたままだ。
「ラウディ、俺に何か用?」
「……っち」
「え?」
「……こっち」
ラウディは一言だけ、俺に向かって言葉を発した。
しゃべってくれたことに凄く驚いたけど、感想を言う前に引っ張られてしまうので何も言えない。
それに、何だか不機嫌そうだ。
意味が分からない。
「ラウディ、なんで俺は引っ張られてる訳?」
「……」
また、無言だ。
理由を教えて欲しいけど、これはついて行かないとダメそうだ。
中間報告の時は下級精霊はついてこないことになっているから、モグはきっと別の場所にいるのだろう。
「どこまで行くんだよ……って。ここは……」
神殿から連れて来られた場所は、森の中のどこかだ。
森の中を引っ張りまわされたせいで、道が分からない。
ここは大きな木の幹にぽっかりと開けられた穴がある不思議な場所で、確かラウディのお気に入りの場所の一つだ。
「ラウディ、どうしてここに? って、おい聞いてるのか」
俺はラウディに穴の中に押し込められる。
そして俺が出ようとする前に、ラウディも入ってきた。
男二人が入るには少し窮屈な空間なのに、ラウディは強引に俺に覆いかぶさるように身体をねじ込んできた。
「何がどうしたって? こんなところに押し込められてもこま……」
俺は言いかけた言葉を飲み込む。
想像以上に距離が近い。
この前の膝枕の時もそうだったけど、ラウディの距離の縮め方はおかしい。
確実に距離感がバグってる。
「近いって! もう少し離れろ。よく分かんないけど!」
「……嫌だ」
「は?」
「嫌だ」
今、嫌だってハッキリ言ったよな? しかも二度も。
ラウディが話してくれるイベントもあるのかもしれないけど、早くないか?
急展開すぎて、ついていけない。
「ラウディ、声出てるし。気づいてる? 俺に話しかけてるの分かる?」
俺が突っ込むと、ラウディは頷く。
ここまではいいけど、この状況がなんなのか俺から聞かなきゃいけないってことか。
解決しないと動けそうにないし、仕方ない。
「で、なんで俺はここに押し込まれた訳? 説明してくれないと分からないんだけど……言いづらいんだったら俺が聞くことに頷くか首振るか……」
「ハル……」
俺の言葉を遮るように、ラウディの声が耳をくすぐる。
俺を呼ぶこの声、聞き覚えがある。
「もしかして……この前、膝枕してた時も。俺の名前、呼んだ?」
俺が聞くと、ラウディは頷く。
色々言いたいことはあるんだけど、まずはどこから始めればいいのか……。
俺はこの近距離に耐えながら、ラウディに質問していくことにした。
もしくは元々厳しい性格だからなのかもしれない。
「カティ、お前はいつになったら礼儀を弁えることができるのだ? 我は何度も注意している。精霊として精霊使いの卵へ力を貸すことは義務だが、不真面目な者に力を貸すのは不愉快だ」
「不愉快だなんて……ヒドイ! ボクは一生懸命なのに!」
カティが泣き始めてしまったところで、ヴォルカングがよしよしと必死で宥め始める。
場の空気がなんだかしらけた気がした。
俺はもういなくても大丈夫そうだと判断して、軽く頭を下げる。
「では、俺はこれで失礼します」
「ハル、お疲れさまでした。また時間があれば私のところにも寄ってくださいね」
「ありがとうございます」
イアリスに社交辞令を述べると、急にグイっと腕を引っ張られた。
何事かと思って顔をあげると、暗緑色の瞳が髪の間から俺を見ていた。
「ラウディ?」
「ったく、ラウディのヤツ。相変わらずだな。俺様は優しいから今度にしといてやるよ。じゃあな、ハル」
シアンは前と同じようにひらりと手を振ってさっさと行ってしまった。
アウレリオルも気にした様子はなく、行けと目線で促された。
嘘泣きなのかよく分からないが、カティのことはヴォルカングが慰めているしアウレリオルが様子を見てくれるみたいだ。
「オレも行く」
イアリスと一緒にウィンも行ってしまった。
俺は相変わらずラウディに腕を掴まれたままだ。
「ラウディ、俺に何か用?」
「……っち」
「え?」
「……こっち」
ラウディは一言だけ、俺に向かって言葉を発した。
しゃべってくれたことに凄く驚いたけど、感想を言う前に引っ張られてしまうので何も言えない。
それに、何だか不機嫌そうだ。
意味が分からない。
「ラウディ、なんで俺は引っ張られてる訳?」
「……」
また、無言だ。
理由を教えて欲しいけど、これはついて行かないとダメそうだ。
中間報告の時は下級精霊はついてこないことになっているから、モグはきっと別の場所にいるのだろう。
「どこまで行くんだよ……って。ここは……」
神殿から連れて来られた場所は、森の中のどこかだ。
森の中を引っ張りまわされたせいで、道が分からない。
ここは大きな木の幹にぽっかりと開けられた穴がある不思議な場所で、確かラウディのお気に入りの場所の一つだ。
「ラウディ、どうしてここに? って、おい聞いてるのか」
俺はラウディに穴の中に押し込められる。
そして俺が出ようとする前に、ラウディも入ってきた。
男二人が入るには少し窮屈な空間なのに、ラウディは強引に俺に覆いかぶさるように身体をねじ込んできた。
「何がどうしたって? こんなところに押し込められてもこま……」
俺は言いかけた言葉を飲み込む。
想像以上に距離が近い。
この前の膝枕の時もそうだったけど、ラウディの距離の縮め方はおかしい。
確実に距離感がバグってる。
「近いって! もう少し離れろ。よく分かんないけど!」
「……嫌だ」
「は?」
「嫌だ」
今、嫌だってハッキリ言ったよな? しかも二度も。
ラウディが話してくれるイベントもあるのかもしれないけど、早くないか?
急展開すぎて、ついていけない。
「ラウディ、声出てるし。気づいてる? 俺に話しかけてるの分かる?」
俺が突っ込むと、ラウディは頷く。
ここまではいいけど、この状況がなんなのか俺から聞かなきゃいけないってことか。
解決しないと動けそうにないし、仕方ない。
「で、なんで俺はここに押し込まれた訳? 説明してくれないと分からないんだけど……言いづらいんだったら俺が聞くことに頷くか首振るか……」
「ハル……」
俺の言葉を遮るように、ラウディの声が耳をくすぐる。
俺を呼ぶこの声、聞き覚えがある。
「もしかして……この前、膝枕してた時も。俺の名前、呼んだ?」
俺が聞くと、ラウディは頷く。
色々言いたいことはあるんだけど、まずはどこから始めればいいのか……。
俺はこの近距離に耐えながら、ラウディに質問していくことにした。
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